51 物憂げな国の聖母
千宙と話したその帰り。思わぬ世界を知れて大満足な私達だった。空は少しずつ暗くなり始めている。手にはお土産の小鳥の絵、託されたガラスペン、まさかの記念品でガラスペンのインク(紺、黒の2つ)があった。
「楽しかったな~トア。お土産ももらっちゃったし。帰ったらこの絵飾ってやるからな」
「ウン!」
「そういや、少し小腹がすいたな~」
「ン?コバラ?」
「ちょっとお腹すいたって意味。そういえばトア、大福食べたことなかったよね?」
「アリスオネエチャン ヨクタベテタヤツ?」
「そう。買って帰るか!食べてみたいだろ?大福」
「ウン!!」
そんな楽しい会話が空では繰り広げられていた。その頃、例の大福屋では全く逆の雰囲気が漂っているとは知らずに。
「……」
あーあ。カイトいるかなって思って来たけど……来ないなぁ。多分大体いるとか言ってたのに。……1回会えなかっただけでなんでこんな感じになっちゃってるの私……せ、せっかく大福買えたのに?いつも通りじゃんこんなの。……でもなんか悲しいわ、1回会えなかっただけなのよ?うーーっもう!何なのよもう!どうしちゃったのよ私っ!しっかりしないと!カイトもきっと頑張っているんだか……ら……っ。
……私は気づいちゃいなかったわ、カイトがいないってだけで目から水が出ちゃってたことに。大げさよね、でも確かに。『傾城』って言う言葉をどっかで聞いたことがある。私もしかして今その状態??え?嘘でしょ??
「……あらあら、どうかなさいましたか?……涙が出ていますよ」
「……へ……?」
気づかなかった。目の前に誰かいたことに。こんな顔じゃそっち見れないよ……ぽ、ポップティアーズ使わないとっ……えっとこの場合は……。……?
頬に柔らかい感覚がある……ハンカチ?この人、涙拭いてくれている……?
「まぁまぁ、とりあえず涙を拭かないといけませんね。ちょっと失礼しますよ。」
めっちゃ涙拭いてくれる……そして何この手つき。柔らかいし優しい……好き……。
「……これでいいでしょう。お隣座ってもよろしいですか?私も大福買ったところでして。……あなたに何があったのか、よろしければお聞かせください。あまりに儚げに泣いていらっしゃいましたので……気になってしまいました。」
「え、えっとぉ……ありがとう、ございます……」
ちょっと呼吸が乱れてしまっている。まともに話せていたかさえわかんない。でもその女の人は優しい、開いているのかいないのかわからないような目で見守っていてくれてる。私は涙をちょっと乱暴に拭って、その人の顔を見た。
「……いいえ、良いのですよ。……あら?どこか見覚えがあるなと思ったら、あなたもしかして引導課の方じゃありません?……確か……アリスさん?でしたか?」
「ふぇっ?えっ??し、知っているんですか??……」
「えぇ。そうね、まずは名乗らないとでした。これは大変失礼いたしましたね。私はスズと申します。現在は浄土課にて務めておりますが、つい最近まで引導課の情報処理責任者をしていた者です。」
「……あ、さ、最近異動が決まってしまった方?ですよね?わ、私はアリスです。植物の引導を担当してまして」
少しだけ息が整ったから、話すことができた。動揺の方が今は強くなりつつある。
「アリスさんね。ところで、何かあったのでしょうか?お話できる範囲で、お話していただけませんでしょうか?」
私は一瞬戸惑ったけど、安心が勝った。この人になら話してもいいって勘が言ってる。安心して話してよさそう……かも。
「……私、最近この大福屋で知り合った男の人がいて……カイトって言う名前なんですけど。彼は船頭課の社員さんで、設計図を描く仕事をしているんです。真面目で、そしてなんか天然で、ポーカーフェイスだけど怖くなくて。憎めなくて。大きくて威圧感のあるガタイなのに不思議な生き方をしていたりで。なんか楽しかったんです。」
スズさんは優しく頷きながら聞いてくれる。声を出さずに相槌打ってくれてるから、すっごい話しやすかった。
「カイトは最近、設計図を1から描く仕事を任されたらしいんです。今まで使ってきた由緒正しき船が壊れてしまったらしくて。でも、1から描いたことはなかったらしく、何度描いてもうまくいかないんだそうで。それでこの前私がその話を聞いて、私のポップティアーズで……慰めてあげたところだったんです。で、今日。会えるかなって期待して待ってみたけど来なくて……泣いちゃって。大げさですよね、一回会えなかったぐらいで。」
「……なるほど。なんと甘酸っぱい話でしょう。……お優しいのねアリスさん。きっとよほどカイトさんのことを想っているからこそなのでしょう。でなければ、人のために涙を流すことなどそうそうあったものではありませんからね……」
スズさんはゆっくり目を開けた。ちょっとびっくりしちゃった。金色の瞳だったから。こんなに澄んだ黄色初めて見る。
「……でも、カイトさんのことを想うあまり、自分が傷ついてしまうことだってあるかもしれません。泣くということは、あなたの中にある感情が『涙』と言う見える形で出てきているのですから。……ここからは私の意見と言いますか、考えたことになるのですが……」
私は下手したらまたすぐ泣いちゃいそうな顔でスズさんを見つめた。ふんわり笑いかけてくれている。
「……カイトさん、きっと今とても幸せだと思いますよ。あなたのおかげで……ねっ」
私はちょっと目を見開いていたと思う。私の、おかげ……?
「カイトさんが今何をなさっているかはわからない……もしかしたら例の船の設計図に立ち向かっているかもしれませんね。ですが、それができるのは間違いなく、『ここ』という、アリスさんがいるこの場所があるからなのですよ。」
「……ここと言う場所……?」
「えぇ。1人で何かに立ち向かうことは、とてつもなく力が必要です。あらゆる面でね。だけどもし、そこに、『避難場所』があったら……?誰か支えてくれる人がいたら……?どうでしょう。…………安心しませんか?」
私ははっとした。頬がアツイ。トアちゃんになった気分だ。スズさんもその様子に気づいてくれているようだ。
「……きっと、カイトさんが1人で頑張れるのは、アリスさんのいるこの場所が……避難場所があるからですよ。だから、カイトさんがいなくても、今カイトさんはどこかで頑張っているんだって。そしてあの子が何かドジった時に助けられる場所として……いつでも帰って来られるようにしておいてあげて。……あなたは人のために泣けるのです。人のために場所を用意し、ただ待つことだって、できるはずですよ。」
「…………」
何にも言えなかった。覚えていたことと言えば、胸と頬がとんでもなく熱かったことぐらいだった。今大福を食べても、きっと味なんか、分からないのだろう。
コンニチハ!ゴランイタダキアリガトウゴザイマス!トアデス!シツモン?コーナー?ヤルラシイ!トアニモ シツモンキテタ!
Q,最近ミラから言葉を教わる回数が少ない気がするんですが…?
A,エ?ソウカナ……。
ミラ:なぁに簡単だ。トアはもともと読心術搭載『会話』アンドロイドだからね,日常会話ぐらいはできるんだ。ただたまに知らない言葉があったりね。
トア:ヘェ~!




