50 『正解』の絵
千宙は嬉しそうな顔で私を見た。千宙はゆっくりと話し始める。
「……僕が思う絵のこと……お教えします。設計図と関係があるかどうかは分からないけれど……」
「知らないこと以上に危険なことはない。私はそう日々思ってきた。だから何でもいい。教えてくれ」
力強く頷いた千宙は自信を得たような感じがした。
「まず、絵と言うのは描いている本人以外には、『正解』が分からないものだと思ってます。もちろん描いている絵がどういう絵で、何に向いている絵で……とかいろいろありますけど、これはいわば周りからの『評価』であって、その人のすべてではないです。」
正解が分からないもの、か……。私も実際、少し絵を描いてみた時、どうしたらいいかすらわからなかったな。
「ヒョウカ?」
「周りの人の意見ってとこかな。周りの人が見てどう思うか、っていう感じ。分かったかなトア」
「ナルホド!」
「なので、絵を書いている人にはその『正解』が存在してはいます。ですがそれは、言葉で表せるものでもないんです。だからおそらく、ミラさん方が『設計図』が必要と判断したのは、ミラーメトロと言うものが、言葉で表せられるほど、単純で薄っぺらいものではなかったからこそだったんだと思います。『絵』は抽象度がとてつもなく高いです。だって文字じゃありませんから。それでもなお『絵』や『図』を使うということは、基本皆さんが使う言葉では伝えられないようなことを体現しようとしている証なのだと思います」
スゴイこの子。高校生で『絵』についてここまで考えて語れる子などそうそういたものではない。申し訳ないが、高校で孤立してしまうのも無理はないかも。このレベルのことを知っているのであれば。高校生はたかが10数年分生きたってだけで、基本その分の知識しかないことがほとんどなのに。この子はこの子なりにいろいろ考えて生きていたことがひしひしと伝わってくる。
「なるほどな。正解が存在している、か。うんうん。」
「ですが、その『正解』を、自分で見失ってしまうこともあります。こうなると、誰も正解が分からない状態になってしまうんです。このことを下の世界の言葉で、『スランプ』と呼んでいると思います」
なるほど。そこにつながるわけか。まぁその通りだろう。
「正解を見失ったら、どうするんだ?」
「正解をもう一度見つけるしかありません。これは結構、意外なきっかけとかで戻ることがあります。ですが,はっきり言えることもあります。それは、『結局絵に戻ってくる』と言うことです。結局戻ってきてしまうということは、やっぱりその人には言葉で表現できない何かがあって、それを伝える手段として『絵』があるんだっていうことなんです。1回絵を描くことから離れてみて、こういう風景を描きたいってなったり、画材を変えて見たり。これだけで意外とすぐに元に戻る場合もあります。」
なんだろうこの感覚。懐かしいような、遠く忘れていたような。初めてではない感覚だ。生前にもこんなことあったな。……うん、あった。私が知らなかったことを知った時の感覚がまさにこれだった。異世界はすぐそばにあったんだよな、ホントに。
「……なるほどな。うん、うん。……私が少し齧ったぐらいで書けるほど、絵や設計図の世界は浅くないってことだな。でもそれを知れただけで満足だ。千宙の話から考えるに、設計図を書いている人って言うのは、船の構造やらの細かいことは、文字では表現しきれないから、図として表現しているってわけだ。なら、やっぱり普段から言葉でなく『絵』で伝えている人の力を借りるべきかもしれないな」
千宙は優しく微笑んでいる。トアは千宙の心を読み取ったのか、頬が温かくなっている。
「コレ ホッコリ……」
「そうだね~。私もなんかホッコリ……」
「……あ、そうだ。ミラさん、ちょっと待っててください」
千宙がおもむろに立ち上がった。なんだろう。何か取ってきて戻ってきた。
「これ、もらってくれませんか?あとこれも。」
これは……絵だ。そしてガラスペンまである。
「えっ、いいの?お金払わないと……」
「いいえ!いいんです。感謝の気持ちですよ。僕を孤独から救い出してくれたことへの。引導していただいた恩だってありますし。」
私はもらった絵を眺めた。これは……小鳥の絵だ。それに面白いのが、色を塗らず、ガラスペンの特徴的な細い線だけで描かれていること。陽だまりみたいな黄色や薄桃色が、細い線なのにもかかわらず、柔らかい雰囲気を感じさせる絵だ。お見事と言ったところだ。トアが反応している。
「コトリ!!トア シッテル!!! イソノカミノマロタリ! ツバクラメ!! コヤスガイ!! トロウトシテタ!!」
「かぐや姫……の話ですよね?確かにあのお話には燕が出てきてましたね。」
「最近、トアは言葉を流暢に扱えるように勉強しているんだ。日本文学使ってね。この絵を見てそれを思い出したのかも。」
トアの頬はしっかり反応していた。興奮しているのだろうか。この絵はいつでも鑑賞できるような場所に飾らないとだ。
「にしてもすごい絵だ。ガラスペンといえば、細くてはっきりしたあの線だと思っていたけれど……こんな柔らかくって温かい雰囲気の物も表現できるんだね。あっはは!トアがめっちゃ気に入ってるよ、頬擦りしちゃってる」
トアは絵に頬擦りしていた。可愛すぎる。
「コレ!アッタカイ!オキニイリ~」
「嬉しいです!絵に頬擦りしていただけるなんて~」
「それに、ガラスペンなんかもらってよかったのかい?君が使ってたんじゃないの?」
「あぁ、そのペンのことなんですが……実は、僕には使いこなせなかったペンなんです、それ」
私は渡されたガラスペンを見た。直線軸の持ち手に、かなり細めのペン先だ。持ち手は吸い込まれそうな群青色だ。私はしばらくそのガラスペンをまじまじと眺めていた。
「そのガラスペン、線が細くてはっきりしていましたが、 僕には使いこなせなくて。僕が描く絵は、結構柔らかい雰囲気を持っていると言いますか、まぁとにかくうまく使えなかったんです。……ここからは僕の願いと言うか、こうなったらいいなぁっていう話になるんですけど……」
少し恥ずかしそうにしている千宙。頬がやんわり赤らんでいた。
「このペンが……誰かにとっての『正解』になるといいなぁって思うんです。僕が持っていても、僕の正解はこのペンではなかった。……すごいわがままですけど……ミラさん、よかったらこのペンを、『正解』を探している誰かに……届けてあげてほしいんです。……押しつけがましい話ですけど…………このペンも元々、誰かに使われることを前提に作られていますから……やっぱり誰かに使ってほしいと思いますし……。」
なるほどな。やっぱり、この子には敵わないなぁ。自分の芯を育て上げすぎている。私はその芯が嫌いかっていったら、そんなわけがないのだ。むしろ、そういうの大好きだ。
「……面白い。いいよ。探してみようと思う。じゃあ、責任もってこのガラスペンもらっていくよ。……それに、ある意味『定め』でもある。」
千宙は首を傾げた。トアも不思議そうな頬をしている。しかし私はしっかり覚えている。私は普段、魂を引導するときに、できる限りやっていたことがあった。千宙にはそれをやっていない。
「……定め……?どういうこと、です……?」
「……私ね、魂を引導するとき、できる限りその人が大切にしていたものとかも一緒に送るんだよ。でも千宙にはそれをしてやれていない。だから、今。このペンは責任をもって届ける必要があるんだ。だって、これが千宙にとっての『大切にしていたもの』なんだって思うからさ。……いいだろ?せっかくやるなら『理由』があった方がいいじゃん?」
千宙は目に水をためていた。そして溢れていた。その水は、とても透き通っていた。私の首元ついている、ソウルログが光った気がした。
こんにちは。今日は俺,ツムギが担当します。で,質問コーナー?やるとかだったっけ。
Q,どうして図が必要だとすぐわかったの?
A,シンプルに資料作ってた時に思った。これ文章だけじゃ無理があるな~って。だって読んでるだけじゃイメージ湧かなかったからさ。素直な感想をミラに伝えたってだけだよ。
こんな質問でいいのか?まぁ何でもいいけど。また次回も見てね!




