45 水鈴の誘い
「ふぅ……今日はだいぶ控えめな引導だったねトア。最近は結構印象に残る引導ってのも落ち着いてきた感じがする」
「デモ ミラ カオ ボコボコ オツカレサマデス」
「ありがとっ。でもミラーメトロのこともあるし、止まってられないな。戻ろうか。ヨノアに」
私たちはノルマに達した時点でオフィスに戻った。いつもよりはだいぶ早めだ。まだ社員が多く残っている。
「ミラ!見てくれこれ!!イメージ図書いてみたぞ!」
ツムギがキラキラしながら迫ってきた。ツムギも頑張ってくれたらしい。
「お!見せて!」
ツムギは興奮過ぎ去らぬまま私に、画面を見せてきた。
「な?良くね???設計図も書いてみたぞ!イメージ図よりも具体性があって良くないか?」
「ダメだろ。」
「はぁ!?ミラ!!俺なりの答えだぞ!?結構頑張ったのに!!」
さすがに無理があった。私には落書きにしか見えない。お先真っ暗だ。ほんとに何かあてはないのか……。
「え、トア?このイメージ図と設計図悪くないよな?何表しているか分かるよね??」
半分圧かけているようにしか見えないツムギ。トアは画面を見つめる。
「……ナニコレ」
うわぁ無自覚キラー決まってしまった。さすがにこれはフォローいるかも。ツムギは膝から崩れていた。
「………………いいよいいよどうせ俺なんかっ!絵なんか書けやしないんだっ!!」
「ツムギ クヤシイホホ ガンバッタネ」
「ありがとな!!!!!!!お前の言葉でこうなってんだけどな!!!!」
ツムギの机から何やら紙が落ちた。広告だ。
「……なんだこれ。」
「ああ。広告。今日の昼ぐらいかな、浄土課の社員さんから配布されたんだ。ガラスペン?とかなんかよくわかんないけど。廊下にも張り出されてたぞ」
私はその広告を眺める。これは……個展開催のお知らせ?らしい。場所は……天国の高天原町とのことだ。……ガラスペン?そういえば前に、ガラスペンの青年を引導したな。あの子はちゃんと天国に行けたのだろうか。私は不覚にも気になりだしてしまった。広告にもう一度目を通す。受付期限が目に入った。……え、明日じゃね期限の日って。私はバっと立ち上がった。
「ちょっと浄土課に行ってくる!!この個展行ってみよう!何か設計図とかイメージ図のヒントがあるかも!!!」
「お、おい!?急に!?ま、待て待て!あーもう思い立ったらすぐ動くなオイ。トア、あのバカ追っかけるぞ!肩から落ちるなよ!」
「メガ~マワル~」
廊下に出た時、女性の社員の姿が目に入った。アリスだ。
「あ!アリス!!勝手ですまんが今日のトアとの勉強会は無断欠席で頼む!!!!じゃっ!!」
「え?無断欠席?え?」
アリスの困惑にも触れずに私はダッシュで通りすぎた。
「あ、アリス。多分今のあいつに何言っても止まらん。代わりに謝っときます、申し訳ない……責任もってあのバカ回収してきますんで」
「メガマワル~」
「あ、そ、そう……?お達者で~……」
とんでもないスピードで浄土課への階段を駆け上がっていく私。ツムギは後ろからついてくるが流石に追いつけないらしい。浄土課は7階に位置している。天国は空にあるため、必然と浄土課も高い場所に設置されるのだ。ヨノアはいわば、地獄と天国の間に存在していて、全管理を担っているわけだ。ちなみに泥梨課は地下2階に位置しているらしい。
私は浄土課のエントランスにつき受付嬢さんに聞いた。少し息が上がっていた。
「すみません!このガラスペンの個展に行きたくてですね」
受付嬢は特に何の詮索もせずに笑顔で対応してくれた。流石浄土課。人当たりがいい。
「はい、1名様でよろしかったですか?」
「いや、多分団体に……何名かまだ未定でして。」
「承知いたしました!団体で取っておきますね、こちらチケットになります。お名前と所属課と住所をお願いします」
私は何とか読めるであろう文字をササっと書いた。
「ありがとうございます!それでは当日お待ちしております!」
ふぅ。ここで一気に走ってきた疲れが押し寄せてきた。階段ダッシュはやっぱりきつい。エントランスに設置されているラウンジチェアに座って息を整えた。なにやらドタバタと音がした。ツムギだ。とんでもない形相で私のところまで来た。
「ゼェ、ゼェ……ば、馬鹿かミラ……い、いろいろ急すぎるって。追っかける身にもなってくれよ、……はぁ、はぁ……俺こんなダッシュで階段上ったの初めて……」
「ワタシ ココマデメガマワッタノ ハジメテ……」
ツムギに似た言い方でトアも言った。
「わ、悪かったな……色々と思い当って……あてがあった気がしてさ」
ツムギは疲弊した顔でラウンジチェアに座った。息があんまり整っていない。
「あ、あて……?あったのかよ、なんで最初に言わなかったんだ……」
「わ、忘れていたんだよ。あの広告見て思い出したんだって……広告見たら個展の受付明日までって……そりゃ焦るだろ明日仕事なんだし……」
2人の息が上がっているせいで、この周辺だけ何だか異様な雰囲気となってしまっていた。浄土課の美しくて柔らかい空間や、働いている人の美しい雰囲気に合わなすぎる。しかしすぐに元に戻れるわけでもない2人であった。
「……あら?ミラさんにツムギじゃありませんか。思ったより早い再会でしたね。どうもこんばんは。」
すっごい聞き覚えあるぞこの声。上を見ると不思議そうに覗いている書生姿が。
「ス、スズさん!?あ、そっか異動先ここだって言ってたっけ!!」
ツムギは声量をあんまり気にせず驚いていた。私は流石に声が出せなかった。息が整っていない。
「お2人とも息が上がっていますね、ちょっとお待ちください。お茶出しましょう」
なんて優しいんだスズさんは。スズさんはお茶を3つとわざわざ果物を持ってきてくれた。リンゴだ。
「はい、これで休憩なさって。浄土課に引導課の方が来ることってそうそうないみたいですが、何か用事があったのでしょうか?」
声色を変えずゆっくり話しかけてくれるスズさん。ツムギが話し出した。トアはリンゴを咀嚼している。
「ガラスペンの個展みたいなのを予約するってミラが急に言い出して、ここまで走ってきたんですよ……。ちょっと事情がありまして、設計図について知る必要がありましてですね……」
「設計図、ですか?……何やら込み入った事情があるようですね。この前の資料室の件も、その時は詮索しませんでしたが、資料室に引導課の方が来ること自体も実は珍しいのです。そして今回は引導課の社員が設計図……なかなか相容れない話です。よろしければ、その事情をお聞かせいただけませんか?それに、そこにいらっしゃる可愛らしいトアさんのことも少し聞きたいですね、ずっとツムギの頬にくっついていらっしゃるけれど……」
ようやく調子が戻った私は礼儀正しく座り直して話始める。
「す、すみませんお騒がせして。私基本的にいちいち語らないタイプでして。そうそう!ずっとスズさんに言おうと思ってたんですよ!ツムギがこの頬にくっついているトアのこと……」
「おいコラァ!!!!今それ関係ないだろうがぁ!!!」
抜け目ないツムギだ。私たちの暢気な雰囲気を前に、スズさんは笑っている。
「うふふ。まぁ、その話が正直一番気になりますが……また後でじっくり聞くとしましょう。ではお話し願えますか?設計図について知る必要がある理由について。」
私たちは一瞬顔を見合わせたが、私が端を切って話し始めた。今気づいたが、スズさんの髪型がハーフアップになっていたのだった。
どうもこんにちは。スズと申します。今回は私に依頼があったため,担当いたします。何卒よろしくお願いしますね
何とも歯がゆい気分です。私が登場している回のタイミングで私がこの後書きを担当することになろうとは。さてと,気を取り直して…ご覧いただき誠にありがとうございます。何人の方が私の後書きを読んでいるかは存じませんが,一生懸命務めさせていただきますね!
ミラさんたちが浄土課にまでいらっしゃるとは。思いもしませんでしたねぇ~。ツムギにとってはいい運動になったかもしれませんね。…私がこんなに口調が美しい理由?まぁ,口調のことを褒めてくださるんなんて光栄ですね。口調が美しい理由ですか…私もたまに敬語は間違えるのですけど,まぁ,綺麗な方がいいのかなと意識しておりますよ。大事なのは正しく使うことより,まちがってても使おうとする意識かもしれません。使っていけば,間違いも指摘することができますからね,周りの方々が。
変な話になってしまいましたね,私の後書きにお付き合いいただき感謝いたします。また次回もお楽しみに。
スズ




