44 人間引導禄 「見えない想いを汲み取って」
ある日。引導をいつも通りにしてはいたが、私の頭の中はイメージ図でいっぱいだった。あの後、絵の練習なんかも齧ってみたが、さすがに無理があった。あーどうしたものか。
「ミラ ミラ!アードウシタモノカ ッテ キコエタヨ?」
「あー、ちょっとね……。どうやったら絵ってうまく書けるんだろ」
「エ?」
「絵って言ってね。私たちは普段こうやって言葉で会話しているけど、実はそれ以外にも色々会話の手段とか、表現の方法はあるんだ。ほら、前に会ったじゃないか。ガラスペンで絵を描いていた青年の魂。」
「……ア!!ウン!アレ キレイダッタ!!」
あの青年は、無事に天国に行けただろうか。私はふぅとため息をついた。
「……まぁ、この際だ。絵のことについて知る良い機会って考えよう。絵の描き方とか調べまくって最悪私が図を……ん?死を感じた……ここから近いな」
急に仕事モードに戻った私は、近くで死を感じた。まぁ、過労である事実はまだ変わらないのだ。死だって結構私の目には映っているわけだ。2人は一番近くで感じた死の場所へと向かった。そこは、茶室だった。茶室の二階にて、畳の上に敷かれた布団の上で誰か亡くなっている。高齢だが、美しい女性だった。どこかスズさんの雰囲気が。
「……魂さん、出ておいで。私は死神のミラ。あなたを上の世界に引導すべく参った者だ。あなたは今、……老衰、だね。老衰で亡くなられたようだ。」
静かな和室に、静かな私の声が柔らかく響く。魂が漂って出てきてくれる。
「……あら。本日はお日柄もよく。こんな日にあの世へ行けるのですか。感謝せねばなりませんね……」
のんびりした声だ。私ものんびりしてしまいそうだ。肩から力が抜けていく。軽くなった……。
「ミラ!ミラ!コレ エ!エダヨネ?」
肩が軽い理由はこれか。トアが肩から降りて、何やら掛け軸を見ている。魂もそれに気づいた。
「それは、掛け軸ですね。」
「す、すみません、亡くなられた矢先に……」
こんな言葉を言うのはおそらく私だけであろう。亡くなられた矢先になんて普通言わない。
「いいのですよ。むしろとても嬉しいです。そちらの掛け軸に興味を持ってくださるなんて。」
「……?何故です……?」
魂はふよふよと揺れながら話し始めた。
「掛け軸はですね。亭主からのメッセージが込められたものでもあるのです。この部屋を決定する、主なのですよ。お嬢さん、目の付け所が素敵ですよ、素晴らしいです」
「エ、エヘヘ……カタジケナシ カシコシ……」
私にも苦手分野はいくつかある。絵はもちろんだが、もう一つ。古文が絶望的にできないのだ。トアが何言ってるのかさっぱりわからない。カタジケナシ?カシコシ?わかんない……。
「あら、そんなに畏まらないでお嬢さん。本当のこと言っただけですよ」
「ハ、ハイ……」
こりゃ、あとでアリスに意味だけ聞きにいかないとダメそうだ。
「そしてこの掛け軸に描かれているもの。これは『円相』と呼ばれるものなのです。」
「円相……?」
掛け軸には墨汁で描かれた丸が書かれている。それ以上はないのだ。
「これには、様々な意味がございます。私がよく説明する意味としては、『己を心を映す鏡』としての『円窓』です。この丸は、見る人によって自由な解釈がなされることから来ている名です」
私は掛け軸から目を離さなかった。ミラーメトロにもつながる話だ。こんな形で下の世界に存在しているとは。感慨深い話だ。
「……そうなのですか。……すごいですね、円にそういう意味が込められていたなんて。なんだか感動します」
「そう言っていただけるなんて嬉しいですね。……折角ですし、この円を見て、何を感じるか。冥土の土産がてら、教えてくださいませんか?」
「タマゴ!!!オデン タマゴ!ハイッテタ!!」
即答だった。そんなにトアの頭は食に結びついているのか。私はちょっとだけ恥ずかしさも感じた。
「うふふ!確かに。卵にも見えますね!初めて聞きました。これは新鮮で可愛らしい解釈……お見事ですね。」
あからさまに照れてるトア。頬が火照ってる。私はトアを微笑みながら見た後、円相の掛け軸を真剣に見始めた。
「……ミラさんは、何を感じますか?」
私はしばらく眺めた。色々なものが頭の中によぎっていく。
「……私は……、どこにだって転がれる……軽やかな感じがしました。丸いものって……どこへでも転がれる……どこへでも行けるのではないかなって」
「……まぁ……すてきな感性をお持ちなのですね……素敵な冥土の土産話になりそうです。感謝いたします」
魂は心から満たされているような声をかけてくれた。私は掛け軸を見つめた。掛け軸に描かれた円はどこか躍動感を感じさせた。
「ミラ!タマシイサン モウ コエ キコエナイ!」
そうだった。老衰で亡くなってしまっているわけだ。既に亡霊になり始めてしまっている。私は手に炎を出した。できる限り優しい炎を。
「……ありがとうございました。……大切なことを教わった気がします。ご冥福をお祈りいたします。道中お気をつけて……」
私はできる限り感謝を込めて、魂を炎で優しく包んで引導した。青い火の粉が掛け軸を美しく際立たせている。
「……大事なことを聞いた気がする。……余韻に浸っていたいな……。ねぇトア、ちょっとここで少し休憩していこう。ダメかな?」
「イイヨ!ワタシ コノマル モットミテイタイ」
私たちは、しばらくの間、掛け軸の前で肩を並べていた。掛け軸がよろしいと言わんばかりに認めてくれている、そんな感じだった。
えっと…。どうもこんにちは。ツムギです。ご覧いただきありがとうございます。今日は俺が担当らしいです。
なんかここでは,物語の中ででは語られない秘密とかも言っていいとか聞いたな。いずれ出すのなら言う必要ないと思うんだけどな…。
秘密って言ったってな~。俺が言葉を話せる理由ぐらいか?まぁスズさんに全部叩き込まれたからってだけなんだよね。ほんと尊敬するよ,あの人。…俺,誕生日が6月6日なんだが,ミラのやつ勝手に数半分に割ってトアの誕生日に割り当てやがったんだ。俺のこと軽く見すぎだよな。
なんか雑談になっちゃったな,資料作りもやらないとだし,俺はこの辺で。また次回もお楽しみに。




