42 天才たちの弱点
時は経って、資料室に行ってから何日が過ぎた。12月に入ったころだ。アリスはとてつもなく忙しそうだ。哀れみの目を私はアリスに向けておいた。いつも通り出社し、引導に向かった。前に亡霊の引導数をかなり超過してしまったため、亡霊の引導は最小限に抑えた。トアはアリスと勉強を始めた成果か、どんどん話し方が流暢になっていった。イントネーションはまだまだだけど。私は今、大掛かりな交通事故現場にいた。何台も絡んだ事故らしかった。しかし魂を感じない。誰か一人は命を落としてもおかしくない事故なのに。
「……あれ。大きな音が聞こえたから来てみたけど、ここは大丈夫っぽいな。」
「サヨウナリ! アノヒト!コエキコエル!……イタイ…エ、エッ……マッテドウシヨウ……」
「まぁ事故となれば誰でも何とも言えないことを思うだろうな。言葉にならないような感じのね。でもこの現場は変わることがないって言う……。……行こうトア。ここに用はない」
「ウン」
私たちは今日なんとも言えない、目立った出来事があの事故現場の風景ぐらいしかない、そんな一日を過ごした。そのままオフィスに帰った。ツムギは最近本腰いれて資料を作ってくれているのだろう。大体オフィスに帰ると自席にいる。
「ツムギ、すまないな。ゆっくりでいいからね、資料作成。時間はあるし」
「ん、ああ。帰ったのか。」
「ツムギ~!ホホ~」
私は少しだけ反応した。前にツムギの本心を聞き出していたからだ。私はツムギを眺めている。トアはお構いなくツムギの頬にくっついた。
「んにゅ……。……そんなに俺の頬が好きなのか?トア」
「ウン!」
「なんで?」
「……アッタカイカラ アッタカイ シアワセナコト! ミライッテタ」
「……ミラが原因なのかよ」
「らしいね、なんか知らんけど」
ツムギの頬もしっかり赤くなっている。微笑ましい限りだ。
「あれー‼みんなぁ~!おつかれ~!」
アリスの声だ。引導から帰ってきたようだ。
「アリスオネエチャン!」
「きゃートアちゃんっ!」
抱き合っている。もう恒例行事だ。
「あ、そうそうトアちゃん、今日さ~、お勉強会できそうにないのよ~」
珍しい。確かにアリスには疲れの色が見え隠れしている。
「……オネエチャン ネムタイ?」
「……あ、やっぱお見通しかな?そうなのよぉ~ごめんねトアちゃん」
「ゼンゼンイイヨ!オヤスミナサイ!」
「すまんなアリス、やっぱ無理させてたか」
アリスはとんでもないと言わんばかりに首を振った。
「いいのいいの!私がトアちゃんと一緒に勉強って言い出したんだし。でも今日は……もちろん疲れたってのもあるけど、………今日、彼岸屋でイチゴ大福の販売があるんだよね~」
食いしん坊もあったらしい。アリスらしい話だ。
「ふぅん、そういうことか。じゃあトア、今日は一緒に帰ろうか」
「ウン!オデン!!」
「はいはい、作ってあげるよ」
おでんがお気に入りらしいトア。いっぱい作ってあげないとな。
「じゃ!そういうことだからっ!みんなじゃーねー!また明日!」
アリスは急ぎ足で階段を下りて行った。見送ったのち、何やらツムギが画面とにらめっこを始めていたことに気づいた。
「……何してんだツムギ」
気づいたツムギは私の方を振り向いた。
「ああ、資料があらかたできたんだよ。あとは最終確認とか微調整を残すのみなんだが……」
私は画面をのぞき込む。私の引導データから資料室まで得たデータが全てグラフ化され、私がいかに過労であるかが一発で分かるようになっていた。すごい。しかしツムギは何かまだモヤっとしている様子だ。
「……なぁミラ。この資料を叩きつければミラの過労は確かに伝わる。だからまぁいいんだけど、ミラがもしミラーメトロの計画についても踏み込むつもりなのであれば、多分俺の能力じゃ限界がある気がするんだ。どうせミラは交霊会議できっと、ミラーメトロ計画のことも発表するつもりだろ?」
「ああ。そうだな。限界があるって言うのはどういうことだ?」
ツムギは顔を変えずに話してくれた。トアはさらっとツムギの肩にいる。
「ミラーメトロ計画は、俺はどういう計画か理解はしているし、文章で説明することもできるけど限度がある。まだデータがない話だし、グラフとかを作ることができるわけでもない。しかし、文章だけだとイメージなんか湧かないだろ?」
なるほど。ツムギの言いたいことが私はしっかりわかった。ミラーメトロ計画はいわば『企画』。過去のデータがあるものでもないため、当然データ分析要素はない。文章で説明するのはもちろんだが、きっと他人にミラーメトロ計画を説明したところで、「?」が浮かぶのが普通だ。実際私がアリスとツムギに話したときもそんな感じだったのが動かぬ証拠だ。
「そこで、『イメージ図』があるのが一番理想的なんだ。スズさんも言ってたんだけど、俺が数値を表にしてた時に、グラフにした方が見てすぐにわかるよって。それと同じで、ミラーメトロ計画についても見て一発でどういうものかわかる状態にしたいんだけど……。……イメージ図なんか書いたことない……。……ミラ、イメージ図とかなんか思いつく?」
「……絵は苦手だしな…………ワンチャントアが書けたり……」
「ン?」
「トア、ここに、前話したミラーメトロの仕組みを絵で描いたりできる?」
トアは何か書き始めた。私とツムギは眺めていたが、すぐに挫折した。
「……まぁ、そうだよな。だってアンドロイドだもん。見てるものがすべてだよねw」
トアが書いたものは、何だかわからなかった。ツムギはなんか顔が赤くなっていた。
「……マジか~、じゃあ誰か図を書くことができる人を探さないとだ」
「あてがあるのか?」
「……」
「……いったん考えるのやめるか。資料の微調整しておくわ。」
「そうだな。頼む」
その日、2人は考えるのをやめた。
——「いらっしゃい!アリスちゃん!もしかしてイチゴ大福狙いかい?」
彼岸屋のおばちゃんだ。いつも景気のいい声を聞かせてくれる。ニコニコしていてほんと話しやすい。
「そう!!そうなのぉー!まだある?」
「あるよ、なんだかんだ余っているねぇ。いくつ買ってく?」
「えーーーっと………………じゃあ、イチゴ大福7個と、あ!抹茶餅!これ3個ください!」
「はいよ、相変わらずたくさんお買い上げだねぇ。おおきに~」
可愛いお花柄の紙袋を渡された。おばちゃんはなにやらごそごそと何かを取り出しているようだ。
「はい、これ。たくさん買ってくれたからね。おまけでどら焼き。外の縁台でよかったら食べてって」
「えーーー!!いいの?!やったーありがとう!」
「いやぁ、この彼岸屋でこれを渡す人はアリスちゃんで”2人目”だよ。いつも毎度おおきにね~」
「2人目?私ともう一人いるの?」
「そう。最近来るようになったかなぁ。結構たくさん買っていくんだよそのお客さん。がたいが良くって存在感がある人だったわ。最初見たときは驚いたわね~、圧がすごかった気する」
「へぇ~。私も会ってみたいわね~。じゃっ!おばちゃんありがとう!また買いに来る!」
「はいよ。ありがとうねぇ~」
私は軽い足取りで外に出て、縁台に座って食べようと思った。今思えば、何で最初に気づかなかったのかわからない。私の右隣にいた、大男に。その大男は暢気にどら焼きを頬張っている。
「……?」
「……??」
2人は目がしっかりと合った。私は思った。
(………………え………………かわいい……何この子……)
——続く。
コンニチハ!!ワタシ トア! ドクシンジュツトウサイカイワアンドロイド!
エット,ゴランイタダキアリガトウゴザイマス!ポンタ?ダッケ, タノマレタ! コメント?イッテッテ!
ワタシ ダイフクタベタカッター…。
…タシカ,ヒミツトカヲ ハナシテッテイッテタ! トアノヒミツ…トア タンジョウビ サンガツミッカ!(3月3日) ミラ イッテタ 『ツムギノタンジョウビヲハンブンニワッタカズヲトアノタンジョウビニシヨウゼ!!』ッテ!ツムギハ『ナニカッテニヒトノタンジョウビツカッテンダ!』ッテ!
マタジカイモ ミテネ☆




