41 犠牲の島の物語「歪の章」
―人間は,人間であれなくなった時,どうなるか―
ツムギは深いため息をつきながら、水を飲んでいた。いい気分では到底ないだろう。まぁ今からさらに追い込むわけなんだけど。私は1つ目の報告書を閉じて、もう1つの報告書を開き、ツムギに読ませた。私たちが見た報告書の中で唯一、自殺について触れられている資料だった。
「これ、自殺のことに触れられている資料じゃんか!!ちゃんとあったのか……」
「ああ。この報告書に書かれている島は、さっきの報告書と同じ島での話になっているな」
ツムギは幾分か落ち着いた声で話した。少し安心した自分もいた。無論、この報告書の引導数もとんでもないことになっている。私は報告書を眺めながら話し始めた。
「……四角い建物…………?」
報告書に書かれた文章を読んでいたツムギがつぶやいた。私はもう、見当がついている。
「この島では、一度の悲劇だけじゃ、終わらなかったんだよ……」
空気が変わった。ツムギの面持ちも一瞬にして変わった。私は話し始めた。
この話は意外とうろ覚えでもないことだった。何故かって?結都が知っている。結都は心理学を履修していたから、知っている。
——とある医者がいた。その医者は、素晴らしい医術を生み出した。その名も、『ロボトミー』。そのころ、精神障害である統合失調症に苦しむ患者がいた。この頃は、治療法がなかった。しかしある医者は、ある治療法でこれを解決した。手術によって統合失調症は治った。しかし患者の様子はおかしい。ロボットのように感情がなく、人間以外の何かだった。治療を受けたものの中には、人間として生きられなくなったことにより、自殺したものもいた。これは本当の話かどうかは定かではないが、その島には隔離場があった。精神病者を隔離する島。その島に隔離され、手術を施された。最終的に、その手術に代わる、精神病の治療薬が誕生し、その狂気じみた手術を開発した医者は孤独になった。それもそのはず、手術は恐ろしいもので、脳のとある部位を切断するという、グロテスクなものだった。手術を受けてしまった者は、感情がなくなったような、無機質のような空虚感が漂っていた。人間ではない、何かが——
きっとツムギには理解困難な単語が多く含まれていたであろう。これもしっかり詳細に伝えた。ショックが後からじわじわ来るような話だろう。意味が分かると怖い話に似ている。ツムギは硬直していた。私は容赦なく追い打ちをかけた。言葉とは面白いもので、長々と話すと詳細に伝わるけどインパクトはない。しかし要約すると、とんでもない言葉の刃になることがある。凝縮されるからだ。
「……1人の人間が、人間らしさを奪って、一瞬で壊したんだよ。人間もろともね。これは死ぬことと同等の苦痛だろう」
ツムギは一瞬ビクっとした。悪寒がしているのだろう。
「私がこのデータを使いたいのは、引導数がこのデータと私の普段の引導数との大差がないからだ。この出来事は、歴史にも刻まれる悲劇として記録されているほどのものだ。下の世界ではね。それと同じ状況に、私は今、なっているんだ。これほどの異常事態があると思うか?」
ツムギはゆっくり口を開いた。
「……なぁ、ミラ」
私は顔を変えずに聞いている。
「……ミラが今教えてくれた話は、俺にとっては狂気でしかない。こんなことが起こっていただなんて、知らなかった。でもその狂気は、俺が初めてミラに突き付けられたあの狂ったリアルとも似るところがある。……もし今、ミラが置かれている状況を放っておいたら……この悲劇がまた起こるかもしれない。そうだろう?」
私は少し驚いた。よくここまで考えたな。本当に成長したようだ。
「……俺、こんな悲劇の記録は、もう二度と見たくない。絶対に見たくないよ……」
ツムギが一瞬、素直な少年に戻ったような、心の叫びに聞こえた。ツムギが一度は通るべき道を、しっかり通った瞬間だった。ツムギは真剣な目で私を見つめた。
「……ミラ、言ってたよな、俺にこの狂った状況を資料に表せるかって。……まとめ上げてみせるよ。この狂気を……正すために……」
——『俺、頑張るから……!』——
第3幕「輝きの記憶」 完。
どうもこんにちは。引導課所属の死神,ミラです。ポン太から言伝で,ここにコメント書いてとのことだから,書くね。
まず,今回でついに第3幕が完結いたしました。これは言えって言われた。テンプレです。
何故私があの島のことについて,あそこまで説明できるかって?…天才では全くないんだけど,覚えていることはしっかり覚えているんだよね。生前の私がきっといろいろやってたんじゃない?ま,記憶容量を無駄遣いしたこともあった気がするけど。
せっかくだし,だい4幕のヒントぐらい出しておきますかね。私,絵を書くのがめっちゃ苦手なんだ。…これがヒントだ。ただの感想になってる気がする?4幕を読んでみたらきっと理解するさ。
じゃ,そろそろ仕事の時間だ。また次回~。




