40 犠牲の島の物語 「灰の章」
―美しきものの周りに,残骸があった―
※少しグロテスクなお話となっていますので,苦手な方はブラウザバック願います。
ツムギは頬をホテホテさせながらそっぽを向いていた。別にからかったわけではないはずなのだが。しかしいいアイスブレイクになったであろう。私はようやく、今日のことを話す気が湧いた。さすがに毎回焦らしすぎかもなと自分で自分を嘲笑した。
「……さてとツムギ。話を本題へと変えようか。あの2つのデータのこと。」
ツムギはぱっと私の方を振り向き真剣な顔になった。早く教えろと言った雰囲気がものすごく伝わってくる。
「聞かせてくれ。あと今日のあの数値が表示できない亡霊の引導数と、その右目のことも。隠すなよ?」
「ああ、わかってる。順を追って話す。今日ね、私とトアはある地へ引導に行ったんだ。そこに降り立ってね。その場所は海に囲まれていて、町の中にも水路がある。美しい場所だった。」
「海……?」
ツムギには記憶がない。スズさんはツムギに下の世界のことを教えないようにしていた。知らないのも無理はない。
「まぁ、青くてきれいなもので、底が深いんだ。さっきツムギが食べたマグロの生息地でもある。」
「へぇ……それで?」
ツムギは続きが早く聞きたいようだ。私が焦らしすぎたのもあるだろうな。
「その町はやたら亡霊が多かった。不思議なほどに。でも町はとてもにぎわっていて、亡霊が湧くような雰囲気はないに等しかったんだ。そんな時にトアが、亡霊がとんでもない量溢れかえっている島を見つけてね。その島に向かっているとき、遠くから塔のようなものと、四角い建物が見えた。」
ツムギは頷きながら聞いている。ちょっと体が前のめりになっているような気がする。
「その島にはありえない量の亡霊で溢れかえっていた。島に降り立った時、トアが突然『声がする』って言いだして、隠れてしまってね。で私が後ろを振り返ったとき、目に入ってきたのは、人間の『骨』だった。」
「骨って……?」
「聞かない方が幸せだと思うけど、まぁ教えてやる。下の世界で生きている人間を燃やしたりしたときに残るものだ」
「聞かなきゃよかった」
一気に顔が歪むツムギ。食後の気分が台無しだろうな。
「私はぞっとした。すぐにまずいと思った。で、空に飛びあがって、島全体を一気に炎で包んで亡霊を引導したんだ。その時に亡霊の引導数が跳ね上がったのと、この目が表出した。」
「引導数の理由は分かった。その目はどういうことなんだよ?」
そういえばこれは誰にも説明していなかった。私は手に瑠璃の灯を出した。
「見てて。やってみるから。」
「え?大丈夫なのかよ!?」
「ああ。今なら大丈夫だ。」
私は右目に向かって炎を近づけた。炎は目に引火し、少しだけ火力を増した。ツムギは息を呑んで見つめている。私の瞳は吸い込まれそうな瑠璃色へと変貌する。
「……すげぇ…………」
ツムギは驚きのあまり固まっていた。
「私のこの瑠璃の灯は、火力があまりない。消えることは絶対にないけどね。この炎で普段は引導を行うんだけど、亡霊はいっぺんに引導できるから、たまに炎を使って一度に引導することもあるんだ。でも今回、あの島にはとんでもない量の亡霊がいたから、さすがに少し火力を上げる必要があった。そんな時に使う技みたいなものでね」
私の目に灯った炎は燻りながらも消えていった。瞳は瑠璃色のままだった。
「でもなんで目に灯す必要があるんだ……?」
誰しもが疑問に思うところだろう。なぜ、目?と。
「あのな、瑠璃の灯は『想いの光』。自分の想いがそのまま特徴として現れる。その想いには大抵、『感情』が含まれる。これは何となくわかるだろう?」
「ああ。感情がない想いを考えるほうが難しいぜ」
「では、その感情が最も出やすい場所ってどこか知ってるか?」
ツムギは首を傾げる。もちろん感情を内面に隠しておくことも可能だが、やっぱりどこかしらから漏れだす。隠せるほど軽いものではないのだ。ツムギは黙りこくっている。
「それが、『目』なんだ。基本的に感情は目に現れる。そして瑠璃色の灯は想いの光。感情で出来上がっているものだ。それを感情が表出した目に近づけたら、どうなる?」
「………………火力が増すのか……!」
「そういうこと。」
そう。一種の技みたいなものだが、瑠璃色の灯の根端は、その人の想い、感情によるものだ。そして、人の感情が表れやすいのは目だ。つまり、目は瑠璃色の灯の着火剤のような役割として使うことができるのだ。目にはその時その時の感情が表出する。だから火力を上げることが可能なのだ。私があの白骨を見たときの感情は、きっととんでもないものになっていたことは想像に難くない。目にもとんでもない感情が宿ることになる。その時の火力はどのぐらいになるか。ツムギもきっと理解できただろう。
「なるほどな…。だから目に炎を近づけると火力が増すんだな。やっと理解できた。」
腑に落ちた様子のツムギだった。私は資料室から持ってきた2つの報告書を取り出し、机に並べた。ツムギは思い出したように言い出す。
「そうだ!!このデータ!ミラ、このデータを一体どうするつもりなんだ?」
私はまず、1つ目のデータを手に取った。文章にて、謎の焼却について書かれていた報告書だ。ツムギにその報告書の文章を読むよう、私は促した。
「……大穴に人を放り込んで……焼いた……??引導数が多い理由は書かれているけど、何の目的で焼いたんだ……?」
私は意味深に少し笑った。ご飯を食べる前にこの話をしなくてホントによかったと思う。
「……この報告書を何度も読み返したときに……思い出してしまったんだよ……」
ツムギは少し不安げな顔をした。受け止める準備は万端な様子だ。
「……この報告書に書かれている文章…………これは……『パンデミック』の記録なんだ」
「パンデミック……??なんだそれ……」
知らないのも無理はない。こんな言葉、日常で使われていたら普通嫌になるだろうな。
「『パンデミック』。病気が大流行して死者をとんでもない量だすことを指す。そしてこの報告書に書かれている島は、私たちが今日訪れた島と同じ場所だ」
「え!?そうなのか!?」
ツムギは店内であることを忘れて声を上げていた。
「この記録の中で、人間が次々と焼かれていたってあるだろう?……見当がついたよ。この島やその周辺では昔、あるとんでもない病が流行り、何万人もの人が犠牲になったんだ。。……ツムギ、一応聞くが、この先、聞くかい?」
ツムギは察した。少しだけ震えているのが見て取れた。
「……聞く。聞かせてくれ。」
私はゆっくりと話し始めた。恐ろしい話だ。私がなぜこんなことを知っているのかって?結都が変人だったからだ。過去に結都は何故か調べごとをして、何故か覚えているなんてことがざらにあったんだ。肝心なところが抜け落ちてたりはするけど。
——ある国で、感染症が流行し、死者を大勢出したことで、その島や今日わたしたちが行った海の街も大変なことになった。しかし、その病気は人から人へうつっていく。止める手立ては断絶させることだけだった。そこで、このパンデミックを止めるべく、行われたのが、「隔離」だった。この報告書に書かれている島に、病気に感染した者を隔離し、外の世界との接触を絶った。そして感染者を大穴に入れて生きたまま焼き、他の者に病気がうつることを防ごうとした。島は人灰と化した。地面が灰でできているなんて噂もあったらしい。何万人もの人が、焼かれた——
「………………」
ツムギは何も言わない。硬直している。所々用語も説明しながら、詳細に話したので、ショックはでかいだろうな。私は静かな声で話し始める。
「……おそらく今日会ったあの亡霊たちは、その残りだろう。キオウが島に一度訪れたと言えど、あの後もしばらくパンデミックは続いたからな。……」
私はしばらくツムギを見つめ、空気を読んで待った。
「……ほんと、下の世界は狂気だな。スズさんの愛情には本当に感謝しなければならないね。……こんな話最初に聞いていたら、俺はどうなってたんだろうか……」
ツムギは深いため息をついた。しかしツムギはまだ知らない。
——悲劇はもう一度、起こったことを——
ご覧いただきありがとうございます!記念すべき40話です!あっという間ですね~。そして今回は例の二つの記録の正体についてのお話になっております。もしかしたらピンとくる方もいらっしゃるかもしれませんね。そして!40話を記念して,次回からこの後書きを,各キャラに担当してもらうこととしました!ミラたちはここで何を語ってくれるのか。後書きまでぜひ読んでみてくださいね。次回もお楽しみに!




