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38 悲劇の記録と青き炎

―悲劇は突然,やってくる―

 ほかほかした余韻の中。2人は資料室へと足を踏み入れた。音がない世界へ入った気分だ。そして妙に生暖かい雰囲気だ。不快ではなかった。引導課の資料が納められているのはどの棚だろう。意外と資料室は広かった。薄暗い道を歩いて、棚に書かれている文字や番号を確認していく。

「……あった!これだよミラ!この辺においてある棚が引導課の物っぽい」

 ツムギが宝物を発見したような声で指を指している。棚にはズラーっと紙の束やら書籍やらが並んでいる。

「この中から人間担当の死神が書いたものを探さないとな、なぁツムギ、どういうデータが望ましい?資料に載せるとしたら。」

 ツムギは少し考えていた。

「うーん。まぁ、できるのなら最近のものがいいかもしれない。これだけの年数でこんだけ引導数が増えたんだぞって言えるから。まぁ見て考えればいいし、最悪ミラが普段取ってきているあの引導データだけでも俺は十分だとも思うな。今日のあの信じられない亡霊の引導数データもあるし。てか数値が表示できないとか前代未聞だからなマジで。」

 途中からなんか文句っぽくなっていた気もするが、まぁ確かにそうだ。私たちは1つずつ棚を確認していく。案外すぐに人間担当の死神が書いたと思われる報告書が見つかった。

「あ、あった。これか。……引導数は……まぁ私のよりは少ないわな、たかが知れてるだろう。これいつごろのものだ……?」

 報告書が書かれた日時を確認する。おっと、これはかなり昔の物らしい。

「これは流石にデータとしては古いかも。なぁミラ、ミラの一代前の死神の名前とか、報告書を書いていた人間担当の死神の中で、一番最近の死神とか知らないのか?そのあたりと比較するのがいいと思うんだが」

 キオウ、か。キオウのデータを覗いていいのかどうか……。まぁ見るんですけど。

「キオウだな、私の師匠だよ。キオウも報告書を書いていたから、収納されているはず……」

「キオウ……分かった。その名前の報告書を探そう」

 棚を順番に見ていき、報告書をあさっていくと、キオウの文字が書かれた報告書を見つけた。これだ。

「これが……師匠の報告書……」

「おお、多いな……」

 かなりの数がある。キオウは長い間死神を務めていたようだ。大体……200年は越えている。

「うーんとどれどれ……」

 二人はとんでもない量の報告書を読み始める。途方もない作業だ。何分ぐらいたったかわからない頃。私は2つの報告書に目が留まった。1つは魂の引導数が突出しているものだった。私の今日の亡霊の引導数と肩を並べられるほどだ。そしてもう1つは自殺の引導数がかなり多くなっているデータだった。報告書には引導数のほかに、文章でも報告がなされている。私は順番に読んでみた。


 ——ある島にて引導を行った。島には大穴があり、そこに生きた人間が次々と投げ込まれて焼かれていった。終わりを知らない、そんな量だった。中にはすぐに亡霊と化してしまう魂も見られた。何故なのか、私には分かり得なかったが、虐殺とはどこか違うものを感じた——


 これが1つ目の魂の引導数が多くなっている報告書に書かれていた文章だ。このデータをミラーメトロの資料に使ってしまうと、私の過労具合が伝わらなさそうだ。

  

 ——前にきた島に再び降り立った。時計塔や建物が鎮座していたようだった。そしてやけに自殺の魂が多かったように感じた。最後に引導した時計塔にて生まれた魂は、何やら挙動がおかしくて、ある意味狂気を感じ取った——


 これが2つ目の文章だ。島、か。私が意味もなく、2つのデータを眺めていた。


 「ラ……おいっ!ミラ!!」

「うおっ、ごめんごめん、なんだ?」

 ツムギが私の肩を叩いて、呆れた顔で話しかけてくる。

「ったく、集中しすぎだぜ。ほれ、見つけたぞ。おそらくこの報告書が一代前のキオウさんが最後に書いたであろうものだ。全体的に報告書の引導数を見たけど、どれもミラほどではないようだった。自殺については正直あんまりデータが得られなかったな、まぁ死因ごとに引導数を手書きでまとめるとなると、さすがに無理があるんだろうな……」

 ツムギは報告書を順番通りに整理しながら紐で束ね、棚に戻そうとしている。そして私が持っている報告書も束ねようと催促してくる。

「ほら、その報告書も束ねるぞ。」

「待って、ツムギ」

 ツムギは顔をしかめた。私は手元の報告書を見つめた。何度も文章を読み返した。私の顔は徐々に冷徹になって行っていただろう。ツムギが覗き込んでくる。

「ん?その2つの報告書がどうかしたか?……えっ、なんだこれ!?引導数が半端ないな!このデータ、今のミラと並ぶぐらいの数値だぞ、そんな報告書もあったのか……しっかしこのデータは……」

「使うぞこのデータ」

「は?」

 私はツムギの声を容赦なくかき消すように言った。低い声だった。私の中は何かドス黒いものがぐるぐるしているようだ。私は真剣な顔だった。ツムギが驚愕している。

「は、はぁ!?おいちょっと待て!この報告書に書いてある引導数見ただろ?!今のミラの半端ない引導数と大差ねぇんだぜ?!この引導数とミラの引導数を比較したところで、差が少ないからミラの過労具合が全く伝わらないぞ!!一体何を考えて……」

 私の顔は今、とんでもない威圧感を帯びていると思う。何故だか、右目の残り火がこのタイミングで再び火を帯び始めていた。そんな目で私は、ツムギの方に目をやった。ツムギは体を一瞬で震わせた。私の目からは青い炎が見え隠れしていた。

「……使うぞ……ツムギ」

「……っ……わ、分かった、分かったってば!!!」

 ツムギは私の圧に気圧されていた。私は今、既視感の正体が分かった。悲劇の既視感が、蘇ってしまったのだ。折角ツムギが束ねた報告書は、床に無機質に散らばっていた。

ご覧いただきありがとうございます!38話です!ミラの右目の調子がまたまた燻り始めました。ミラの既視感の正体は一体何なのでしょう…?次回,お楽しみに!

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