35 海の都と亡霊島
―表裏一体な,世界を覗く―
私はツムギと別れた後、ポニーテールが可愛いトアを連れて引導へ向かった。いつも通りいろんな魂を引導していたが、珍しく自殺の魂には会うことがなかった。どちらかと言えば、亡霊が多かった。今回の現場は海沿いの町で、驚くことに車やバイクが一台も走っていない場所だった。町全体が、海なのだ。
「ワァ……ヒカッテル」
町の中にも水路があって、光を反射して光っている。私も初めて来た……はずだ。
「にしてもやけにこの場所は亡霊が多いな。魂も引導はしたけど、それ以上に亡霊が目立つな。」
言ってるそばから目の前にも何体か亡霊が。物理的に疲れそうだ。私はまとめて炎で包んで引導を繰り返し、町の美しさを堪能する暇もなかった。
「ミラ ダイジョウブ?」
トアが心配してくれた。一日でこんなに語彙って増えるものなのだろうか。
「ああ、大丈夫。にしても亡霊がすごい多い。亡霊が多いってことは、過去にこのあたりでなにか人がたくさん死ぬこととかがあったってことだと思うんだけど……」
私の言葉はそこで止まった。この町の雰囲気からはそんなものは感じられない。とてもにぎわっていて、美しい海に囲まれていて幸せな雰囲気を感じる。ずっと私は不思議に思っていた。ここは感覚が純粋無垢なトアに聞いてみることにした。
「……なぁトア、この町どう思う?亡霊が多いけど、不思議な感じとかするかい?」
トアは周りを見渡してから話す。
「アヤシイトコロ ナシ!」
はっきりと教えてくれた。まぁ、間違いない。
「まぁ、そうだよね。……」
私の顔は曇っていただろう。亡霊がこんなに多いのは初めてだ。その時だった。トアが突然私の肩に這い上がってきた。
「ミラ!!アレ!ボウレイガ……ッ」
私はトアの視線の先を見た。亡霊が湧き出ている。それもとんでもない量。海の上に浮かんでいるようだ。おぞましささえ感じた。すぐに海の方向へ向かうべく、町から出て、海の上を飛んで行った。亡霊が噴き出ている場所へ近づくにつれ、さっきのにぎやかな場所とは対をなす島が見えてきた。塔……だろうか。そのような建物の面影が見える。
「……なんだ……ここ……」
建物が残ってはいるが、人の雰囲気は微塵もない。不快な静けさがあった。私は正直入りたくなかったが、入ることにした。亡霊を引導しなければならない。一歩島に足を踏み入れた瞬間だった。
「!!ミ、ミラッ!コエ!スル!!コワイ!!」
トアはそう言って私の胸のポッケに隠れてしまった。私には声が聞こえない。島にはうじゃうじゃと亡霊が湧いているのがはっきり見える。しかし亡霊は声を出すことはないはずだが……。
「ミ、ミラ!!コワイヨ!」
「落ち着いてトア。声ってどこから聞こえるの?」
「ボウレイ……コエ!!」
私は少し驚いた。しかしトアは声がするという。私の耳に、海の荒波の音が聞こえた。音がした方を振り返った。
——地面には……白いものが露出していた——
私はぞっとした。声には出さなかった。というより、出なかったというのが正しいだろう。
「………………。……トア、ポケットから顔を出しちゃだめだよ」
私は一言トアに告げて一気に空へ急上昇した。トアは何も言わずにポケットに潜り込んでいた。震えているように感じた。
手に炎を宿らせて、私はそれを自分の目に宿らせた。目が青く輝いて、炎が揺らめいている。目は思いが宿る場所なのだ。目に灯った炎が私の全身を包み、火力がないはずの炎はたちまち火力を増した。
「…………」
私は何にも言わなかった。言う気にもなれなかった。青い炎で一気に島を包み、一気に空へと振り上げた。手が燻っている。目も。
そして本当に、何もなくなった。何も、なくなったのだ。
「……トア。もういいよ、出ておいで」
トアは恐る恐る顔を出した。キョロキョロしてから、もう大丈夫だと思ったのか、ポケットから出ていつもの定位置、肩の上にちょこんと乗っかった。
「コエ ナシ!」
「ああ。亡霊は全部引導したよ。……ねぇトア、この島に来る途中、なんか塔?みたいのが見えたんだ。見に行ってみるかい?」
「トアモ ミタ! タカイ タテモノ!アレダネ!」
空から降下して、塔の上の前に降り立った。トアは塔の壁に触れている。
「……テ ゾワゾワ」
「崩れてきているんだ。建物が腐敗しているんだよ」
私は塔の中に入ってみることにした。廃墟だ。空っぽだった。使われた痕跡はあるが、何に使われていたのだろう。とにかくボロボロだった。
「……ミラ!タテモノ!チカクニアル!」
確かに、塔の近くに何やら建物があるのをさっき空から確認した気がする。塔を後にし、近くにあった建物に入る。これまた廃墟だ。草が巻き付いていて、腐敗している。窓枠はあるが、窓はない。何も得られるものがなさそうだった。
「……トア、出ようか。もうここには何もない……」
「……ウン」
私は建物から出た。この島の謎は何も読み解けないままだった。他に島には何かないか探すべく、空へと舞い上がった。塔と1つの四角い建物が見える。
「コエ ナシ!ヒトスジノヒカリモナイ~」
私にもそう見える。見えるのは亡霊がいなくなって、空っぽになった島だ。塔と四角い建物だけがただ佇んでいる。しかしなんだろう。私には、この場所に既視感があった。最初に来た時には感じなかった、不思議な既視感があったのだ。
ご覧いただきありがとうございます。35話です。今回はかなりダークな話となっております。ミラの本気が見られましたね。さすがです。そしてミラが感じた「既視感」の正体とは一体何なのか。また次回お会いしましょう。




