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34 過去への招待

―過去は,たまに振り返ると,光っていることがある―

 アリスはふんふんっと鼻息を鳴らしている。何を言っているのだろうかアリスは。

「なんで『竹取物語』の翻訳?」

 私は誰もが思ったであろう質問を投げかけた。意外とアリスも突拍子もないことを言うことがあるらしい。

「なーに、簡単だよ!トアちゃんっ」

 アリスはトアとしっかり目を合わせている。トアは困惑している様子。

「トアちゃんはさ、今まで頬を通していろんなことを知ってきたんだと思う。おかげでこの前は頬が光って、『想いの光』と思わしきものも発現できた。だけどさ、トアちゃん……それを伝える手段はきっとまだ発達段階にあるのよね。私はそのお手伝いがしたい。トアちゃんの”ここ”にあるもの、他の人にも教えてみようよ、ミラがいつもトアちゃんに感情とか教えるみたいに、今度はトアちゃんが教える番だよ」

 アリスはトアの頬に指を置きながら話した。トアの頬がぶあーっと熱くなった。

「ホホ アツアツーッ!!」

 トアの頬が震えている。私はあっさり教えてあげた。

「そりゃ、トアの頬が『感化』されて、奮い立たされたんだ。やってやるぞぉおおってね」

「ヤッテヤルゾォォォ!!ッテホホガナッテルンダゾォォォ!!」

「その勢いだよトアちゃん!!竹取物語を翻訳して、ついで他の本も翻訳しまくって、アピール精神身に着けちゃいましょ!!!」

「変なことは吹き込むなよアリス~」

 その後、話はとんとん拍子で進んでいった。これからしばらくの間、仕事終わりにトアをアリスへ預け、アリスと共にトアには『お勉強』をしてもらう。日本文学を通して流暢な言語と、文学の中から得られる美学やら感情やらを吸収してもらう。つまり、アリスはトアと一緒に夜を明かすわけだ。変なことにならないといいが。しかし良い機会なので、私はその間、ツムギと共に資料の作成へと本腰を入れることとした。私も学ばなければならない時期なのだろうから。もう12月は目前。資料のタイムリミットは1月中。結局、過労かもしれない。




 次の日。早速トアはアリスの家にお泊りした。私はいつも通り起きた。いつもと違ったことと言えば、トアという抱き枕がいなくてすぐ寝付けなかったことぐらいか。いつも通りヨノアに出社し、アリスとトアが来るのを待つ間、私はツムギのデスクへと向かった。最近ツムギは朝が早い。大抵いる。スゴイ。

「ツムギ、おはよ~。最近早いな」

「ん、……ミラか。」

 不思議な間があった。さては。

「トアがいないからか」

「……」

 図星だったらしい。うつむいているツムギをニヤニヤしながら眺めた。

「……で!!何の用だミラ。冷やかしだったらマジで許さん」

「違うよ。わざわざそのためだけに来るほど私はまめじゃないし」

 私は一息置いてから話し始めた。

「前取ったデータの件だ。やはり自殺が引導数の大半を占めているわけじゃなかっただろう?」

 ツムギは私の引導データのグラフを表示して確認しているようだ。

「うん。一目瞭然だな。なんか思ったより偏っていない感じがする。自殺が原因と言うよりも、シンプルに引導数が増えているのが原因だろう。下の世界で魂が増えすぎているんだろうな。」

 ツムギは表示されているグラフを見ながら推察している。少し頭を掻いていたツムギだった。

「ミラーメトロを作りたい根底の理由は『自殺』だ。だからデータも『自殺』に焦点を当てたものを作る必要が出てくる。しかし引導数の大半を自殺が占めているわけじゃない。引導数自体は増えすぎてるから、鏡を通して三途の川に魂を送るって言う理由には合理性があるが……」

 そう。鏡に「自殺に追い込まれそうになっている人を救うシステムの役割も持たせる」という要望を通すには、自殺について何か言う必要が必ずある。なぜ『自殺』にこだわるのか。そこを浮き彫りにしなければならない。私は少しだけ考えた。……あ、そういえば。

「……あ、そうだ。ツムギ、今日の夜空いてるか?」

「え、良いけどなんでだ?」

 ツムギは私の急な提案に動揺している。

「資料室に行こう。引導課の。昔の資料から引導数をグラフに書き出して、今の私のデータと比べるんだ」

 ツムギははっとしていた。さすが、理解が早い。

「なるほど!昔の自殺者数と今の自殺者数を比較するのか!」

「ああ。昔は今ほど自殺はなかったはずだから、今の私の状況がいかに異常か分かる気がするんだ。」

 過去にキオウの助手として動いていた時期は,今ほど過労じゃなかったことを私はよく覚えていた。自殺のように考えさせられる引導はあんまりなかった気がするのだ。

「すごいなミラ、よく思いつくね。じゃあ今日の夜な。とりあえずミラはいつも通り引導してきて。前教えたネックレスの切り替え忘れるなよ」

 私はチラッとネックレスを見た。そしてツムギを見て頷く。視界の端っこに白髪が一瞬映った。トアとアリスだ。

「おっはよーー!!」

 アリスの元気な声が体に浸透していくようだ。アリスの肩からトアが下りてくる。しかし何か違和感が。

「見てよ二人とも!トアちゃんの髪!ポニーテールにしてみた!」

 ツムギにおそらく雷が落ちているのだろう。私はあえてツムギには触れなかった。ちょっとくるくるしたポニーテールが揺れている。

「ミラ!ワタシ!ウツクシ??」

「……まぁ、なるとは思ってたよ。おいアリス、何教えた?」

 アリスはけろっと返事をした。

「昨日は竹取物語の冒頭を教えたわね、『うつくしゅうていたり』っていう部分があったじゃない?それをしっかり暗記したのよ!もうほんと飲み込み早くて驚いたわぁ」

 ツムギはトアの髪型を見ていろんな意味で飛んでいる。ポニーテールは確かに破壊力高めかもしれない。

「……うん、トア、美しいよ。」

「ヤッタァ!ウレシイ」

 こりゃトアがチャラくなってしまうかもしれないと少し心配しつつも、成長するトアのポニーテールは元気に揺れているようだった。

ご覧いただきありがとうございます!34話です!それぞれ一歩を踏み出しつつありますね,トアはどんな成長を見せてくれるのか,楽しみです!そしてツムギとミラ。過去の資料は何を見せてくれるのか。次回!またお会いしましょう!

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