33 Welcome to Alice world
―今となっては,もう昔の話ですが―
アリスの手作り寿司(若干1名手巻き寿司も全部食いました)を堪能し、私たちはだらけて……はしまわなかった。本題が何も進んでいない。このまま寝たりしたらただ寿司を食いに来た客も同然だ。私たちはアリスと一緒に洗い物を手伝った。トアは手が冷たすぎて、終始震えていただろうか。洗い物を終えて、3人が一息付けたところで本題に入る。
「ふぅ。よしアリス、本題なんだけど。」
「うん!教えて教えて?トアちゃんのことって?」
アリスはトアを膝に乗っけながら話を聞いている。トアはお寿司の余韻に浸っていて、おそらく今は何を言っても返事はしないだろう。お寿司を食うアンドロイドって、何。
「今日、下の世界で引導を行っていた時のことだ。その時に、英語を話す女性の魂に出会ったんだ。私はアリスに多少鍛えられていたこともあって英語を話せたんだけど、トアが、『to do』って魂が言ったことに対して『テゥデゥ』って聞き取ったりしててさ」
「いや可愛いかよ」
切れが半端な言いアリスの返事である。私もこれには笑った。
「で、その女性はどうやら他国から来たものだったらしくて。言葉もうまく通じておらず、孤独だったんだって。まぁ引導はしたんだけど……」
私はそこで一度言葉を止め、アリスが出してくれたお茶を飲んだ。アリスは真剣な顔で聞いている。
「それで思ったんだ。私の言葉だけを教えていては、トアもいつか言葉の違いによる『孤独』を感じてしまうのではないかって。考えすぎかもしれないけどさ。だからトアに、なんでもいいんだ、言葉の『引き出し』じゃないけど、なんかそういう感じのものを増やしてやりたい。アリスは私の知らない言葉も知っている。だから……」
アリスはとても真剣に聞いていた。心なしか、トアを抱いている手に力がこもっているようにも私は見えてしまった。
「……なるほど……。……うん、うん、なるほどね……」
アリスはしっかり受け止めているように見えた。ゆっくりと息を吐いて、重く受け止めてくれているようだ。そこまで重い話でもなかったと思うのだが。少なくとも前のミラーメトロの方がもうちょっとシリアスだったのではと私は勝手に考えていた。
「……ミラ、トアちゃん。長い話になるけど、ミラの覚悟をここまで見せられたら、私も黙っちゃいられないね。ほんと、ミラは私を煽るのが上手だね。その気になっちゃったよ」
私は少し不思議に思っていた。トアも、頬を触っている。困惑の頬っぽい。アリスはおもむろに立ち上がり、居間から出た。すぐに戻ってきたアリスの手には、何やら古ぼけた本が。机の本を置いたアリスは、真剣な顔で話し始めた。
「……教えてあげるよ。私の記憶と、言葉の引き出し……『日本文学』を、ねっ」
——もういつの話になるのかなぁ。懐かしい。私の生前の名前、なんだったかな。うーん、あ!思い出したわ!私の名前は……「アマネ」だった。
私は確か、日本人の母「優香」と、アメリカ人の父「ジェイド」の間に生まれた。だからかな。日本語と英語、どっちも喋れちゃったんだ。私たちはアメリカに住んでいたなぁ。で、お母さんがアメリカで和風のカフェを営んでいて、大繁盛してた気がする。パパは日本人にあこがれて、日本に旅行に行ってた時にママと知り合ったんだって。まぁ、二人のランデヴーなんか今はいいけれどっ。私は幸せだったわ。ママの手料理はシンプルだけどほんとに美味しくて、私は常に『風邪知らず』だった。パパも優しくて、日本のこととなるとミーハーだった。
でも、ママはほんとに毎日忙しくってね、パパもカフェの経営の手伝いに加えてたまに在宅ワークもしてたし。家族で外食!とかはしたことなかったの。不自由はしてなかったわよ、学校にも私は行っていたし、カフェのお手伝いだってしてた。平凡で、でもそんな日々は大好きだった。
そんなある日、私が……中学一年生になったときね。学校でお友達がこんな話をしていたんだ。
「日本へ旅行に行ったんだけど、その時食べたお寿司がほんとに感動的だったの!!生ものなのに、あんなにおいしいなんて……日本に移住したい」
私はピンとは来なかったわ。だって普段からママの日本料理食べてたから。それが日常の一部になってしまっていたし、和風カフェで出すメニューとかも食べたことあるけど、美味しい以上の何物でもなかった。そして同時に疑問が浮かんだんだ。
「パパって、なんであんなに日本が好きなんだろ」って。私も日本は好きだけど、これって言う理由はあんまり思いつかなかったし、嫌いではない、って感じだった。だから私、帰って聞いてみたのパパに。どうしてそんなに日本が好きなの?って。そしたらね、
「理由はそれぞれだよ、僕に聞くより、感じた方が早い。ママに聞いてごらん」って。教えてくれてもいいのにって思いながらママのとこに行ったの。お客さんの波が一段落していた時だったから、ナイスタイミングだったわね。
「ねぇねぇ、パパが日本を好きなのはなんで?」
ママはニコッと笑って、私を和室に促したんだ。なんだろなんだろって思ったんだけど、そこにあったのは「静」だった。生まれて初めてこんな静かな場所に来たと思った。
「日本はね、『語らない』美学があるんだよ。この部屋はとてつもなく静かでしょう?でも、置いてある物それぞれが私たちに語り掛けているんだよ。意味を持っているの。アマネ、あなたは今学校でいろんなこと学んでいるわよね、でもそれは、『一方的に』教えられていること。日本にはね、自分たちで感じる学びがあるんだよ。」
私は初めて、ママの言っていることがはっきりと理解できなかった。語らないのに、伝わるの……?
その後、私はママの話がずっと気になった。でも教えてくれなかった。初めてママはじれったいと思っちゃった日もあった。私は好奇心の塊だったから、自分で知る術はないかと思って図書館に行ったのよ。で、散策して、多言語コーナーに行った。ここになら、日本のことが分かるものの1つや2つ、あると思った。でもね、私は次の瞬間、不思議な本に巻き込まれちゃったのよ。日本語で書いてあったから、私にだって読めると思って適当に手に取った本。その本の書き出しは、
——「今となってはもう昔のことですが、竹を取って暮らすおじいさんという者がいました。」——
私はつい読み入ってしまったわ。『輝夜姫』っていう名前が素敵すぎたし、何より月のお姫様って!ロマンチックだわ!って。でね、最後の文章、輝夜姫が月に帰っちゃったあと、ミカドさんが不死の薬と手紙を一番空に近い山に持ってって焼かせたっていうシーンを読んだとき、やっと分かったの。ママはこれを言いたかったんだって。煙が天にむかって立ち登っていた。これって何にも考えず読んだらまぁ文の通りじゃん?でも、輝夜姫は月に帰っちゃった。月は空にある。煙は天に向かって登っていく。ミカドは手紙を焼いた……。
私、知らなかったの。言葉は使ったもん勝ちだし、言ったら言っただけだって思ってた。アメリカの子たちだってみんなそう。言いたいことをいっぱい言ってアピールして。でも日本はそれだけじゃない。遠回しに、美しく伝えていた。風景描写に意味を持たせていた。語っていなかった。風景を映し出していた。これが、語らない美しさの正体かって。私は日本が大好きになって、アクティブ少女から文学少女に生まれ変わってしまったわね。毎日図書館に行っては日本の文学いっぱい読んだ。日常が輝いて見えた。その日以来、お母さんの和風カフェのすごさが分かるようになった。そしてほんのちょっとだけ、太った。大福の食べ過ぎで。
幸せだった。私は幸せだったの。生まれ変われるなら輝夜姫になりたい、なんて思ったこともあったかも。でもそれは、洪水に流されてしまったわ。私もろとも、ね。
——「で、気づいたら私はアリスになってた。死神として植物の引導を叩き込まれた。でもそれも楽しかった。竹を見るたびに思い出すわ~。」
私は静かに聞いていた。こんな過去があったとは。一つ言えるのは、きっとアリスは今も幸せであることぐらいだろう。
「で、ポップティアーズが発現して。その時に、昔輝夜姫読んでた時に思ってたことなんだけど、輝夜姫は笑顔で空に昇って行ったわけじゃなかったじゃない?だから、涙も笑顔に変えられるんだよっていうメッセージがそこから浮かび上がったんだよ」
トアの頬も反応している。温かい色をしている。ナゴミ、かな?私も感動していた。そんな空気を叩き割るかのように、アリスは何かを勢いよく言いだす。
「だからっ!トアちゃん!!私と一緒に『輝夜姫』を翻訳しましょうよ!!」
「えっアリス?」
「ヘ?オネエチャン?」
不思議な国はやっぱり、不思議な国なのだった。
ご覧いただきありがとうございます!33話です!ついに,ついにアリスの過去が明らかになりました!これはアリスファン増えること間違いなし(?)です!
そして皆さんお気づきかもしれませんが,前書きにてちょっとしたキャッチコピーを一言加えるように変更いたしました!変更が急で申し訳ない…。そして,第3幕終了後からはしばらくそのキャッチコピーは書かずに,第4幕終了後から『第4幕の回想』として,キャッチコピーを追加していこうと考えております!いつかキャッチコピーコンテストじゃないけど,募集しても面白そうですよね!簡単に言えば,一幕終わるごとに,その一幕前のキャッチコピーを『回想』として追加していくイメージです!いつでも余韻に浸りに来られるようにね!それでは皆さん今日も輝きのある一日となりますように。




