27 ツムギ紡ぐ
―切れない糸はありません。でも,縫えない糸は,ないと思う―
次の日。いつも通り起床した。囲炉裏の方からだろうか。おでんの匂いが残っているようだ。傍で私に抱かれているトアがいる。
「オハヨウ ミラ!」
「おーおはようトア。……おでんの匂いがまだ残ってるみたいだな……。まぁ確かにまだ昨日の残り物として置いてあったような覚えもある……。……え、でもそれにしてはちょっと匂いが残りすぎな気がするんだけど。……ん?え……???ちょ、ちょっとトア、失礼っ」
私はトアの匂いを嗅いでみた。あきらかにおでんだ。全身からおでんの匂いが。私は驚いてしまった。
「えぇ!?トア!?全身おでんのにおいがするぞ!?もしかしてトア、食べたものが匂いとして発信されるのか?」
「トア ニオイ オデン! ウレシイ」
「い、いや流石にダメだろ。おいで、味覚もあって触覚もあるならシャワー浴びられるはず」
そうして朝から風呂にトアを叩き込んだのだった。
いつも通り(どこが)私とトアは出勤した。トアの髪は乾かす時間がなかったため、私がお団子にくくっておいてあげた。お風呂上がりで頬がホカホカなトアは、いつもに増して可愛い。引導課のオフィスに入ると色々な社員がいる。トアは洗うのに時間かかったからか。ツムギの姿もある。珍しく眼鏡をつけているが、少年のような雰囲気はあんまり消せていないどころかむしろ強調されてしまっている。ツムギは私たちにすぐに気づいた。来るのを待っていたようだ。
「オハヨウ ツムギサン! コレ ナニ?」
「おはよ……どうしたんだトアお団子にして、(え、やば待ってこいつ狙ってやってんの、え、可愛い……←もちろんトアにはお見通し)」
トアの頬が赤くなっている。風呂だけが原因ではなさそうだ。
「ツムギ、どうかしたのか?顔も少し赤いし、眼鏡つけてるじゃん。珍しい。イメチェン?」
「メガネ?」
「目がよく見えるようになるアイテムだ。トアはつけない方がいいよ、目が回っちゃうからね。で、ツムギ、何か用があったから話しかけに来たんだろう?トアの視察か?」
「違う!!!いちいちからかうなっ!!!交霊会議に出席するときに使う問題点をまとめる資料についての相談だよ。1つ取ってきてもらいたいデータがあるんだ。」
ツムギはそう言いながら私とトアを自分の窓際の机へと促してくれる。机に置いてあるバーチャルディスプレイには棒グラフが映し出されていて、やけにグラフが長くなっている。ツムギが机に座り、データを解説してくれるらしい。トアは目の前に映し出されているバーチャルの映像を触ろうとしていた。
「コレ サワレナイ……」
「バーチャルディスプレイって言ってねトア。目の前に映ってるだけなんだよ。だから持てないんだ」
「ヨクワカンナイケド スゴイ!」
ツムギは少しだけ顔を緩ませながら、早速本題を話し始めた。
「これはミラの引導数データだ。これだけ見ても、確かにノルマの引導数をゆうに超過しているから過労になってもおかしくない、というか過労の危険性がかなりあったということが示せるんだ。しかし昨日のミラの話を総括すれば、『自殺者』を減らしたいというのが目的のはずだ。これは間違いないな?」
ツムギは眼鏡をかけているだけでは少年のような雰囲気は強調されているように思えるが、データを見ているときのツムギはまさにアリスが憧れていた姿そのものだ。急に青年に成り上がった。
「ああ。それで間違いないよツムギ。」
「よし、とりあえず期間はある。まだ11月下旬だからね。最初に、ミラが仕事で抱えている問題点を示す資料を作成する。そのためにはまぁこの引導データを突き出せば済むんだけど……それだけでは少しデータ不足だと思うんだよ。」
ツムギは示されているデータを指さした。私はそこに注目する。
「この引導数データは、あくまでどれぐらい引導したかってだけなんだ。で、資料を作るにあたって、『自殺者の魂の引導数』を用意する必要があると思う。そうすればこの自殺者の魂の数が全体の引導数をどれぐらい占めていて、圧迫しているか。圧迫していなくとも、自殺が減れば、少しは楽になること間違いなしだって言うことができる。そしてその策としてミラーメトロが~ってつなげられる。なんとなくわかった?ミラ」
なるほど。やはりツムギを手玉に……仲間にしてよかったと思った。トアは全くわかっていないだろう。無理もない。
「わかった。要するに、自殺者の引導数を提示しこれらの自殺者の魂が全体の引導数を圧迫していて、私を過労に追いやっていると言うためのデータを取ってこい、と。」
「話が早くて助かる。そういうことだ。一応確認なんだけど、他の死因で亡くなった魂も無論いるわけだけど、自殺の魂以外は多分どうにもできないんだよね?」
「うん。生物はいつしか死ぬからね、私が止められると思うのは『自殺』だけだ。自らの意志で自分を殺しているわけだから。これ以外の死因は……私の力量じゃ無理だ、医者じゃないし。」
ツムギは頷くと、画面を別のものに切り替えた。私には何の画面なのかわからない。
「これは引導担当の死神に配布されているネックレスの管理画面だ。ミラのネックレスだけちょっといじって、自殺の魂を引導した際、全体の「全体の引導数」と「自殺に限った合計引導数」の2つにそれぞれ保存されるように設定しておくよ。ただ、普段そのネックレスは、魂を引導したら合計のデータとしてしか残らないから、自殺の魂に出会ったらネックレスに1回触れるようにしてくれ。そうすれば、自殺の引導数データと全体の合計の2つに保存されるように切り替わる。終わったらもう1回ネックレスに触れて元のモードに戻してから仕事を再開する。いっぺんに話したけど、わかったか?」
「要するに、自殺の魂にあったらネックレスを触れよってことだろ?で終わったらもう1回触る。承知だ。」
「そういうことだ。頼む」。
さすがだ。本当に青年になりつつありそうだ。ツムギは一度バーチャルディスプレイを閉じた。
「……俺は確かに、現場を知らず表面だけ見ていた未熟者だ。だけど、今までやっていたことを間違いにはしたくない。ミラに教わった現場のリアルは絶対に忘れない。でもそれを伝えるにはデータが必要だ。頼んだよミラ。それにトア、髪型似合ってるぞ。」
私は少し驚いた。ツムギがこんなことを言うなんて。私は静かに、でも確かに笑っていた。私が何か言いかけた時だ。
「ツムギ! スゴイ! メ キラキラ!!」
トアがツムギの目が光っていることに気が付いたようだ。トアは頬をツムギとすり合わせている。
「お、おいっ!トアっ、い、意外と頬俺弱いんだから勘弁してくれっ!」
ツムギは焦っているが、どこかスッキリした、穏やかな雰囲気を感じた。そして私だけだっただろう。トアがツムギを呼び捨てにしていたことに気が付いたのは。
ご覧いただきありがとうございます!27話です!ツムギが成長し始めていてとてもほっこりするエピソードとなっております!トアも可愛く決まっていますね!さぁ本格的に始動し始めたミラーメトロ計画。この先どんな末路をたどるのか。お楽しみに!




