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26 言葉を越えて

 ―一番光ってるときって,ご飯食べてるときかも―

 部屋はいつもの倍明るい。トアの頬が輝いている。

「と、トアちゃんが光ってる…っ」

 アリスが驚いた目で見つめている。ツムギも驚いてはいるが、どこか冷静だ。というのも…

「……なんかちょっと……シュール……頬なんか体積増えてね?」

「それを言うなツムギ。気持ちはまぁ……いや分かるわ。なんかシュールだよトア。とりあえず今口ん中に入っているであろう餅巾着ごっくんしなさい」

 トアは餅巾着を飲み込んだ。頬がいつも通りに戻った。光っているけど。

「この頬は一体……?……トアちゃん、頬どんな感じがする?」

 アリスがトアの光っている頬に触れてみる。

「あったかい……。でもなんか、光っているからもっとわかりやすくあったかいのかなって思ったけど、ほんのりあたたかいな。ゆっくり伝わってくる感じがする。」

 トアも自分の頬に触れている。

「アッタカイ……コレ ナンダロウ」

 トアも初めて経験する頬のようだ。

「そして光ってる、と。」

「ワタシ ヒカッテル? ホタル! トーロー!」

 光ってるものといえば、今までトアに教えたのは蛍と灯籠だったのを私も覚えている。ツムギは不思議そうな顔をして聞いていた。

「トア、頬光ってるけど、トアは灯籠でも蛍でもないよ。これは私の予想だけど、その光はもしかしたら……『想いの光』かもしれないよ。」

 アリスが少しピクッとしてこちらを見た。嬉しそうなアリスだ。

「アリスオネエチャン イッテタ ヒカリ?」

「うん、まだわからないけど。実際に魂が引導できるか確かめないといけないし。にしても光ってるねぇ……」

 私もトアの頬を触ってみた。アリスの言った通りだ。今までトアに出てきたことのない頬だった。

「トア、その光に名前をつけるなら何になるだろう。」

 私はトアに静かに聞いてみた。トアは黙り込んでしまった。ようやく何か喋ったと思ったら……。

「……ヒカリ ミエナイ」

 どこからか風が吹いてくる。その雰囲気を割ったのは私だった。

「……あはははっ!!!確かにね、トアには自分の頬を見られないから、名前をつけようにもつけれないじゃないか」

「……なんともしょうもな……可愛らしい悩みだな」

 一瞬だめなことを言いかけたツムギだった。私はおでんの鍋をそこにあった蓋で閉じて、火を弱めておいた。火を弱めたからか、部屋が元の明るさに戻る。

「ホホ モドッタ」

 トアの頬も元に戻っていた。ようやく元の私の家だ。アリスはトアの頬を触って遊んでいる。

「ところでミラ、今さっきの話はわかったけど、『心理学』のことはわからなかった。教えてくれよ」

 確かに、ミラーメトロの話をしても、『心理学』のことがわかるわけではないだろう。そしてツムギはその話を聞くためにここにいる。教えてやらねば。

「すまんすまん、ツムギの疑問も解消しないとだね。……『心理学』。これは一言で言えば『心の学問』なんだ。」

 ツムギは真剣に聞いている。アリスもトアもだ。

「私は生前これを少しだけ学んでたんだ。死神になる前、ね。でもねツムギ、この学問はいわば『科学』。合理的な学問なんだよ。ツムギが得意なデータを集めて分析する学問だ」

 ツムギは驚いた。そりゃそうだ。そして疑問が湧いてくるのも自然だろう。

「そうなのか?!じゃ、じゃあなんでミラは感情やら何やらわかるんだよ。分析したってのか?」

 そう思うのも最もだ。ツムギにとっては馴染みがありすぎる。しかし私は非合理的である。

「それが違うんだよね、だから私が生前学んでいた心理学は実はあんまり好かなかった。その理由がこの前ツムギに教えたものだ。分析する学問だと、そこから外れたその『1人』にはあまり注目しない。だから『リアル』が欠落しがちなんだよ」

 ツムギはあの日に見た狂気を思い出していた。少しだけ震えているようにも見えた。

「その『リアル』がミラっちが思う『心理学』ってこと?」

 アリスがさらっと聞いてくる。

「うん。人一人には必ずその人独自の何かがある。それに注目する。それが私の『心理学』。それの積み重ねを生前していたから、ある人を見た時に私なりのフォローができるってわけさ。わかったかいツムギ」

 ツムギは少しモヤっとした顔をしている。何かまだ気になるのだろうか。

「わかったけど……あの少女の魂いたじゃん?どうしてあの時言ってた、『寂しさを埋められるのはこの世界でだけ』ってわかったんだ?それだけ教えてくれよ。これだけは気になる。俺が変わるきっかけになった魂だったからさ」

 ツムギも成長しているらしい。狂気を突きつけられて、表面だけを見ることの愚かさを痛感しているのだろう。ツムギにもその『何か』を感じ取れるようになっている……と嬉しいのだが。

「これは『心理学』の中のある実験から私が思ったことから来ている。『ハーロウのアカゲザルの実験』と言うものがかつてあったそうでね。これは簡単に言えば『愛着形成』にかかわる実験だった。実験内容は省くけど,結果的にこの実験では,『愛を感じるには肌の温かさが必要である』ことを示した。愛は言葉では語れない。触れ合って初めて生まれる。ってね」

 ツムギはようやくすべて納得したようだった。同時にどこか笑っているようにも見えた。ようやく静寂が戻ってきたのだ。


 


 

 

ご覧いただきありがとうございます!第3幕がスタートしました!そしてやっと心理学について明かされましたね!この先どのようにミラーメトロ計画は進んでいくのでしょうか?こうご期待です!

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