25 トアの光はすべてを照らして
―まぶしい。目はくらまないのに―
おでんがおいしそうな音を立てて沸騰している。私は全員によそった。取り皿に触れたトアの手が震えている。
「アツアツ!!ビックリ」
「あはっ、大丈夫トアちゃんっ?……あれ、てか待って。トアちゃんってアンドロイドなんでしょ?食べ物なんか食べられるの?」
「確かに」
ツムギとアリスが急に素朴な疑問を抱き始めた。ついさっきまで私は一体何を企んでいるんだとか言ってたくせに。食べ物を前にするとやはり和んでしまうのが普通なのかもしれない。
「そうなんだよ、食べさせたことなかったから。でも視覚があって触覚があって、頬の温度を感じられるんだったら味覚もないかな~とか思ったんだよ。それにトアはただのアンドロイドじゃなくて『瑠璃の灯』が灯っている。味覚も灯ってないかな~」
「大事な炎の使い方違くね」
すかさずツムギがツッコんでくる。トアはおでんを眺めている。
「トア、口開けて」
「ハイ! アー……」
なぜか声も出してくれるトア。こういうとこなのだ。トアは口に入ってきたちくわをすんなり咀嚼した。あまりにすんなりいったので、一同驚いている。
「食べたわ」
「えぇ!?」
「噓ぉ!?」
するとトアは口をハフハフし始めた。
「ファっ、アツイ!」
「と、トアちゃん……?大丈夫……?」
「お、おいミラ、これでトアがバグったらどうするんだよ?!」
私は焦る様子もなく見守っていると、トアの頬がぶわっと赤くなった。
「わぁーっ?!ほらやっぱり!ミラっちがちくわあげるから!!頬真っ赤っかになってるじゃない!」
ツムギが台所から水持ってこようとした時だった。
「……ナゴミ!」
「……へ?」
「……トア?」
2人は似たような反応をした。私は冷静にトアに教えてあげた。
「その頬は『美味しい』って言うんだよ。なにか食べ物を食べたとき、頬が落ちるぐらい頬が喜んでいるんだよ。今の頬ちょっと重いんじゃない?トア」
トアは口から少し湯気を出しながら、自分の頬を確認した。
「アツアツ オモイ オデン オイシイ」
ご満悦のご様子なトアだった。
「マジかよ、味覚も灯ってるのかよ……。ミラの炎ってなんか奥深いけどちょっと目的とずれてるような気が……」
「そういうところはツッコまない方が幸せだぜツムギ。知らない方がいいことなんかたくさんあるよ」
一同が驚いてる傍ら、トアは暢気に餅巾着をほおばっていた(しかも一口で)。頬が物理的にパンパンだ。
「コレ オキニイリ」
トアは餅巾着が気に入ったらしい。私も餅巾着が一番好きだ。おんなじ炎を持つ者同士、やはり通じ合っているのだ。
「もう何でもありねミラっちの炎……。」
アリスもさらっとおでんの卵を頬張っている。リスが2匹に増えた。
「トア、餅巾着一口って……いけるもんなの?」
「オイシイヨ!」
トアのかなりぷっくりした頬で言われたツムギは渋々やってみたりしていた(無論後悔してた)。
おでんを少しカオスも交じりながらも堪能したアリスはようやく本当の疑問に戻ってきた。
「で、ミラっち。さっきも私に取引持ち掛けてきたけど、一体何を企んでいるの?」
私は餅巾着を食べながら暢気に答えた。
「『労働改革』をする」
一瞬時が止まった。
「はぁ!?」
「マジで言ってんのか!?」
「ミラ! コレ オイシイ!(一人だけ違うことを言ってる)」
全員各々な反応をしてくれた。トアは相変わらず頬パンパンだ。確かにツムギに取引を持ち掛けたはいいものの、具体的に何が目的かは伝えていなかった。アリスについては何にも伝えていない。私は大根を頬張りながら暢気に話始める。
「あのね。トアと一緒に魂を引導してたときにふと思いついたことだったんだけど、まず私は今過労気味じゃん?魂が増えすぎていて。これはアリスも知ってるし、ツムギもデータが超過していることから把握してたよね?」
「ああ。ひどく超過していたな。」
やはりデータだけ見てもかなり外れた値を連発していたのだろう。ツムギが把握しているということはそういうことだ。
「で、特に『命を自ら断つ者』が目立つ。これは私が個人的に感じたことだ。私はこれをどうにかしたい。」
こんにゃくを咀嚼しながら話す。アリスとツムギは混乱している。
「い、いやそれをどうにかしたいって言われても、自殺が増える理由がわかるわけでもないわけでしょ!?」
アリスがごもっともな反応をする。
「ああ。分からないな。私には。でもこの場には一人『例外』がいるじゃん」
ツムギはすぐに気づいて、大きい頬をしている女の子を見た。
「……トア、か……!」
アリスもトアを見つめた。
「ン?オイシイヨコレ!」
おでんを暢気に食べているトア。餅巾着が心なしか減ってる気が。私は少しだけ鍋のことを気にしつつ話し始めた。
「トアは心が読めるアンドロイドだ。今感情も少しずつ覚え始めている。で、ふと思いついたことがあったんだよ。」
アリスとツムギは緊迫した面持ちで聞いている。トアの咀嚼音だけが日常の音だっただろうか。
「私が生前大事にしていた言葉があるんだ。……『他者は自分を理解するための鏡である』。これを体現できると思うんだ。そして今までトアと見てきた自殺者の魂は、『自分』をちゃんと理解できていなかったり『自分』がたくさんいたり、『自分』を主張できる場所にいなかったりした。その『場所』を作りたいんだよ。」
アリスとツムギは大混乱している。当たり前だ。
「え、え?その『場所』って……?」
アリスが控えめだが食い気味に聞いてくる。
「要するに、『自分』を見つめる場所を作りたいんだ。そしてその自分を偽りなく見ることができる者が今ここにいるわけで。自分が分かれば、一度立ち止まって考えなおせると思うんだよ」
なんとかアリスたちは理解できたと思う。しかし腑に落ちたわけではない顔だ。
「で、でもミラっち、どんなことしたら過労どころの問題じゃ済まないんじゃないの!?」
「大丈夫だ。私が考えた労働改革ならその問題も解決できるんだよ。自殺者も救い、私も救う。得しかない改革だから。今から説明するよ」
私は和室にある棚からノートとペンを持ってきた。
「改革名、『ミラーメトロ』。端的に話そう。この改革では主に二つの改革を行う。まず一つ。下の世界の鏡を全部駅にして、三途の川まで直通させる」
「はぁ?!??」
「んなことできんのか?!」
アリスとツムギは驚愕している。
「そうすれば、私はその魂に炎を灯して鏡に入れればいいだけになる。」
「……引導しても同じ速さなんじゃないのか?」
ツムギが顔をしかめながら聞いてきた。ツムギは引導を担当する死神ではないのだ。
「そう思うだろ?引導自体に力がいるんだよ。そりゃそうだろ上の世界まで直接送るわけなんだから。私の過労の原因はそれだよ」
私はカリカリとノートに書き留めていく。おでんを食べながら。アリスは動揺している。
「で、でも鏡をそんなふうに改造なんか……私たちの力じゃありえない話よ?!どうやって……?」
私はニヤっと笑った。覚悟は決まっているのだ。
「だから今度の2月にある交霊会議までにミラーメトロの資料と、私の仕事上の問題点……『人が死にすぎていて引導が追いつかない』ことを示す資料を用意して、ヨノアの最高責任者の『神様』に直談判する。神様は創造神だ。鏡の改造ぐらい容易いはず。」
「ええええええっ!?!?」
「か、神様にか?!マジで?!」
さっきから二人は驚きすぎて声を上げている。それぐらい私はあり得ないことをしようとしているのだ。
「か、神様って、ミラっち簡単に言ってるけど、対談すら叶わないようなお方よ?!」
「最初から直談判するわけじゃないよ、だから最初は交霊会議で他の課にも共有するの。」
2人はさっきから箸が進んでいない。トアはめっちゃ食ってるけど。私はそんな2人に追い打ちをかけるようにもう1つの改革を話し始めた。
「そしてもう1つ。生きている者が鏡の中に入った時、自分を映す空間へと転送し、自殺しそうになっていたりした者が自分を見つめ直せる場所を作ることだ。いずれその鏡の中にトアを配置しようと思う。初代『リーダー』としてね。こっちの方が私は大事だと思ってる。」
もう2人は声も出ないらしい。
「リーダー?」
トアが反応する。
「鏡の中で人の中を覗き、映すための存在って意味。トア、君はもともとどういうアンドロイドだった?」
トアはすかさず答えてくれる。
「ドクシンジュツトウサイカイワアンドロイド!」
「それになりたくはないかい?トア。いろんな人を救うアンドロイドにさ」
トアはポカンとしていた。私はトアを見ながらゆっくり頷く。その時だった。部屋が突然輝きだした。
「え?!何々~!?前が見えないっ」
私も咄嗟に目を閉じた。目が慣れてきた頃、ゆっくり目を開け始めた。
目を開けたそこに入ってきたのは……。頬が光り輝いたトアだったのだ。
——「ワタシ リーダー ナル!!!!!!」——
第二幕「言葉の裏舞台」完。
ご覧いただきありがとうございます!25話です!そしてそして!第2幕,完結となります!次の第3幕は何がテーマになるのか。未だ明かされない『心理学』はいつ明かされるのか。こうご期待ください!また次のお話で会いましょう!よい一日を!




