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24 不思議の国と少年と

 ―不思議の国に,手紙が届いたらしい―

 「まず、ツムギさんはミラっちとどんなふうに出会ったの?」

 居心地のいい静寂の中、甲高いけど嫌ではないアリスの声が響いていた。私はトアとおでんの具材を切っているところだ。トアは思ったより危なっかしかったので、具材を鍋に入れてもらっている。完璧な天使はいないわけだ。

「俺も代理人を目指していたんですよ。で、課長の部屋に言いに行っていたところ、あとから来たのがミラでした。その時は焦っていたと思います。意地でも交霊会議に行きたかったんで」

 少し控えめな声で答えた。アリスは腑に落ちているようだ。

「なるほどねっ!そこで初対面だったわけか!焦っていたってのは代理人になりたかったからなのよね?どうしてツムギさんは代理人に?」

 ツムギは少しだけ真剣な顔をした。何かを思い出しているみたいだった。

「……元々交霊会議に行く予定だった情報の責任者……あの方、俺の恩人なんです。俺がヨノアに就いたとき、何もわからなかった俺を育ててくれた、人。恩返しがしたかった。俺はもう大丈夫だって証明にもなる。」

 アリスは察した。少し聞いては良くないことを聞いてしまったかもと不安そうな顔だ。

「……そうだったの……、だから代理人になりたかったのね。そりゃミラっちが来たら焦るのもわかるわ、ライバルだものね」

 アリスは頷いている。声が優しいアリスだ。

「で、それでそれでっ?その後どうなったの?」

 アリスは目を輝かせながら聞いている。

「課長に言われたんです。代理人として連れて行けるのは1人であること。そして俺たちに、普段の仕事の中での問題点をまとめて提出せよ、その問題点がどちらが深刻かどうかでどちらを連れていくか決めると。だから俺は今まで普段集積している

 データとか洗いざらい見て、問題点をあぶり出そうとしてたんです。見つけさえしてしまえばこちらのものだったから……。でも、問題点は見えてこなかった。少なくとも俺には。俺が見てたのは表面上の『データ』でしかなかったんです」

 アリスは静かに相槌を打っていた。こんな背景があったとは思っていなかっただろう。何か感じているアリスだった。

「……なるほどね…………一度挫折を経験したのね。……知らなかったな、ツムギさんがそんなもの抱えてたなんてさ……」

 アリスはツムギを初めて等身大で理解できた気がした。新鮮だった。

「それで俺が行き詰ってたところ、トアが熱暴走したかなんだか知らないけど、俺の心の抱えてるもん全部言い当ててきて、最初はおどろいたし正直不快だったけどどこか嬉しい俺もいて。そしてミラが言ったんだ。『君の天才的な情報処理能力、そして解析、分析能力。そしてそれを表す言葉を貸してくれ。私は君に『言葉の裏側』を……言葉やデータでは表せない『リアル』を教えてやる。……天才君よ、この『狂気』に満ちた状況をまとめ、資料に表せるか?』って。」

 アリスはハッとした。同時に切実な疑問が浮かんだ。


 (……ミラは……一体何を考えているの……?)


 アリスは動揺した。ツムギの口から放たれた、ミラが言った言葉。どう考えても何か企んでいる、含みがある言い方だと、そう感じたのだ。

「お待たせしてすまんね〜準備できたよ。自在鉤探すのに苦労してしまってね〜」

 あっさりしたミラの声がする。トアは箸と取り皿を配ってくれている。鍋を置いて火をつけ、蓋をし煮込み始めた。私はトアを膝に乗っけて座った。

「で、お二人さんは何を話していたんだ?」

「ツムギさんとミラっちの馴れ初めとか、ね」

 アリスは少しだけ控えめな声で言った。ツムギも横で頷く。

「……ミラ……ハ……ナニヲ……カンガエテイルノ…………?」

 突然膝の上にいたトアがつぶやいた。私は何のことだかあまり分からなかったが、私の名前が出てきたため反応した。そしてもっと反応しているのは他でもないアリスだった。

「えっ?!と、トアちゃんっ?!」

 私もある程度見当がついた。トアがアリスの心を読んだらしい。トアに頼まなくても、勝手に心を読むことが最近では当たり前になっている。それぐらい心の声が大きいのだろうか。ツムギは困惑しながらアリスを見ている。私は理解してからは切り替えが早かった。

「アリス、そんなこと思ったのか。理由あるんでしょ、そんなことない?」

 私は誰かを問い詰めたりするような悪趣味はない。声自体はいつもの私だ。

「……ツムギさんに聞いたのよ、ミラっちに言われたこと。ツムギさんの力を借りる代わりに、現場の『リアル』を教えてやるってツムギさんに言ったんでしょ?」

 私は感心した。そこまで話していたのか。そしておでんを作るのにそれぐらい時間がかかっていたのかと暢気に感じた。

「ああ、言ったな。それがどうかしたの?」

 アリスは少しだけ感情混じりの声で聞く。

「だってどう考えても言い方が不思議じゃない?なんかその……普通の会話で出てくるような言葉じゃないじゃん!だから困惑して、あとはトアちゃんが言った通りだよ」

 流石アリス。一緒にいる時間が一番長いのは結局他でもないアリスだ。やはりそういうのは感じる部分があるのだろう。

「そうだね。私はツムギに『取引』を持ち掛けたんだもの。そりゃ変な言い方に聞こえるだろうな。……よし!じゃあ……」

 私はアリスを真っすぐ見つめた。アリスは驚いている。おでんがちょうど音を立て始めた時だった。私はアリスの取り皿におでんを多めによそって差し出しながら言った。トアは鍋から出てる湯気に興味津々だ。

「アリス!君のユーモアと明るさ、そして『ポップティアーズ』を貸してくれ。代わりにこのおでんを食わせてやる」

「え!?は!?急!?どういうことよ!?ミラっち、何を企んでいるの!?…………まぁもちろんおでん食べたいし

 ?協力は惜しまないけれども!?」

 途中から嬉しさが出てきたのか、声のトーンが上がっていたのをあからさまに感じた。ツムギもそれを感じたらしく、よくわからない顔をしていたのである。トアは湯気に近づきすぎて目が曇ってしまっていた。

24話です!ご覧いただきありがとうございます!おでんで成立してしまう取引なんか他にないでしょうね笑アリスは乗っかっちゃうという。無邪気で微笑ましいばかりです。さて,ココからミラは何を語るのか。そして何を考えているのか。『心理学』の正体とは…。こうご期待です!

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