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23 普遍なる世界へ只今

 ―変わらない場所に,たまに帰りたくなるよね―

 気づかなかったが、外は暗かった。日が沈んでいる。室内にいるとやはり、外のことは分からなくなるから恐ろしい。滞在時間もそろそろ終了だ。まさか一日中病院にいることになるとは思わなかったが。

「よし、今日はここまでかな。帰るぞチミタチ!」

 深夜テンションにはまだ早い時間帯である。

「チミタチ?」

 トアが反応した。初めて聞く言葉だろう。

「トア、知らなくていい言葉もあるんだぜ」

「おい!余計な事言うなよツムギ!ひどいじゃないか~ノリに乗っかる優しさってもんも大事だぞ!」

 トアが静かに眺めている。かわいいから何でもいい。

「まぁいい、帰るぞ。『心理学』とやらも気になるしな」

 ツムギがぶっきらぼうに言い放つ。私はトアを抱えて飛んだ。ツムギも一応空は飛べるらしいが、たまに酔うことがあるそうだ。幸い、今日は突風も少なく飛びやすかったため、その心配は不要であった。

 ヨノアに着き、引導課のオフィスに戻った。誰もいないかと思ったが、アリスが残っている。そういえば今朝、今の時期は植物が死んじゃう季節だから忙しいと言っていた。アリスはすぐに気づいてくれる。仕事終わりの疲れを感じさせない彼女であった。

「ミラっち~!!それにトアちゃんっ!おかえ…………えぇ!?!??あ、あなたってもしかして……つ、ツムギさん!?え、え、えぇ!?ちょ、ちょっとミラっち!?いつからそういう関係なの!?」

 トアを抱きしめたままわけのわからない勘違いをしてしまうアリス。やはり仕事終わりであるらしい。

「えっ。違うよアリス、いろいろあってだな……」

 私の声もまったく耳に入らない様子のアリス。アリスは熱暴走してしまった。トアを抱えたまま暴走するのでトアは必死にアリスにしがみついている。

「え!?だってつまり、今日二人で引導しに下の世界に行ってたわけでしょ!?あの天才情報処理のツムギさんと!?そしてミステリアス代表ミラでしょ、え、え、え、ええええええ!!!!!待って待って待って!!やっぱりミラっちそういうこと!?」

「メ グルグル~」

「おい!!!ちょっと待て!違う!違うってば!!!落ち着いてください『アリス』さん!!」

 ツムギが必死に誤解を解こうとしている。こんな感じのやり取りって小学生ぐらいにとかに見られるよなと勝手に想像している私だった。

「え!?私の名前知ってる!?そして今名前呼ばれた……っ!?きゃーーーっ!!」

 今日会った魂並みに暴れるアリス。トアがくらくらしている。

「メ マワル~」

 そしてしがみついていたトアが手を放してしまい、落ちそうになっていた。

「あ!トア!!」

 放り出されたトアをツムギはトアを見事にキャッチした。そしてようやくアリスは我に返った。我に返ったアリスと私が見たのはツムギとトアだった。私は涼しい笑顔で誤解を解いておく。

「ほら言ったろアリス。私とツムギはただの仕事仲間だよ。”そういう関係”になりつつあるのはこっちの二人だ」

 ツムギにとっては都合の悪い誤解の解き方だったはずだ。しかしトアを必死にキャッチしたせいで、あげる顔がないらしい。アリスは天に召されたような、噛み締めた顔をしている。トアは目が回ってそれどころじゃない。

「え、尊。」

 さっきまではしゃいでいたのに一言で会話が成立してしまう。ツムギは起き上がり、私のことを睨んできた。当たり前と言えば当たり前である。

「……何が”そういう関係”だ……」

 少し声が震えている。アリスは純粋無垢な顔で問いかける。

「え?違うのツムギさん?」

 アリスが天然カウンターを食らわせている。これに「No」と言えば、ツムギはトアのことを『嫌い』と言うことになる。しかしそういう訳ではないだろう。前に立証済みでもある。「Yes」と言えば、白状したことになる。ツムギはしばらく顔を真っ赤にして何も言わなかった。私は流石にツムギが不憫に見えてきた。

「……まぁいいじゃないかアリス。この件は一旦『保留』にしておこう。あ、そうだアリス。よかったらうち来ないか?ツムギも。ツムギには約束の話をしてやらないといけないし、アリスもきっと気になることあるだろう?私が代理人に立候補した理由とか」

 アリスは思い出したようにうなずいた。

「あ、うんそれ!!最近のミラっちの勢いはすごかったからね。現にツムギさんと一緒に引導しに行ってたなんてのも信じられないし、 お邪魔しよっかな!あと、久々にミラっちの作るおでん食べたい」

 アリスはあっさり承諾してくれた。半分おでん目当てな気もする。

「俺もそうする。『心理学』のことを聞きたい。いちいち話すのを勿体ぶりすぎなんだよミラは。」

 さらっと文句を言いつつも、ツムギも承諾してくれたらしい。

「ミンナ イッショ?」

 さらっとツムギにくっついていたトアが言う。アリスが鈴を転がすようにニコニコ笑う。

「そうだよぉ~トアちゃんっ!あとさっき暴れちゃってごめんねっ」

「イイヨ!」

「じゃあ決まりだな、行こう」

 4人は私の家に向かった。トアは道中、アリスとツムギに手をつないでもらっていて、終始アリスはニヤニヤしていた。ツムギは何とも言えない顔をしていたらしい。


 いつも通り川の目の前にある自宅についた。月明りを川が反射して輝いている。きれい。戸をがらがらと開け、座敷が敷かれた居間へと招き入れた。

「くつろいでてね。おでん作るから待ってて。囲炉裏使ってみるか、いつもはめんどくさくて使わないんだけど、こういう日だしな。えーっと自在鉤(じざいかぎ。囲炉裏の上にある、鍋を吊るす時に使うフックみたいなもののこと)どこやったかな。」

 そう言いながら私は台所へ向かった。私はおでんが好きだ。理由は、私にはわからない。結都が知っているかもしれない。

「トアー!ここはひとつ天使の手も借りたいんでな、手伝ってくれるか?」

「ハイ! テンシッテナニー?」

 トアはそう言いながら私がいる台所まで来てくれた。居間にはアリスとツムギの二人っきりになった。アリスがすかさずツムギに話しかけているようだ。

「ねぇねぇ!ツムギさん!こういう機会だし、ミラっちとはどういう出会い方をしたのか、あとトアちゃんとの馴れ初めとか!ちょっとおでんが沁みるようなお話しましょうよ!」

 アリスはノリノリだ。ツムギはアリスの柔らかく明るい雰囲気に緊張がゆるんでいたが、『トア』という言葉が出ると少し話が違うようだ。

「……え、ええ、いいですよ」

 こんな調子でツムギの喉におでんは通るのだろうか。

ご覧いただきありがとうございます!23話です!前話が少しダークな雰囲気だったのに対して,今回は日常な話となっております。各キャラの癒しな姿が書かれておりますので是非お楽しみください!

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