20 人間引導禄「孤独を包むあたたかさ」
―これだから,人間って好き―
ツムギはしばらく私を見つめていた。そして手すりを離し、シャキッとした。真っすぐ私を見つめてくる。どこか吹っ切れたのだろうか。
「……俺の負けだな、これは。敵わないわけだよ。…………分かった、ミラ。協力する。この状況を……まとめてみせるよ」
そして私はツムギを改心させ、仲間にすることに成功したのだった。
2人は部屋に戻った。魂とトアは追いかけっこをしている様子だ。
「あっはははは!!!待て待て~!!!」
「ワー! ニゲロニゲロ!」
こんな言葉トアに教えたっけか。そもそも追いかけっこも教えた覚えがない。魂から教わったと考えるのが自然だ。トアは私たちが戻ってきたことに気づいた。
「ア!ミラ!」
「うん、戻ったよトア。さてと。魂さん、遊んでるとこ悪いけど、いろいろ聞きたいことがあるんだ」
魂は一度動きを止めた。そして素直に私の方に飛んできた。ツムギは動じず、目の前の魂を眺めている。
「なぁに?聞きたいことって?」
声が本当にあっさりしている。不思議なぐらいだ。
「君は、何故首を白いコードで絞めたんだ?」
魂はピクっと震えた。ツムギは真剣に見つめている。トアはきょとんとしている。
「……だって……だってぇっ!!!ただ痛いだけなのよ!治るかどうかもわかんないのに!私小さいころから体が弱いのか何だか知らないけど、ずっと病院にいたのよ、ずっと我慢してきたよ!友達に会えない、外にだって出られない。それでコードがあったから、こうすれば……って!!!」
子供が駄々をこねているような口調だった。長い間入院していたのだろうか。
「…………サビシイ コドク トア ミラト アウマエ オンナジ ダッタ」
「そうなのか?トア。同じって?」
ツムギは無論知らない。私とトアの出会いのことはアリスにしか話していない。また話しておかなければならないな。
「ウン! ダカラ ホホ アツアツ スリスリ シタ!」
トアはゆめをかつての自分と重ね合わせたらしい。だから頬を擦り合わせて寄り添ったわけだ。
「……なるほどね。ゆめ。君は寂しかったわけか。……しかしな、これだけは教えといてやる。上の世界に行く前にね。お守り代わりに覚えておきな。」
私は魂を抱きしめた。ツムギは少し驚いた顔をしている。
「わっ!なになに!ハグしてくれるの?」
私はその質問には答えなかった。代わりにこんなことをつぶやいた。私の顔は少しだけ、切ない感じだったと思う。
「……寂しさを埋められるのは……『この世界』でだけなんだよ。この世界では、『あたたかさ』を感じられるんだ。そのあたたかさは、なんでも包み込める。でも君は、それを自分で絶ってしまったんだよ。……トア、お別れ言っとき。引導するよ」
トアは魂に近づいた。
「バイバイ! ユメ!」
魂の声は震えていたが、幸せそうでもあった。花火が終わった後の、あんな感じだった。
「……じゃあね!トア!……ありがとう」
「ゼンゼンイイヨ!」
そして私は魂を青い炎で包んだ。ツムギは炎に感動しているようだった。
「……青い……炎だ……。……きれい」
そして魂は青い軌道を描いて、力強く上へと上がっていった。私の手の上の炎は、ゆっくり消えていった。
「……引導できた……んだよな?」
ツムギが静かに聞いた。
「ああ。……な?こんなことしてるもんだから、ノルマを超過するほどに魂が増えるんだよ」
「本当にな。……俺が見てた世界はほんとにちっぽけだったってわけか。……でも、大事なことを知れた気がする。」
ツムギは静かに笑っていた。トアの頬がなにやら反応している。
「ホホ アツアツ コレ ナニ?」
「『悲しい』んだろうね。ゆめと別れたから。もっと一緒にいたかったなーっていうやつ。前教えたじゃんか。ほら、なーんだっ?」
トアは間を置かずに答えた。
「モノオシイ……」
「正解。」
ツムギは二人のやり取りを聞いていた。何か言いたげだ。
「なぁミラ。ふと思ったってのもあるんだけど、何故そう言った感情が分かるんだ?それに、さっきも魂に『あたたかさ』の話してたよな?あんなん誰に教わったんだよ」
私は少しだけにやりとした。
「逆に聞くがなんでだと思う?」
意地悪だ。私は優しくないのである。ツムギは顔をしかめた。
「え、そりゃ誰かに教わったとかじゃないのか?違うの?」
「まぁそれもあるけど、今回の場合は違うな。ちょっとした学問の話だよ。『心理学』って言う名前のね……」
ツムギは首をかしげている。知らないらしい。
「心理学……?」
「シンリガク……?」
ツムギとトアはハモった。
「え?」
「エ?」
そしてまたハモる。ツムギとトアは顔を見合わせていた。
「だははははは!!!仲良しじゃんかw」
「う、うるせぇっ!!生きてりゃハモることの1回や2回ぐらいあるだろっ」
「オナジ オト シタ ハズカシイ」
トアは頬を赤らめている。私は並んでいる二人を眺めて笑っていた。
「その話は今日の仕事が終わったらするよ。ほれツムギ、トアを肩に乗っけてあげて。この病院内にはまだまだ魂があるっぽいから」
「え……俺がこいつを抱えるのか?」
トアは自分のサイズを小さくし、ツムギの体を勝手に登って行った。ツムギは全身震えている。
「っ!?あ、あははっ!く、くすぐったい!と、トア!お、おいっw」
トアはツムギの足を上って行って,ツムギが着ている青色のニットベストの下をくぐり,そしてぬるっとツムギの肩に乗っかった。それだけで終わるかと思ったら……。ツムギの頬にとても柔らかい……そしてあたたかいものが当たった。トアの頬だった。トアはツムギの頬に自分の頬をくっつけている。ツムギは動揺して顔を動かせない。
「な、なにして……っ」
「ツムギノホホ アンシン オキニイリ」
「は、はぁっ!?」
トアはツムギの頬から離れない。ツムギの肩の上でうつぶせになり、くつろいだ体勢でもたれかかって頬をずっとくっつけていた。私はニヤニヤが止まらない。同時にうれしかった。これはもしかしたら、トアに『好き』が出始めているかもしれない。そう期待したからだった。
「おーおーツムギ、羨ましいなぁ?」
私はいろんな意味を含めた声色で下から覗くように問いかける。ツムギは顔を真っ赤にしている。動揺が止まらないらしい。
「う、うるさいわっ!」
「おー?素直になれないねぇ?トア、今から私がすることを真似し……」
そう言いかけた途端だった。
「あーーあーー!!ま、またトアに変なこと教えて俺のことからかう気だろ!!前のテヘペロでそれぐらい学習済みだっての!!」
私は策士並みにいやらしい顔をした。
「じゃあ素直になってもらわないと困るんすけどねぇ…………天才なんだろう?ほれほれ」
「……あーーー!!もう!………………か、可愛い!可愛いよトアは!!会った時からそう思ってる!!」
トアの頬がもっと熱くなっていた。ツムギの頬が熱い。なぜならトアの頬とくっついているからだった。
ご覧いただきありがとうございます!20話です!あたたかさについての心温まるエピソードとなっております!そしてもしかしたらトアと,,,ツムギ,,,!?こうご期待です!!




