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16 冬桜,散りてなお

 ―桜が,恋しい―

 私とトアはいつも通り現場に降り立った。降り立った場所は古風な場所で、過去にタイムスリップしたかのようだ。

「わぁ……和風な街だね。ここは『日本』なんだろうね」

「ニホン?」

「国の名前だよ。私は人間の魂担当だから、人間がいる場所すべてに行く。もちろんあの階段を飛び降りている時点でどこに降り立つかはランダムなんだけどね。国名が分からない場合もあるけど、今日来たこの場所はなんとなーくわかるんだ。」

「ニホン!」

 私はトアを肩に乗せて歩き出した。観光をしたいのは山々だが、そういう訳には決して行かない。すると目の前に、静かにたたずむ建物が見えた。そしてその先には、亡霊が湧いているではないか。

「ありゃ、亡霊がいる。引導しないとだね、行こうかトア」

「ウン」

 目の前の門をくぐって中に入った。そこは木や花が植えられている『お寺』のようだ。説明の看板も立ててある。

「『臨済宗円覚寺派……?』うーん歴史は詳しくないんだよなぁ。これどういう意味なんだろ。」

 私がわからないことをトアに分かるはずがない。トアも目の前の風景にポカンとしている。そして石造りの一本道を歩いていく。

「あ、亡霊がちょこちょこ湧いている感じか。引導しよう」

 私は両手に瑠璃の灯を宿らせ、手当たり次第上へと昇らせていった。きっと遠くから見たら、青い軌道が、花火が咲き誇る前の静けさのように、線を描いているように見えるのだろう。最もそれが見える一般人は私とトアだけなのだが。一本道と言えど、少し坂になっていて、周りが山で隔離されている。最初は気づかなかったが、足を踏み入れた時からそこは別世界のようだ。すると目の前に鐘が佇んでいた。

「コレ ナニ?」

「鐘だな。いろんな意味があるんだ。時間を知らせる道具で、実は魂を救う道具でもあるんだ。『音』で癒すの。鳴らしてみたら?大丈夫一般人には知覚できないし。トア、この紐持って……いくよっ、せーのっ!」

 私はトアと一緒に鐘を鳴らした。ゴーンと震えて音が響く。トアの頬と手が明らかに振動していて面白い。鐘の音は私の耳に心地よく、重低音を響かせた。

「ホホ フルフル~ デモ イヤジャナイ ナゴミ!」

「感動だよね、音で癒すこともできるなんてね。……お、鐘の中にも亡霊がいるじゃん、引導しないとね」

 青い炎で包まれた亡霊は、どこか安らかな雰囲気があった。鐘の振動でもキャッチしたのかもしれない。そして2人は魂を引導しつつ道なりに進んでいく。

「ん、建物が見えてきたね」

 目の前に様々な植物と共に静かに存在感を放つ建物が現れた。主張しない、静かな建物なのにこの気圧されるような存在感。圧倒される。トアも目を見張っている。目の大きさ変わっていないが。

「こりゃすごいね!それにこれ……『庭』だ。いろんな花が植えてあるみたいだ。……ん、トア?」

 トアは目の前に落ちていた白い花びらに触れた。その近くには『冬桜』という看板が立てられている。その木の上からは花びらが散っている。

「コレ クシャクシャ ヒマワリ ガンバッタネ」

 前にアリスと向日葵を触ったことを覚えているようだ。しかしこの冬桜はまだ死んだわけではない。確かに花びらが散ってはいるけれど。

「うん、確かに花が下に落ちているし。でもこれは『死』でないんだよトア、」

 トアは私の方をじっと見つめている。私はトアを抱き上げた。そして少しだけ浮いて木に近づいた。

「これ、触ってみてトア。」

 トアは言われたとおりに木に触れた。ごつごつした木の感触が伝わっているはず。

「ゴツゴツ カタイ」

「まだまだ固いでしょう?これね、花弁は散っているけど、死んだわけじゃないんだよ。それにほら……ここ、これ見て」

 トアにつぼみを見せてあげた。トアは目の前のものが何なのかわかっていないようだ。

「これはつぼみだよトア。今から咲くんだ。今から『生まれる』ものなんだ」

 トアはつぼみに触れる。今にも咲きそうなつぼみだ。

「難しいかもしれないけど、今この木は、生きているんだ。花を散らして、そしてまた新たな命を宿しているんだよ」

「ホホ アッタカイ カンドウ!」

「あははっ!そっかそっか!花は散っても、この木はまた新たに『生まれる』ことができるんだよ。人間だってそう。散っても、また別のものが生まれるんだ。私はそう信じているんだよね~」

「タマシイ ウマレル?」

「うん。別の何かが残るんだよ、その人の何かがね。その何かを読み解くのが大事なんだ。ちょっと『抽象』的だったかな?」

「チュウショウテキ デモ イヤジャナイ!」

 山に囲まれているからだろうか。木が揺れる音がよく聞こえる。風が吹いてきた。花びらがゆっくり確実に散っていく。トアの顔にも花びらが飛んできた。

「クスグッタイ」

「めっちゃ花びら顔についてるじゃん!あははっ!」

「クスグッタイ トレナイ~」

「いいんじゃない?今日一日そのままで」

 私は花びらがついたトアの頬を眺めて笑っていた。花びらは止まず散り続ける。そして新たに芽吹いていくのだ。


ご覧いただきありがとうございます!今回は「冬桜」がテーマになっていましたね!トアの可愛い言動にもご注目です!

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