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15 幼き天才と達観した風

 ―誰かを蹴落とすのに,絶対的な力は要らない気が…―

 次の日。私は興奮が収まりきらずに夜眠れず、朝は寝起きがかなり悪かった。なんとか重い体を起こし、出社した。引導課のオフィスにつくと、社員がいつもよりどう見ても多く集まっている。何があったのだろうか。私はアリスの机へと向かった。トアも社員の多さに少し困惑していた。

「アリス、おはよ。なんか社員が多くないか今日。いつもこの時間そんなにいないと思うんだけど」

「アリスオネエチャン オハヨウ! ペコ パチッ☆」

 アリスはトアを見るなりぱぁっと目が輝いた。

「キャーっ!おっはよー!二人とも!てか今日あれよ、朝礼がある日だよミラっち!忘れてた?もしかして」

 そうだった。週に1回程度の頻度で朝礼があるのだ。しかし、基本的に引導課は問題なく回っている課だった(私以外は)。よって朝礼が行われないことも最近は増えてきていた。でもあるということは、何かあったのだろうか。

「あーそうだった。だからこんなに集まっているのね。」

「チョウレイ?」

「いわば情報共有さ。社員同士のね。前教えたやつが役に立つぞトア!『開示』の合図!練習しとくか!」

「ワカッタ ペコッ パチッ☆(←ウィンク)」

「いいねぇ!」

 隣で見ていたアリスは顔が歪んでいる。

「ちょっ、せっかくの朝礼前にミラッち!!おめかしして来たのにぃ〜っ!!」

 そうこう言ってるうちに、課長と秘書が出て来た。朝礼の始まりのようだ。社員は全員課長の周りに集まった。

「おはよう皆さん。今回は朝礼を行うこととした。色々連絡事項があってな」

 課長は変わらず柔らかい雰囲気を持っているが、威厳もあるというところがすごい。トアは何にも言わず静かにしている。しかし社員の視線は少しずつこっちに向いている。当たり前であった。そばにいるアリスも気づいているのか、トアの肩を少し抱き寄せてくれていた。

「まず一つ目の連絡事項だ。と言ってももうお気づきかもしれないが…。そこにいる見慣れない子のことなんだ。」

 課長は私とトアの方を見た。一気に視線が集中する。朝礼の内容はトアのことなのか。課長はわざわざ紹介する機会をつくってくれたのだろうか。私はアリスにくっついているトアの手を取って一緒に課長の元へ行った。課長が先に補足してくれた。

「実は、ミラは人間の引導が最近追いついていなかったそうでな、ミラが下の世界で助手をスカウトして来たのだ。報告の機会が少し遅れてすまないな」

 いや私こそ。と言いたいところだが敢えて何にも言わず私は一礼した。そしてタイミングを見計らってトアの紹介をした。

「この子の名前はトア。下の世界で捨てられていた『アンドロイド』です。最近人間の引導が追いつかないほどまでになっていたため、スカウトさせていただいた助手です。」

 社員らがざわつき始めた。流石にアンドロイドであるとは思わないだろう。肌の質がアンドロイドには到底見えないし。トアがキョロキョロしている。いろんな音が聞こえて困惑しているのだろう。私はトアの肩に触れてウィンクした。トアも頷いた。一歩前に出てトアは口を開いた。

「ワタシ トア ドクシンジュツトウサイカイワアンドロイド ペコッ パチッ☆☆(なぜか星2個出た)」

 周りは静まり返っている。ウィンクを覚えているアンドロイドはやはりレアなのだろうか。ただ一人、顔を覆い隠している水色カーディガンを着ている植物引導担当者がいるのは目立つ。静まり返った雰囲気を割るように私は口を開いた。

「そう言うわけで、これからトアをよろしくお願いします」

 そう言ってトアの手を取り、顔を真っ赤にしているアリスの横に戻った。

「ありがとうミラ。そしてトア。これから仲良くしてほしい。では、本題なのだが。来年の2月に『交霊会議』が行われることは知っているだろう?」

 交霊会議。年に一度、引導課・船頭課・冥府課・泥梨課(ないりか)・浄土課の各代表者、そして最高責任者であり、創造神である「神」が集う会議の場。各課の代表者が状況を報告し、問題点があれば話し合う場となっている。引導課からはいつも、課長ともう一人、情報処理の責任者が担当している会議だった。私にはゆかりのない話ってわけなのだ。

「実はな、その会議にいつも出席していた情報処理の責任者が、今月をもって急遽異動が決まってしまったのだ。そこで、その責任者の代理人を決めなければならない。朝礼終了後、代理を務めたい者は私の部屋に来てくれ。以上だ」

 課長と秘書は戻っていった。

「へぇ、前まで交霊会議に行ってた情報責任者の人、確かにこの引導課に来てからだいぶ長かったらしいね」

 私はアリスの声はあんまり聞こえなかった。これは、チャンスかもしれない。私はトアをすくっと肩に乗せた。

「……ちょっと課長の部屋行ってくる。トア、行くぞっ」

「ハイ! アリスオネエチャン バイバイ!」

「うんっ!バイバーイッ!」

 私は早歩きで課長の部屋へ向かった。

「……え?課長の部屋……?……えっ!?ちょっちょっとミラっち!?ま、待ってよ!?」

 アリスは少し遅れて動揺していた。私は正直まったく気にしていなかった。こんなチャンス、二度とないと思った。

「ミラ アリスオネエチャン コエ キコエタ ウシロノホウカラ」

 私は肩にトアを乗せて課長の部屋へと歩いていた。

「アリスには後でちゃんと説明するさ。さっき朝礼で言ってた代理人……あれ使えると思ったんだよ。『ミラーメトロ』を作る上でさ。各課が集まる会議だ。私の考えている計画を検討する絶好のチャンスじゃないか!」

「チャンス?」

「ミラーメトロをこの会社内に広められるかもってことさ!いざっ!課長の部屋へ!!」

 そうトアと話しながら課長の部屋へ入った瞬間だった。もう一人。誰かいる。課長と話しているようだったが。課長は私が部屋に来たことに気づいてくれた。

「ん、ミラじゃないか。もしかして君も……」

 私はもう一人来ていた男性社員のことなどお構いなしだった。

「はい。代理人希望でここに来ました」

 男性社員は戸惑っている。実は私も戸惑っている。なぜならその社員は……アリスが言っていた例の若き天才情報処理職の人だったからだ。まさか先客がいたとは。課長は動揺はせず、私も部屋に招き入れてくれた。

「二人も代理人に申し出てくれるとはな、助かる限りだが……。連れて行けるのは1人と決まっておるのだよ。どうしたものか……」

 私はチラッと横に立っている天才君を見た。真剣な顔つきだが、やはりどこか幼さがある。そして紺色のセンター分けに透き通った緑眼。内に秘めているものはすごそうだ。まぁ私が怖気づくわけがないのだけれど。そしてしばらく腕を組んでい唸っていた課長が腕をほどいて話し出した。

「よし、こうしよう。君たちもご存じであろう『交霊会議』は、各課の報告会及び情報共有の役割が大きい。そして、各課の問題点などを話し、検討し合える貴重な時間なのだ。しかし、問題が特にないとなると本当にただの報告になるのだよ。正直私1人で行けば済む話になるのだ。しかし2人は代理人を務めたいとここへ来たわけだ。2人には、日々の担当している仕事上での問題点や議論点を詳細に資料にまとめて提出してもらう。どちらの問題が深刻で、審議を要するかどうかで代理人を決定しようではないか」

「なるほど。承知いたしました。その資料はいつ頃までに提出しましょう?」

 私は落ち着いていた。顔も涼しい。

「そうだな、交霊会議は1月の神事の後の2月に行われる。しかし出席する者を前もって連絡する必要があるのでな、1月下旬までには提出してもらいたい」

 今は11月中旬。約2ヶ月程度だろうか。

「承知いたしました。それでは私は魂の引導に行ってきます。失礼いたしました」

 私は飄々とした口調で口にした。私の顔は全く変わらない。理にかなった選考法だと思った。しかし横の天才君は、少し焦っているのだろうか。顔が曇っているように見える。私と彼は部屋を後にした。そしていつも通り仕事に行こうと思ったときだった。私はなんとなく天才君に話しかけた。

「……君は確か……えーっと、そういえば名前を知らないな。私は人間の魂の引導を担当しているミラだ。こっちはアンドロイドのトア」

「ペコッ パチ☆」

 トアは私が教えた開示の合図を気に入っているのだろうか。可愛らしさが増してきているような気がする。

「……ああ。知っていますよ。ノルマを超過することが当たり前の死神。俺はツムギです。情報処理を担当している者です」

「ふーん、ツムギって名前なのか。覚えておくよツムギさん。敬語じゃなくてい良いよ。じゃ、私は今から仕事なんでこの辺で失礼するよ」

 私はいつもと変わらない口調で言う。異様に落ち着いている私だった。ツムギは困惑した顔をしているように見えた。

「……あの!ちょっと待ってくださいミラさん」

 急に後ろから引き留められたので、何かと思った私だった。ツムギの顔は真剣だった。

「……なんで……そんなに余裕な感じなのですか?課長が言ったことは要するに代理人の座を賭けた『勝負』なのですよ?どちらの問題が深刻か。それをうまく伝えられるか……。それなのに……」

 ツムギの声は少しばかり早口にも聞こえた。私は驚くわけも何でもなかった。私にとって代理人はいわば手段だと思っていただけであったからだろう。私は少しだけ涼しく笑った。

「……『勝負』?私はそうとは思っていないけど。だって問題点をまとめて提出するってだけだろ?別にどっちが代理人として優れているかどうかっていうのが今回の代理人選考においての指標ではないはずだ。焦る要素がないでしょ?ツムギさんは何を焦っているの?」

 私があまりにもあっさりした口調で話すので、ツムギは大困惑している。私が感じた彼の幼さはこれのことだったのかもしれない。

「だ、代理人の座が惜しくないのですか!?何故あなたは代理人になりたいのです!?」

 食いつくように私に聞いてくるツムギ。私はふぅと息を吐いた。

「……私は、代理人になりたいんじゃない。私の仕事上で今起きている問題を……ただ目の前で起きていることを自分なりの方法で解決したいだけ。その手段として代理人があった。それだけだ。そこに勝ち負けなんかない。最終的に、私は問題さえ解決できるなら、それでいい。執念は極力持たないようにしてるタイプなんでねっ!それじゃあねツムギさん。バイバイっ!」

 私はさっさとその場を去った。涼しい顔のまま。

「キコエタ コエ」

 トアが何やら聞き取ったらしい。

「何が聞こえたんだ?トア。教えてくれる?」

「……オレハ……ゼッタイ……コウレイカイギニイク……マケテタマルカ……ッアンナテキトウナカンジノヒトニ」

「適当……ってあいつそんなこと思ってたのかよ」

「テキトウ?」

「まぁ、簡単に言えば、考えなしの人、ってとこかな。自分軸で深く考えないような」

「ミラ ソウナノ?」

「あっはは、まぁそうかもね。でも『適当』って言う言葉はね、もう1個意味があるんだ。『ちょうどいい』とか『程度がちょうどいい』。今のトアの頬の状態のことだよ。今、あったかすぎず冷たすぎない。ちょうどいいでしょ?」

 トアは自分の頬を確認している。

「ウン チョウドイイ コレ テキトウ?」

「そうそう。適当も捨てたもんじゃないよ。よっしトア!行くか!」

「ウン」

 私たちはいつも通り階段からバンジーを楽しんだのである。風が気持ちよかった。

ご覧いただきありがとうございます!新たな出会いが見られましたね。ツムギとミラ。今後どういう展開をたどるのか。そして,代理人の座はどちらの手に,,,?こうご期待です!

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