↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/52

14 ミラーメトロ計画

―鏡。毎朝見ない人って,いないと思う―

 私は一度家に戻り、目元だけ洗った。真っ赤になっていたからだ。そしてトアを肩に乗っけていつも通りヨノアに出社した。引導課のオフィスにて軽く荷物や机の上を片してから、いつも通りバンシージャンプをした。

 今回の現場は一言でいえば「バランス型」の地だった。都会とも田舎ともいえない。その中間の土地と言ったところだ。車もある程度走っていて、商店街もある。しかしどこか懐かしさを感じるような。不思議な街だ。できればもっと堪能したいところだが、早速死を感知してしまった。その現場は信号のない交差点だった。車が2台、煙を上げている。1つはライトとフロントガラスが、もう1つは車の側面が凹んでいる。

「こりゃ、交通事故だな。発生してから時間はまだあまり経っていないように思えるな。それにここ、建物が多いから見通しが悪い。T字路の交差点にはあるあるだけど。」

「コウツウジコ?」

「前にも話したろ?電車の話。人間はいろんな場所に赴くことがあるから、それに応じて様々な移動手段を使い分けるんだ。今回はこれ。『自動車』。人を運ぶものであるのは変わらないけど、一番こういった感じの事故が起きやすい移動手段だな。土地によっては、自動車が必要不可欠だったりするもんだから、事故が多いところは毎日のように起こるよ」

「コウツウジコ……」

 「さて、魂さんがお待ちかねだ。行こうか」

 現場から察知した魂は1つだった。その魂はフロントガラスが割れた車の方から出てきた。ふらふらとしている魂で、いつ落ちてもおかしくない。不安定だ。私はいつもの調子で話しかけた。

「君は今、交通事故によって頭部を強打し、亡くなった。私は死神のミラ。君をあの世へ引導するべく参ったものだ。」

 魂は返答をした。少し掠れた声をしていた。かなり高齢なのだろう。

「俺……死んだんか。そうか~。まぁ最近体にガタもきていたしな。」

 悟っていたような声をしていたが私は少し疑問に思った。なぜこんな高齢で、死を悟ったような者が車で移動をしていたのだろう。

「なぁ魂さん?車でどこに行こうとしていたんだ?距離のある場所なのかい?それに、もしかしたら車で移動をしていなければこうはなっていなかったように感じるのだけれど」

 私は問い詰めるような口調ではなく、素直に気になる、と言った口調で聞いた。何事も一方的にはなりたくなかった。

「俺ね、お気に入りの酒屋に行こうと思ってね。毎日のルーティンなんだ。酒屋に行って少し酒を買って、家で飲む。そしてその酒屋の店員たちが温かいのなんの。お気に入りなんだ。そして今はその帰りだった。」

 魂の声はそこで切れてしまった。しかししっかりと最後まで、話を聞けた気がする。

「なるほどね、余生を楽しんでいた矢先だったわけか。……よほど好きな場所だったんだね。そういう場所があるってだけで、幸せだったんだって思うよ。えーっと……」

 私は壊れた車の中を少しだけ漁った。椅子の上を見ると、買ったのであろう酒が置いてあった。私は既に亡霊になりかけている魂と酒を青い炎で包んだ。そしてなるべく優しく引導した。魂は青い空に負けないぐらい青い軌道を描いて昇っていく。

「……こんな澄んだ空の日でよかったと思うよ」

 私はそうつぶやいていた。私の肩の上で見ていたトアだったが、おもむろに私に話しかけた。

「ホホ アッタカイ ジュワーッテ」

「それは『ほっこり』だな。優しい温かさに頬が反応しているんだ。安らかと似ているかもね、あったかい安らかさ、ってとこかな。勝手に笑顔になっちゃうような感じのさ」

「ホッコリ~!」

「あははっ、かわいい」

 私は見通しの悪いT字路を見つめた。よくあるのだ。こういった事故も。燻っている車の塊をしばらく眺めていたが、トアの声で我に返った。

「ミラ ミラ! アレ ナニ? ミラ モウヒトリ!」

 トアの視線はカーブミラーに釘付けだった。無理もない。あそこに私とトアが映っているのだから。

「あれは『カーブミラー』って言ってね。こういう見通しの悪い道路に設置されるんだ。あの鏡を見ると、横から車が来ているかどうか確認できるんだ。こういう事故を防ぐための道具なんだよ。」

 トアは頬が再びホテホテしだす。

「ミラ ミラガイル!カーブミラー カンドウ!」

 トアの動きが落ち着かない。私は楽しそうにそれを眺めていた。

「たぶん感動と言うよりは、『興奮』なんじゃないか?目の前の光景がすごすぎて。ほら、なんかトアさっきから動きが多いよ?」

「ヘ!?」

 トアは自覚がなかったらしい。それにしても始めてトアの人間らしい声を聞いた気がした。こんな声が出せるのか。少しずつ感情を組み込み始めたのだろうか。私はカーブミラーを眺めた。私とトアの姿が映っている。……カーブミラー……?……鏡……。

 ……私は再び頭に映像がよぎった。

 

 ——「他者は、自分を映す鏡である。」——


 私はしばらく鏡を見ながら固まっていたのだろう。そして私はある想像をしてしまった。何故こんなことが急に思いつくのか、私にも全く理解できなかった。衝動に近い感覚だった。


「もし……あの鏡が人間を映す鏡なら……他者として人間を映す鏡だったら……?宇宙すべての鏡が他者として存在していたら……どうなるんだ……?」

 トアは顔こそ変えずにただポカンとしている。当たり前だ。正直私は自分でも何を言っているのかわからない。しかしこの時、私はある可能性を感じていた。……私は今、とんでもないことを思いついてしまったかもしれない。

「もしさ、あの鏡の中に、『もう一人の自分』的な、『もう一人の他人』的なのがいたら……万が一自分を見失った人がいたとして、あの鏡の中に入れて自分を他者という『鏡』を通して見ることができれば……自殺って減るんじゃないの……?」

 何にも言わないトア。私の想像は止まらない。

「……それだけじゃない。今はただでさえ人間の魂が多すぎて過労なわけで。でももしあの鏡が、三途の川とつながっていたら、私は魂に炎を灯して、あの鏡に入れるだけでいい。……そうすれば、自殺にも向き合える時間が作れる。……鏡を駅として、三途の川を終点にする。……そして鏡の中に常に外を見守っている者を置き、自分を見失った人をここに連れてきて、自分のことを鏡を通して知る。こうすれば自殺はもしかしたら減らせるんじゃないか……?それに、トアはもともと『物体』。今は一般人には認知されないが、別に一般人とも接触しようと思えばできる素質がある……!それにトアは心が読めるし……!!」

 トアは困惑の頬を示していた。すこしだけ私は深呼吸をして、トアにもわかるように伝え直した。

「あのねトア。もしかしたら、今この世界で急増している人間の魂をしっかり引導し、さらに自殺をしてしまうほど追い込まれた人間を救えるかもしれないんだ。トアが興奮していたあの『カーブミラー』でね!……宇宙すべての鏡を駅として……三途の川という終点につなぐ。さらに人間を映し、自分を思い知らせる『鏡』に改造するんだよ」

 トアはなんとか意味を理解してくれたようだ。また後程ちゃんと説明はするつもりだが、さっきまで固まっていたトアの頬に変化が起きていた。

「コウフン! コウフンフンッ!! ミラ ジサツ ヘラス?」

 トアも、私が興奮している様子を見て興奮し始めてしまったのか、興奮の「奮」を2回言っていた。

「わからないけど、やってみたいとは思う!いくら時間がかかったってかまわない。そしてトアもいる。私1人じゃ成し得ないことを、もしかしたらできるかもしれない。……これは……私の『労働改革』であり……私が愛してきた『言葉』の体現でもある。……私は……これから……宇宙すべての鏡を駅として三途の川につなぎ、人間を映し出し、自分を見つめ直すことで自殺の窮地から救えるような鏡に改造する……そんな素敵な鏡……」

 


 ——「『ミラーメトロ』を作る!!!」——


 第一幕「死神とアンドロイド」完。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。