10 共同引導禄 「ポップティアーズ・スパークル」
―その涙,美しいですよー
3人は下の世界に降り立った。トアは相変わらずアリスに抱き着いていた。降り立った場所は山に囲まれた盆地で、自然が豊かだ。こういう場所は亡霊が湧きやすい。私にとっては好都合だった。今日は亡霊の引導に専念しようと考えていたところだったから。早速3人は歩き出した。
「トアちゃんっ!行きましょっ!」
「ハイ!」
2人は手をつないでいた。アリスはすっかりトアの虜だ。私はそんな2人を眺めていた。やはり、山に囲まれているだけあって、亡霊が多く感じられる。私は手当たり次第、炎で引導していった。アリスは何やら立ち止まった。植物の魂を感じ取ったようだ。
「……これ……。まぁそうよね。今は言ってしまえば冬。植物は枯れる時期よね。よし、やるか。トアちゃんっ!見ててね!」
アリスは目の前の向日葵を見つめた。そして手から何やら出そうとしている。トアは初めて目に映すものに、目を輝かせているようだ。私もその様子を後ろから見つめていた。アリスは手のひらにポンポンと水鞠を出現させた。そして向日葵の魂を軽々と包み込んだ。
「……向日葵ちゃん、またきっと咲けるよ!さぁ!行ってらっしゃい!『ポップティアーズ・スパークル』!!」
そしてアリスはその魂を空に向かって巻き上げた。魂は空へ水しぶきをあげながら、昇って行った。雫が反射して輝いている。私の目には、その雫はどこか無邪気な姿に映った。
「……キレイ」
トアが思わずつぶやいていた。
「だね。アリス、この水のこと、教えてやってくれ」
アリスはニコッと笑いながらこちらを振り向いた。トアは魂が引導されていったときに光っていた雫に感動しているようだ。どうみてもフリーズしてしまっている。
「これは、『ポップティアーズ』って言うの。私の想いが込められたものなんだ。植物ってね、生命力の塊だと思うのよ。私は。そんな植物が死ぬときは、必ずある共通点があると考えているの」
トアはアリスを見つめている。私はトアの様子を暫く眺めていた。何を思っているのだろう。そう思いながら。
「植物が死ぬとき。植物の中は、いわば『崩壊』した状態なの。できたはずのことがもうできない。そんな状態。水も取り込めない、色も付けられない、立つことさえままならない。そんな状態なの。ほらトアちゃん、この向日葵もそうよ。触ってみて」
トアはゆっくり向日葵の残骸に触れた。
「……シワシワ ヒマワリ グッタリ オツカレサマデス」
「……やっぱり、学習しているんだな、トア。もっといい言葉教えてあげるよ。『お疲れ様です』だと、少し突き放すような印象もあるからね。『労い』の言葉もあるのさ。」
アリスは静かに聞いている。少しだが、アリスの顔は穏やかに笑っているようにも見える。
「ネギライ?」
「じゃあ、トア。ちょっと聞いていてね。『頑張ったね、トア』。どうだ、頬どんな感じ?」
トアは頬に触れていた。アリスもちゃっかりトアの横にしゃがみ、頬を指で触っていた。
「アッタカイ ソトガワガ アツイ」
「ほんとね、中が熱いというより、表面から広がっている感じがするわ」
アリスがトアの頬の変化にしっかり反応してくれている。
「その頬は『受容』されたときに出てくるものなんだ。包み込まれているような。アリスに抱き着かれたときと似ていないかな?」
「ニテル」
私は優しく微笑みながら続ける。アリスはさらっとトアに優しく抱き着いてあげていた。そうしたかったのだろう。じゃれ合いに近い感じだった。
「その頬は『頑張ったね』とか、相手を認め、受け入れたときに出てくるものなのさ。トアにも、そういう言葉をこれからたくさん教えてやるからな。まぁ物は試しだ。目の前の向日葵を受け入れてごらんよ、トア。」
トアは頷いた。首を振ったらわからないという合図と言うことは教えたが、いつの間にその逆を理解したのだろうか。
「ガンバッタネ ヒマワリ」
するとアリスがトアの手を包むように持った。そして向日葵の残骸を撫でるように動かした。トアの頬には困惑の色が少し浮かんでいる。
「こうやってねトアちゃん、触れてあげるといいのよ。そうすると、言葉だけじゃなくて、目の前の物体を等身大で、直接受け入れられると思うんだ。あ!トアちゃん頬赤くなってるね!もしかして何か感じてくれているのかしら?」
トアの頬が赤らんでいた。
「ホホ ホテホテ ウレシサ?」
「それもそうだろう。そしてもう1つ。『和み』。トアの頬がホテホテしちゃうほど、目の前のものに触れられて、トアも安心しているのさ。感動しているんだよ、静かにだけどね。」
「ナゴミ……」
トアは向日葵に触れながらそうつぶやいた。アリスも嬉しそうだ。そしてアリスはトアの手をそっと離し、トアが向日葵を撫でているのを微笑ましく眺めていた。無論私もだ。そしてアリスがポップティアーズの続きを話してくれた。トアは向日葵に手を添えながら、話を聞いていた。
「ポップティアーズの意味は『おめかしの涙』。私は、どんな魂でも、どんな状況になってしまっても、最後には……。いや、いつまでもその魂らしく輝いていてほしいの。初めて手からこの水が発現した時、この水で目の前の魂を輝かせられたら……どんなに素敵かって思ったんだ。だから『ポップティアーズ』って名前にしたの。最高に弾けてて、かわいく輝く涙。もちろん魂になってしまうのは何であっても涙が出てしまうものだと思う。だけどその涙は、ちゃんと魂を輝かせられるんだよってね。重くなくていい名前でしょう?んで、もっとポップに弾けてる感じ出したかったから『ポップティアーズ・スパークル』って名前に至ったんだ。」
私はトアをちらっと見た。思った通り、頬が震えている。私も顔は涼しく笑ったままだが、実は結構揺れている。
「ホホ フルフル カンドウ!」
「同感だ。いつ聞いても感動する。」
アリスはちょっと照れていた。頬を赤らめている。私は微笑んでいただろう。アリスはトアの横にしゃがみ、目を合わせた。
「トアちゃん、きっと君にも素敵な想いの光があると思うわ。ゆっくり探していくんだよ!いつでも応援してるわ~!」
そう言ってアリスは、向日葵に添えられているトアの手の上に自分の手を重ねた。触ってもいない私が見ても、冷たさはどこにもなかった。
「さてっ!次の植物のとこに行きましょうか!ミラっちの亡霊さんもきっとお待ちなのでしょうし!」
「ウン!」
「そうだな。行こうか」
3人はその場を後にした。トアはアリスの手を離さなかった。何を感じているのか、あとで聞いてみたいところだ。なんとなく、わかる気もするけど。頬が嬉しそうなトアに見えるから。どこからか風が吹いてきた。風と一緒に、薄桃色の花びらも飛んできた。場を和ませてくれているようだ。アリスは花びらに飾られて、いつも以上にかわいく見えたのだった。




