第三部 第94話 崩壊する秩序 七聖の撤退
レグノル王城。
玉座の間。
天井が崩れていた。
白い石の柱は折れ、床は砕け、王城は半壊している。
その中心で――
アルディアスが剣を構えていた。
炎の魔力が体から噴き上がりつづけている。
先ほどまで放たれていた光。
アオトの量子砲。
その余波が、まだ空気を震わせていた。
アルディアスが低く呟く。
「……化け物め」
◆
その足元。
瓦礫の隙間から黒い何かが滲み出ていた。
黒い液体。
それはゆっくりと集まり、
膨れ上がり、
形を作り始める。
ジュリアが目を細めた。
「……盤面外」
ミハイマールが魔力を測る。
「反応不明」
「生命でも、魔物でもない」
エミリオが笑う。
「面白いじゃねぇか」
黒い塊が膨張する。
床を侵食しながら広がる。
その表面が波打った。
触れた瓦礫が、ゆっくり沈む。
――吸収。
アルディアスの目が鋭くなる。
「……全員、警戒」
黒い塊が跳ねた。
触手のように伸びる。
エミリオの魔導獣が飛び退く。
ミハイマールが魔法陣を展開した。
「魔導砲」
光の砲撃が落ちる。
爆発。
黒い塊が弾ける。
だが――
次の瞬間。
再び集まる。
ジュリアが呟く。
「……再生」
「厄介ね」
アルディアスが剣を振るう。
炎の斬撃。
黒い塊を真っ二つに裂く。
だが。
切断された部分が蠢く。
再び繋がる。
◆
その時だった。
空から光が降りた。
白い光鳥。
アンリエットからの通信だった。
アルディアスの前に降り立つ。
鳥が光となり消える。
声が響く。
『六都市』
『赤警戒』
アルディアスの眉が動いた。
ミハイマールが顔を上げる。
「同時?」
ジュリアが言う。
「偶然とは思えないわね」
黒い塊が膨張する。
床を覆う。
触れた瓦礫が沈む。
アルディアスが剣を下げた。
短く言う。
「撤退する」
エミリオが笑う。
「は?」
アルディアスが振り返る。
「ここでの戦いに意味はない」
「六都市の異変を収めるのが先だ」
ジュリアが頷く。
「賢明」
◆
ミハイマールが空を見る。
雲の上。
巨大な影。
二隻の戦艦。
アーク=テンレア。
そして――
オラクル。
エミリオが振り向く。
城門前、勇敢に散った老騎士を一瞥する。
その時だった。
黒い塊から触手が伸びた。
地面が隆起する。
倒れている男。
ヴォルコフ。
黒い液体がその体を包みこもうと近づく。
エミリオが舌打ちした。
「……武人が食われるのは気に入らねぇ」
魔導獣が突進する。
しかし吸収され、
そのまま自爆し黒い塊を弾き飛ばす。
エミリオがヴォルコフの体を担ぎ上げる。
血まみれ。
「……死んでるか」
だが。
指がわずかに動いた。
エミリオの眉が動く。
「……生きてやがる。しぶとい爺だ」
◆
空を見上げる。
限界高度まで降りてくる二隻の船。
アーク=テンレア。
オラクル。
エミリオはヴォルコフを抱えたまま
アーク=テンレアに乗艦する。
「医療区画を開けろ」
「拾い物だ」
近くの兵士にヴォルコフを渡しながら命令する。
その時。
空が震えた。
ミハイマールが手を上げる姿が見えた。
「主砲」
オラクルとアーク=テンレアの魔導砲門が動く。
光が収束する。
アルディアスが言う。
「撃て」
轟音。
光の二柱が落ちる。
黒い塊を包む。
爆発。
王城が揺れる。
煙。
瓦礫。
そして――
反転後に二斉射。
そこには。
何も残っていなかった。
レグノル王城があった場所には
巨大なクレーターだけが残る。
王城周辺の都市部にも
被害が出ているのは明白だった。
ジュリアがその様子を観察しながら目を細める。
「……消えた?」
アルディアスは答えない。
ただ空を見る。
そして言った。
「テンレアへ戻る」
「六都市の異変を確認する」
◆
七聖が動く。
それぞれの都市へ。
誰も知らなかった。
この時すでに。
もう一つの災厄が。
テスラ城塞都市で――
起きていたことを。
そしてそれが、
すでに手遅れだったことも。
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