第三部 第93話 崩壊する秩序 混迷への蠢動
テンレア同盟中心国。
コンコルディア王城。
玉座の間。
巨大な水晶球が、静かに浮かんでいた。
それは――
ダンジョンの状態を監視する魔導具。
普段は透明。
都市の異変を感知すると、色が変わる。
青。
それは警戒。
魔物の増加。
ダンジョンの活性化。
だが。
赤は違う。
都市崩壊級。
つまり、イレギュラーを指し示す。
そして今。
その水晶球は――
赤く染まっていた。
◆
神官が震える声を出す。
「……赤」
別の神官が叫ぶ。
「一つではありません!」
水晶球の中で光が動く。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
五つ。
六つ。
神官の顔が青ざめる。
「六都市……」
玉座の前に座す女性が、静かに目を細めた。
リンシア=アーデルハイド。
テンレア同盟の総代表。
だが。
彼女の正体を知る者は、ほとんどいない。
七聖の一人。
リンシアが水晶球を見つめる。
「……おかしい」
静かな声。
神官たちが息を呑む。
「六都市同時赤警戒」
「こんなことは……」
あり得ない。
リンシアが言った。
「都市名を言いなさい」
神官が震える手で記録を見ながら報告する。
「ファラン」
「グレスト」
「オルヴァ」
「ダルク」
「メルド」
「コンコルディア」
神官が顔を上げる。
「……我が城下です」
リンシアの目が細くなる。
「七つのダンジョン都市だけ……」
短く呟く。
神官たちがざわめく。
◆
リンシアが振り向いた。
「アンリエット」
背後にいた女性に念話で話しかける。
七聖の一人。
アンリエット。
「アルディアスに連絡」
「レグノルからの帰還を促せ」
アンリエットが頷く。
神官が箱を開き、リンシアの前に差し出す。
中から古い巻物が現れる。
赤警戒の時のみ使われる魔導具。
側仕えがそれを受け取り、御簾越しにリンシアへ渡す。
リンシアはそれをアンリエットに手渡した。
アンリエットが魔導具に魔力を流す。
巻物が光る。
紙が震える。
次の瞬間。
それは白く輝く鳥へと変わった。
光の鳥。
窓から夜空へ飛び立つ。
アルディアスの元へ。
アンリエットが振り向く。
「私はファランの確認に向かいます」
リンシアは頷いた。
そして玉座の間に控える神官に伝えた。
「コンコルディアは私が見る」
神官たちが息を呑む。
◆
リンシアが歩き出す。
玉座の間を出る。
城の外。
そこには巨大な穴。
コンコルディアのダンジョン入口。
リンシアは空を見る。
夜空。
六都市で同時に起きた異変。
原因不明。
コンコルディアの都市を一望できる場所からダンジョンを見る。
魔物の群れが管理神殿から溢れ出ようと暴れている。
それを兵士や冒険者達が必死に押し返していた。
リンシアは、静かに呟いた。
「……何が起きている」
◆
その時だった。
玉座の間。
水晶球が――
もう一度光る。
七つ目の光。
神官の声が裏返る。
「……テスラ」
「テスラ城塞都市」
「赤警戒です!」
玉座の間に、沈黙が落ちた。




