第二部 第81話 新生レグノル軍 咆哮
アルヴァ砦の朝は、前途を祝福するような優しい光に包まれていた。
砦の中で、無数の足音が響く。
兵が整然と並ぶ。
槍。
剣。
弓。
装備はまばらだが、その列は昨日とは別物だった。
新生レグノル軍。
城門の前。
カイが隊列を見渡していた。
民兵。
旧騎士団。
傭兵。
志願兵。
混ざり合っている。
「なんとか……形にはなったな」
横でヴォルコフが腕を組む。
「まだ軍とは言えん」
白髪の騎士団長は厳しく言った。
「だが」
視線を兵へ向ける。
「戦う覚悟はある」
バルドが斧を肩に担ぐ。
「それで十分だろ」
笑う。
「戦場で育てりゃいい」
ヴォルコフが一瞬だけ笑った。
「荒い考えだ」
「だが嫌いではない」
その時だった。
砦の塔から旗が掲げられた。
陽光を受けてはためくレグノル王家の旗。
砦内部にざわめきが広がる。
兵たちの視線が一斉に塔へ向く。
そこに立っていたのは――
エリーナを従えた
セリナだった。
銀の髪が朝の光を受けて輝く。
静かに前へ出る。
軍全体が見える位置に立つ。
セリナはゆっくりと剣を抜いた。
刃に光が宿る。
兵たちが息を呑む。
「皆」
静かな声だった。
だが谷全体に響く。
「私は」
少し間を置く。
「祖国を取り戻すために戦います」
兵たちの目が変わる。
セリナは続けた。
「だが」
「この戦いは」
「私一人のものではありません」
視線が兵たちを巡る。
農民。
兵。
騎士。
「レグノルを失った」
「すべての人の戦いです」
セリナは剣を掲げた。
「進みましょう」
一瞬の沈黙。
そして――
「レグノル万歳!」
叫びが上がる。
バルドが笑う。
「行くぞ野郎ども!」
斧を掲げる。
ヴォルコフが騎士団へ命じる。
「第三騎士団!」
「前衛!」
騎士たちが一斉に動く。
カイが指示を飛ばす。
「弓兵、左翼!」
「補給隊は後方!」
「進軍開始!」
軍勢が動き出す。
アルヴァ砦の門が開く。
新生レグノル軍は、谷を抜ける。
その先にあるのは――
レグノル王城。
遠く。
王城の塔が朝霧の向こうに見え始めていた。
その地下深く。
黒い染みはゆっくりと広がっていた。
魔力を吸い込みながら。
静かに。
確実に。
「エリーナ、これをアオトに」
演説を終えたセリナが、小さく告げる。
エリーナは頷いた。
だが、その顔に笑顔はなかった。
レグノル奪還戦。
その幕が
いま上がろうとしていた。




