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リブートオブアーク ―科学と魔法が交差する王国再建戦記―  作者: 和幸雄大


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第二部 第67話 盤上の選択

ロスヴァルの空を、風が裂いた。


中央塔の上空。


見張りの兵士が顔を上げる。

その表情が、わずかに和らぐ。


「――帰還!」


蒼い軌跡が城壁を越える。


エリーナは減速し、石畳へと着地した。


巻き上げられた風が静まり、外套が揺れを止める。



ロスヴァルの軍議室。


円卓を囲むのは、セリナ、カイ、バルド。


扉が開き、エリーナが入室する。


「ファランシアは?」


問いは短い。


「市井は安定しています」


一礼。


「……ですが、基幹層に微弱な揺らぎを確認しました」


空気が、静かに張り詰める。



円卓の中央。


三拠点の地図。


《リーデル》

《グラナス》

《アルヴァ》


「七聖の干渉か」


カイ。


「違います」


エリーナは首を振る。


「侵入形跡なし。

リムも断定できない、と」


「暴走ではないのか」


「それも否定的です」


沈黙。


「アオトは?」


セリナの声が、わずかに揺れる。


「目覚める兆候はありません。

ですが、同期率は微増しています」


エリーナは一瞬だけ視線を落とす。


「……このまま揺らぎが続けば、影響は避けられないかもしれません」


言い淀む。


「それでも、進むのですか」


室内の空気が重くなる。



バルドが低く唸る。


「戦場と後背、同時に揺れるか」


「偶然ではない可能性がある」


カイは冷静に言う。


「だが今、進軍を止めれば士気は崩れる」


中央塔の亀裂。

兵の動揺。


恐怖は、説明できない事象ほど強くなる。



セリナは立ち上がる。


窓の外。


訓練する兵の姿。


揺れている。

だが、折れてはいない。


視線が遠くを見る。


ほんのわずかな沈黙。


「……揺らぎは拡大している?」


「いいえ」


「止まってもいません」


静かな現実。



セリナは目を閉じる。


アオトの眠る姿が脳裏をよぎる。


都市が揺れれば、彼も揺れる。


だが。


王は、すべてを守れない。


目を開く。


「進む」


地図の《リーデル》に指を置く。


「都市が揺れても、王国は止めない」


静かな声。


「ただし、ロスヴァル基幹層の監視を強化する。

異常が拡大すれば、即時撤退も辞さない」


均衡。


だがそれは、守りの均衡ではない。



カイが頷く。


「進軍準備、継続」


バルドは腕を組む。


「士気は立て直せる」


エリーナが小さく息を吸う。


「……迷いはありませんか」


王女ではなく、一人の少女への問い。


セリナは答える。


「あるわ」


正直な声。


「でも――止まれば、終わる」



その夜。


中央塔の亀裂は変わらない。


だが、基幹層のログはわずかに周期を持ち始めている。


まだ小さい。

まだ無害。


だが。


都市は、静かに応答している。



保存槽の中。


アオトの指先が、かすかに震えた。


夢の奥。


光の網のさらに深部で、


“何か”が、形を持たないまま存在を確かめている。


そして――


盤は、動き始めた。

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