第二部 第68話 静寂の下で動くもの
リーデル先遣隊が、ロスヴァルを出立して二日。
リーデル砦は、静寂に包まれていた。
風は穏やかに吹いている。
城壁の上を巡回する聖導軍兵の足音も、乱れはない。
それでも。
「……静かすぎる」
カイは、遠くの闇を見ていた。
砦の火は灯っている。
周囲に敵影もない。
だが、空気が重圧のように重く感じられる。
それは戦場で感じる気配ではない。
もっと、内側から滲んでくるような違和感だった。
◆
城下の地下水路。
魔導灯が、ほんの一瞬だけ明滅する。
誰にも気づかれずに。
人知れず、リーデル基幹層の監視盤に微細な波形が刻まれた。
《異常値:未満》
《継続観測》
数字は正常範囲。
だが、周期がある。
◆
ファランシア。
アオトが眠る保存槽の内部。
呼吸は穏やか。
だが脳波は、わずかに高い。
《同期率:0.02上昇》
上がり幅は小さい。
しかし、連続して増加している。
◆
リーデル外縁。
森の奥。
黒い染みのような影が、地面に滲んでいた。
動かない。
形もない。
だが。
土の下で、何かが脈打つ。
「リーデル先遣隊、異常なし」
報告は簡潔だった。
聖導軍側の動きも確認できない。
不気味なほど、均衡している。
◆
再び、ロスヴァル。
セリナは城壁から、先遣隊の進む方角を見下ろしていた。
胸の奥が、ざわめく。
「……揺らぎは?」
「拡大していません」
だが、止まってもいない。
◆
リーデルの森の奥。
染みが、わずかに広がる。
ほんの数センチ。
それは“外側”ではなく、
地下へと伸びていく。
ロスヴァル中央塔。
亀裂から、粉塵がひとひら落ちる。
誰も気づかない。
◆
夢の中。
光の網、その深部。
設計外の空白が、
ほんの一瞬だけ脈打つ。
《鍵:未解放》
《外部同期……》
ノイズ。
◆
夜は静かに更けていく。
まだ何も起きていない。
だが、地下で何かが軋み始めていた。




