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リブートオブアーク ―科学と魔法が交差する王国再建戦記―  作者: 和幸雄大


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第二部 第66話 基幹層の揺らぎ

風の流れは速い。


ロスヴァルを発ったエリーナは、高度を保ったまま一直線に南へ向かっていた。


眼下に広がる森。

遠くに見えるファランシアの外壁。


空はエリーナを歓迎するように穏やかだ。


だが。


「……流れが、違う」


風は正常。

だが、どこか粘りを帯びている。


大気に混じる魔素の揺らぎ。

小さい。

だが、無視できない。



ファランシア外縁。


エリーナは滑るように降下する。


門衛が驚き、すぐに敬礼する。


「王女殿下の使者です」


短く告げる。


都市に異常は、見えない平穏だ。


市井にも混乱の様子はない。

魔導灯も正常に動作している。


だが。


“静かすぎる”。


エリーナは、そう感じた。



旧医療区画。


リム=サクラは、端末を見つめていた。


波形。

基幹層の深部ログ。


安定表示。


だがその底に、わずかなノイズ。


「来ましたね」


扉が開く前に言う。


エリーナが一瞬目を見開く。


「……分かっていたのですか」


「来る頃だと感じていました」


淡々とリムは、エリーナに話す。


エリーナは、セリナからの伝言を告げる。


「ロスヴァルで異常が発生しました。

こちらは、かわりないですか?」


少しの空白が生まれる。


「ええ」


リムは頷く。


「こちらでも、微弱な揺らぎを確認しています」


端末を回転させる。


波形の底に、微かな歪み。


「侵入ではありません。七聖の干渉でもない」


「では……?」


「まだ断定できません」


それが、最も重い言葉だった。



保存槽の前。


アオトは眠っている。


穏やかな呼吸。


だが。


脳波は、以前よりわずかに高い。


《同期率:漸増》


数字は小さい。

だが、確実に。


「彼は?」


エリーナの声は小さい。


「目覚める兆候はありません」


一拍。


「ですが――」


リムは画面を拡大する。


都市基幹層と、保存槽の接続点。


そこに、微かな揺らぎ。


「都市が揺れれば、彼も揺れる」



アオトの夢。


音はない。


光の網。

都市神経網。


その中に、空白がある。


黒ではない。

穴でもない。


“設計外”。


触れようとする。


だが、届かない。


《鍵:未解放》



「揺らぎは拡大していますか?」


「いいえ」


リムは首を振る。


「だが、止まってもいない」


それが厄介だ。


侵食でもない。

暴走でもない。


“調整されている”ようにも見える。


「意図があると?」


「分かりません」


だが。


自然発生の振る舞いではない。



都市外壁。


魔導灯が一瞬だけ、微かに揺れる。


誰も気づかない。

だが、基幹層のログには残る。



「王女に伝えてください」


リムが言う。


「都市は保たれています。

だが、揺らぎは存在します」


エリーナは頷く。


「王女は戻りません」


「正しい判断です」


即答だった。


「盤上を離れるべきではない」


観測者の言葉。



エリーナがロスヴァルへと戻る。


風は先ほどより重い。


ほんのわずかに。


旧医療区画。


リムは一人になる。


端末に表示された微弱波形。


それは、一定の周期を持ち始めている。


まだ小さい。


だが。


「……応答している?」


呟きは、誰にも届かない。



ロスヴァルへ向かう風の中。


エリーナは思う。


都市は無事。

だが、アオトは無事ではないかもしれない。



保存槽の中。


アオトの指が、わずかに震える。


夢の中。


光の網が、ほんの一瞬だけ――


脈打った。

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