第二部 第61話 次なる三拠点
黒の魔女が退いた翌日。
ロスヴァルの朝は、慌ただしかった。
補給物資の搬入。
捕虜の移送。
城壁の再補強。
レグノル奪還という目標は、終わりではない。
まだ、これからだ。
◆
砦中央塔。
円卓の上に地図が広げられている。
セリナ、カイ、バルド、エリーナ。
「王都まで三拠点」
カイが指で示す。
「北街道封鎖砦
補給中継地
王都外縁防衛塔」
「順番は?」
セリナの問い。
「リーデルからだ」
即答。
「補給を断たなければ王都は揺らがない」
バルドが腕を組む。
「真正面から王都は無理か」
「今はな」
カイは冷静だ。
◆
エリーナが空域図を広げる。
「上空監視が増えています。
ジュリアの軍は撤退しましたが、観測は続いている」
七聖は見ている。
だが、まだ動かない。
「動かないのではない。動く理由がないだけだ」
カイの言葉は現実的だった。
「我々はまだ“脅威”ではない」
悔しさよりも、理解が勝つ。
◆
セリナは地図を見つめる。
「兵は?」
「八百を越えた。だが練度はばらばらだ」
「訓練に三日」
バルドが言う。
「士気は高い。だが実戦は別だ」
「三日で整える」
セリナは決める。
「焦らない」
ジュリアの圧を思い出す。
あれは本気ではなかった。
次は違う。
◆
軍議が終わる。
カイが残った。
「王女」
「ええ」
「昨日、あの圧に耐えられた兵は半数だ」
現実。
「それでも進むのか」
セリナは迷わない。
「進むわ」
「恐れている?」
「ええ」
一拍。
「でも、止まる方が怖い」
カイは小さく頷いた。
アオトがいなくても、戦えると証明する。
いや――
彼の背を追うのではなく、隣に立つために。
◆
夜。
砦の石壁。
黒い痕跡が、ほんのわずかに広がる。
誰にも気づかれない。
微細な侵食。
魔力の流れに紛れ、
ゆっくりと、それは根を張っていく。
◆
旗艦《アーク=テンレア》。
情報層。
「ロスヴァル、軍再編中」
報告。
ジュリアは目を閉じる。
「……学んでいるわね」
アルディアスは沈黙。
「脅威ではない」
一言。
「まだ」
その“まだ”が、重い。
◆
ロスヴァル。
セリナは城壁から王都を望む。
「三拠点」
小さく呟く。
奪還は、一歩ずつ。
だが。
足元で、何かが動いている。
まだ、誰も知らない。




