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リブートオブアーク ―科学と魔法が交差する王国再建戦記―  作者: 和幸雄大


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第二部 第60話 黒の魔女、地に立つ

 朝霧が、ロスヴァルの平原を覆っていた。

 静かすぎる。

 風が、止んでいる。

「……おかしい」

 城壁の上で、エリーナが呟く。

 魔力が揃っている。

 乱れがない。

 自然の流れではない。

「規則的な魔力波……敵影です」

 地鳴りが、遅れて届く。

 やがて霧の向こうに、黒い影が浮かび上がった。

 整列。

 旗は黒。

 中央に七聖の紋章。

「……七聖聖導軍」

 カイの声が低く落ちる。

 数は千前後。

 だが問題は数ではない。

 歩調が揃いすぎている。

 魔力の流れが、ひとつに統一されている。

 それだけで空気が重くなる。

 その中央を、ひとりの黒装束の女が歩く。

 黒衣。

 外套が風もないのに揺れる。

 ジュリア・マクミルラン。

 黒の魔女。

 南門前。

 セリナは前に出る。

 逃げない。

 兵の視線が背中に刺さる。

 だが揺れない。

 ジュリアは十歩手前で止まった。

「……よくここまで来たわね」

 声は穏やか。

 だが温度がない。

「お越しいただき、光栄です」

 セリナも一歩も退かない。

 ジュリアの視線が、城壁、兵、旗を順に測る。

「小さな火種が、よくここまで広がったものね」

「火は、燻るから燃えるのです」

 ジュリアの目が、わずかに細まる。

 緊張が走る。

 ジュリアが一歩前へ出た。

 瞬間、圧が地面を押す。

 兵の膝が震える。

 呼吸が浅くなる。

 魔力ではない。

 存在そのものの重み。

 セリナは光を展開する。

 薄く、だが確かに。

 紫紺の瞳は逸れない。

「盤を壊す覚悟はあるの?」

「盤は、すでに壊れている」

 魔力が衝突寸前で止まる。

 空間が軋む。

 あと一瞬で、戦闘が始まる。

 そのとき。

 ジュリアの耳元に、微細な通信音。

 ノイズはない。

 静かな声。

「退け」

 一言。

 命令だけがある。

 感情はない。

 ジュリアの瞳が、ほんの一瞬だけ止まる。

 理解。

 そして従う。

「……承知しました」

 圧が消える。

 空気が戻る。

 兵が膝をつく。

 ジュリアは振り返らない。

「今日はここまでにしましょう」

「退くのですか」

 セリナの問い。

「秩序を保つのも、戦いよ」

 黒衣が翻る。

 聖導軍が一糸乱れず撤退を始める。

 その動きに迷いはない。

 誰が命じたか、誰も聞かない。

 だが全員が理解している。

 七聖は、統一された意志で動いている。

 去り際。

 ジュリアの視線が、砦の石壁をかすめる。

 黒い痕跡。

 わずかな揺らぎ。

「……記録にない」

 小さな呟き。

 だが追わない。

 命令が優先。

 七聖聖導軍が霧の中に消える。

 重圧が去る。

 セリナは息を吐く。

 膝がわずかに震えている。

 だが立っている。

「……始まりね」

 カイが低く言う。

「今日は様子見だ。次は違う」

 バルドが拳を握る。

 エリーナは空を見続けている。

 セリナは王都の方向を見据える。

「ええ」

 黒の魔女は退いた。

 だが、それは敗北ではない。

 盤は、まだ崩れていない。

 そして――

 見えないところで、

 黒い兆しは、静かに成長していた。

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