表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リブートオブアーク ―科学と魔法が交差する王国再建戦記―  作者: 和幸雄大


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/181

第三部 第101話 絶望と転機

海面が、一瞬抉られる。

さっきまでそこにあったはずの水面が、空白になっている。

遅れて――押し戻される。

轟音。

衝撃。

「……っ、ぐ……!」

エミリオの体が海面を滑る。

止まらない。

ようやく止まった時には、呼吸が乱れていた。

肋骨が軋む音がした。

それでも立とうとする。

「……なんだよ……今のは……」

視界が揺れる。

膝が笑う。

力が入らない。

黒が、立っている。

変わらない。

何も。

ただ“そこにいる”。

それだけで、空間が歪む。

リンシアが結界を展開する。

――砕ける。

「……また……!」

防げない。

展開した瞬間に、押し潰される。

ミハイマールが叫ぶ。

「出力変動なし! なのに――干渉されている……!」

理屈が通らない。

ジュリアが低く呟く。

「……最悪ね」

エミリオが息を吐く。

肺が痛む。

それでも、立つ。

「……関係ねぇ」

一歩。

踏み込む。

次の瞬間――消える。

視界から。

空間が歪み、音が遅れる。

最短距離での加速。

一直線。

――叩き込む。

止まる。

拳が、黒の目前で静止する。

触れてすらいない。

なのに、それ以上進まない。

「……は?」

違和感。

手応えが、存在しない。

黒が、視線だけを向ける。

それだけで。

次の瞬間。

エミリオの体が弾かれる。

空が反転する。

海面に叩きつけられる。

「……っ、が……!」

息が、抜ける。

転がりながら、理解する。

違う。

これは、戦いじゃない。

成立していない。

視界の端。

横切る影。

アーク=テンレア。

黒の余波で、巨体が揺れている。

――あれすら、持たない。

「……チッ」

舌打ち。

黒が、視線を空に上げる。

七聖を見るでもない。

何かを探すように。

周囲の誰も、気にもとめられていない。

その中で――

エミリオは、アーク=テンレア艦橋のヴォルコフの姿を捉える。

まだ無傷に近い。

だが、時間の問題だ。

「……おい」

低く、呼ぶ。

ヴォルコフが振り向く。

「……ここから逃げろ」

短く。

それだけ。

ノクスの声が、淡く響く。

「……座標を送る」

一拍。

「それ以上は、介入になる」

アーク=テンレア内の端末に、脱出ポットの位置が表示される。

リリアが一歩、後ろに下がる。

震えている。

それでも、止まらないヴォルコフに向けて言う。

「……行ってください」

ヴォルコフが息を呑む。

「ここは――私が残り見ます」

「白狼の牙として」

一拍。

「……最後まで」

その瞳は、逸れない。

この状況から。

逃げていない。

「……無茶だ」

ヴォルコフが呟く。

わかっている。

残れば、死ぬ。

それでも――

(……ここで、判断を誤るわけにはいかない)

「それでも、です」

リリアが言い切る。

「私だけが、生きている理由があるなら」

「……ここです」

轟音。

黒が、動く。

一歩。

それだけで、海面が歪む。

空間が沈む。

誰かが弾かれる。

声も出ない。

「……行け」

エミリオの声。

低く、押し殺した声。

ヴォルコフが振り返る。

「伝えろ」

「……あいつらに」

一瞬。

迷い。

「このままじゃ――終わる」

ヴォルコフの拳が握られる。

震えている。

悔しさか。

恐怖か。

その両方か。

「……承知した。」

重く短く。

それだけ。

リリアが、前を向く。

背中を見せない。

黒を見据えたまま。

「……必ず」

ヴォルコフが、ノクスに示された座標へ走る。

アーク=テンレアの脱出ポットへ。

躊躇は、もうない。

乗り込む。

閉鎖。

次の瞬間。

射出。

海面を蹴り上げる。

風を裂く。

空へ。

ヴォルコフは、振り返らない。

背後。

戦場。

黒。

歪む世界。

届かない攻撃。

崩れる結界。

沈む海。

――逃げたのではない。

運ぶために。

この現実を。

黒が、再び空を見上げる。

ほんの一瞬。

その視線は――

“何かを思い出している”ようだった。

だが。

それは、すぐに消える。

戦いは、続いている。

だが。

その結末だけは――

まだ、誰にも見えていなかった。

――この戦いが、終わらないことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ