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リブートオブアーク ―科学と魔法が交差する王国再建戦記―  作者: 和幸雄大


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第三部 第100話 災厄のはじまり

海が、押し上げられる。


黒が、脈打つ。


ドクン。


空間が、圧縮される。


ドクン。


足場が、悲鳴をあげる。


ドクン。


肺が、潰れる。


「……っ」


リンシアが息を詰めた。


誰も動けない。


ただ、見ている。



アルディアスが一歩前に出る。


静かに。


「構えろ」


短い命令。


七聖が応じる。


陣が整う。


だが――黒は動かない。


ただ“そこにある”。


空気が、歪む。



「来る」


ミハイマールの声が震えた。


解析が、追いついていない。


次の瞬間。


黒が――消えた。


「――は?」


視線が揺れる。


どこにも、いない。


「上だ」


アルディアスの声。


遅い。



落ちてくる。


空から。


黒が。


――衝突。


光が消える。


音が、遅れて来る。


爆発。


海が割れる。


七聖が弾かれる。


エミリオの体が、海面を滑る。


「……っ、は……」


立てない。


リンシアの結界が、ガラスのように砕け散る。


「……そんな……」


アンリエットが膝をつく。


魔法陣が、音を立てて崩れる。


「……この圧……何……?」



ミハイマールが、震える手で解析を走らせる。


だが――


「出力……測定不能」


観測艦オラクルの演算が、停止した。


ジュリアは扇を閉じたまま、笑わない。


「……これは」


言葉が、続かない。



アルディアスだけが立っている。


黒を見据えて。


そこに“いる”だけで、息ができない。


黒が形を取る。


均整の取れた、人の形。


黒い体。


白い羽――六枚。


そして、顔。


女の顔。



ゆっくりと、笑う。


音はない。


だが、全員が理解した。


“違う”。


これは――



アルディアスが踏み込む。


「退くな」


斬る。


炎が走る。


届く――はずだった。


止まる。


刃が、空中で。


まるで、時間が止まったかのように。


「……なに」


黒が指先で触れる。


軽く。


羽虫を払うように。


次の瞬間。


アルディアスの体が吹き飛ぶ。


海を抉り、深淵へと沈む。


誰も、声を出せない。



エミリオが立ち上がろうとする。


膝が、震える。


「……ふざけんな……」


拳を握る。


だが、力が入らない。


黒が一歩、踏み出す。


それだけで、空気が崩れる。


リンシアが後ずさる。


「……何か手を……」


リンシアが、言葉を失う。



黒が見下ろす。


笑っている。


ゆっくりと。


楽しむように。


その時。


アーク=テンレアが少し遅れて全火力を集中させる。


オラクルが、臨界までエネルギーを収束させる。


発射。


閃光。


衝撃。


海が、狂ったように揺れる。



アルディアスが海面から浮上する。


血を流しながら、それでも立つ。


「全員聞け」


一拍。


「奴は――黒魔王と断定する。」


空気が凍る。


「死力を尽くせ」


七聖が構える。


返事はない。


ただ、武器を握る音だけが重なった。


逃げない。


逃げられない。


黒が、動く。


世界が、軋む。


――災厄は、降りた。


七聖はまだ知らない。

この日を、人々が“黒の降臨”と呼ぶようになることを。

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