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第三部 第96話 沈黙の城塞(前編)
テンレア同盟国ヴァスティラ。
その首都、城塞都市テスラ。
人口百万人を誇る巨大都市は、ダンジョンを中心に栄えていた。
都市の中心には神殿。
その地下には、五十層にも及ぶ迷宮。
冒険者たちが集い、街は常に活気に満ちていた。
――はずだった。
今、その都市は沈黙している。
風だけが、街を撫でていた。
エミリオは上空から都市を見下ろす。
「……なんだよ、これ」
暗い。
灯りがない。
人の気配がない。
音がない。
違和感が、皮膚を撫でた。
「……冷たいな」
空気が妙に冷えている。
生命の熱が、一切感じられない。
城壁は無傷。
建物も残っている。
それなのに――
「誰もいない」
エミリオはゆっくりと降下した。
着地。
石が転がる音だけが、街に響く。
「……全部、持っていかれたか」
歩き出す。
石畳。
途中で止まった日常。
開いたままの扉。
倒れた椅子。
落ちた荷物。
そして――
湯気の消えたスープが、食卓に置かれたまま。
まだ温もりが残っていそうな距離に、誰もいない。
「逃げた……わけじゃねぇな」
低く呟く。
その時だった。
路地裏。
微かな光。
「……あ?」
エミリオの視線が、そこに向く。
――何かがいる。




