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終わりなき塵  作者: Nick Occam


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第二話 死後

最初にあったのは冷たさだった。


痛みではない。


恐怖でもない。


ただ、冷たさだけだった。


マルクスは自分の体を感じられなかった。


呼吸も感じられなかった。


心臓の鼓動さえ感じられなかった。


それでも、なぜかなお存在していた。


あたりは闇だった。


深い。

静かな。

静かすぎる闇。


目を開けようとした。


何も変わらなかった。


そのときマルクスは悟った。


もう目はいらない。


どこか遠くで、

子どもの泣き声がした。


とても小さく。


まるで深い水の底から聞こえてくるように。


マルクスは身を震わせた。


そのあと、また別の声がした。


さらに、もう一つ。


数十。


数百。


小さな声が闇の中で震えていた。


互いにしがみつくように。


このままでは消えてしまうことを恐れているように。


「たすけて……」


「こわいよ……」


「いかないで……」


マルクスは歯を食いしばった。


死んでもなお、

それらは消えなかった。


むしろ逆だった。


今では、前よりもはっきり聞こえる。


前方の闇が揺れた。


最初は気のせいかと思った。


だが、やがて虚空の中で小さな粒がゆっくりと動きはじめた。


数えきれないほど多かった。


灰色。


鈍い色。


燃え尽きた世界のあとに残る灰にも似ていた。


それらは闇の中でゆっくりと巡っていた。


まるで呼吸しているかのように。


そしてなぜかマルクスには分かった。


その一つ一つが、

何かを覚えている。


誰かの痛み。


恐怖。


死。


孤独。


悲しみ。


まるで闇そのものが、

誰かの人生の残りかすでできているようだった。


マルクスは思わず一歩退いた。


そのとき、

闇の中に二つの目が灯った。


黄色い。


静かな。


古い目だった。


巨大な黒猫が、

音もなく虚空の中から現れた。


粒はゆっくりとその毛並みに降り積もり、

けれどすぐに消えた。


まるで、はじめから自分たちが属していた場所を見分けたかのように。


「これで分かったか」


黒猫は静かに問うた。


マルクスは長く黙っていた。


やがて、掠れた声で答えた。


「いや」


猫は近づいた。


足音は相変わらずしなかった。


「それでいい」


猫は言った。


「何もかもを早く理解しすぎた者ほど、ほかの誰より早く怪物になる」


マルクスは目を落とした。


「また、間に合わなかった」


猫は何も答えなかった。


ここでは弁解など意味を持たなかったからだ。


子どもたちの声は、

なおも闇の中で響いていた。


このままここにいたら、

自分は狂ってしまう。


マルクスはそう感じた。


「……これから、どうなる」


低く問うと、猫は古い目でしばらく彼を見ていた。


そのあと、

前方の闇がもう一度揺れた。


粒がゆっくりと一か所へ集まりはじめた。


その動きはほとんど分からないほど微かだった。


まるで虚空そのものが、

しぶしぶ新しい形を受け入れているようだった。


やがて、

闇の中に仮面が浮かび上がった。


古い。


ひび割れている。


顔がない。


その亀裂の奥で、

鈍い青い塵がゆっくりと明滅していた。


その光とともに、

マルクスにはさらに多くの声が聞こえた。


ずっと多く。


まるでこの闇そのものが、

誰にも救われなかった子どもたちで満ちているかのようだった。


マルクスは凍りついた。


本当の意味で恐怖を覚えたのは、

ひどく久しぶりのことだった。


「……それは何だ」


「務めだ」


猫は静かに答えた。


「力か」


猫はゆっくりと首を振った。


「力は、おまけにすぎない。おまえが背負うものの、その副産物だ」


マルクスは仮面を見つめたまま、

目を逸らせなかった。


亀裂の中の粒が、

ゆっくりと震えていた。


まるで彼の思考に応えているように。


そして、それと並んで、

別の何かも感じた。


異質な気配。


どこか遥か遠くに、

自分に似た何かがいるような感覚。


何か欠けているもの。


それでいて、

あまりにも完全なもの。


その感覚に、

背筋を冷たいものが走った。


「……もし、断ったら」


猫は初めて目を逸らした。


闇の中で、

また子どもの泣き声がした。


今度は近かった。


近すぎるほどに。


「そのときは、あの声に応える者がいなくなる」


マルクスはゆっくりと手を伸ばした。


指先が冷たい仮面に触れたその瞬間、

亀裂の中の塵が震えた。


そして、すぐ近くで声がした。


穏やかな女の声だった。


静かで。


疲れていて。


やさしかった。


「かわいそうな子……

ずいぶん長いあいだ、一人で背負ってきたのね」

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