第十一話 門の向こうの作業場
彼らはゆっくりと部屋に入った。ほとんど足を擦るような歩き方だった。
十二枚の扉が、歪んだ半円を描くように岩の中に立っていた。粗末な木の扉。ここへ打ち込まれたその無骨な実用一辺倒さは、どんな装飾よりもマルクスには恐ろしく思えた。四人とも、物音を立てまいとしていた。かすかな気配、乾いた木のきしみ、自分たちの呼吸、そのひとつひとつに耳を澄ませていた。
先頭を行くのはマルクスだった。
扉を選ぶのに、彼は目を使わなかった。隙間から流れ込む冷たい気配、そこから引く風で見定めていた。もっとも早く応えたのは一枚――凍えるような、深い空虚を滲ませている扉だった。近づくほど、不安は強くなっていった。
それは右の坑道に潜んでいた恐怖とは違っていた。あちらに待っているのは生きた獣のような存在だった。肉を持ち、飛びかかるための形をしたものだ。だがこちらの冷たさはもっと深くまで入り込んできた。まるで、この木の向こうには、そもそも存在してはならない場所が広がっているかのようだった。
扉の前まで来ると、音ははっきりした。向こう側から鈍く、周期的な衝撃音が響いてくる。喧嘩にしては規則的すぎる。偶然の騒音にしては重すぎた。
マルクスは歪んだ取っ手に触れた。
金属を通して、鈍い震えがそのまま指へ伝わった。
彼は扉をできるかぎりゆっくりと開け始めた。ほんのわずかずつ。きしませないために。蝶番が先に跳ねないように。こちらが見つかる前に、まず向こうを見切るために。
最初、隙間に見えたのは粗い石積みだけだった。歪んだ石、湿った継ぎ目、黒い細線のように走る隙間。
マルクスは歯を食いしばり、その狭い開口へ身を滑り込ませた。扉に触れぬように身を沈め、さらに先を覗いた。
そして、全身が冷えた。
扉の先には階段があった。それは下へと降り、狭い見張り台のような踊り場へ続いていた。さらにその先、もっと深く、もっと遠く、この洞窟の内側に収まるはずのない場所が広がっていた。
重く灰色の曇天の下、斜めに叩きつけるような豪雨が降っていた。冷たく濡れた光の中、はるか下で無数の醜い怪物たちが蠢いている。
だが、築いているのはそいつらではなかった。
雨の下で働いていたのは奴隷たち――人間と、人間に似た、ねじ曲がった姿の者たちだった。
追い立てられ、疲れ果てた影が、梁や石や鉄を運び、足場へ荷を上げ、綱を引きずり、人間が本来いるはずもない場所で背を折っていた。その上に城塞が伸びていた。巨大で、粗く、異様なそれは、まるで扉の向こうでずっと以前からひとつの世界が生きており、今になってこちら側へ食い込んできたみたいだった。
一瞬、マルクスの息が止まった。
熱が顔へ打ち上がった。
彼は目を上げた。
そして、視線を交わした。
あの城塞の中から、扉が動き始めた瞬間からずっとこちらを見ていたものと。
マルクスは反射的に身を引き、部屋の中へ戻り、力任せに扉を閉じた。
息を整えている暇はなかった。
「扉を壊す。今すぐだ」
男たちは一瞬ためらった。
言葉にではない。その声の響きに。
「音で気づかれるぞ……」
一人が息を詰まらせるように言った。
「壊す」
今度はマルクスがはっきりと言った。
そして自分が先に動いた。
鉈が短く、鋭く跳ねた。一撃目で枠がひび割れた。二撃目で扉ごと枠が砕けた。乾いた音を立てて、板が床へ倒れた。
マルクスは、聞かれたかどうかなどもう気にしていなかった。
見られた。
それで十分だった。
門が生きたままなら、向こうから応じるものが来る。ならば、枠も蝶番も支えも、扉として機能しているものはすべて砕くしかなかった。
男たちはもう口答えしなかった。
屈強な男が隣の扉を鉤で引き剥がした。若い男が肩をぶつけた。老人も、足元もおぼつかないまま、それでも棍棒で留め具を叩き壊していた。彼らは輪を描くように、急ぎ、荒々しく、怒りに押されるように、一枚ずつ扉を潰していった。
すべてを壊し終えたとき、マルクスは重く息を吐き、石壁にもたれた。男たちも、ほとんど立っているだけで限界だった。
隣の部屋から、女たちの悲鳴が聞こえていた。
そのあいだに割って入るのは、言葉というより呪詛に近い、粗く、濁った、砕けた声だった。
彼らはそちらへ向かった。
近づいて中を覗いた瞬間、男たちは本当に足元を失いかけた。
部屋は広かった。両側に十三台ずつ、木の台を二列に並べられるだけの広さがあった。
その上に、女たちが横たえられていた。
産み月の女たちだった。
ほとんど動かない者もいる。肘から太腿まで血に濡れている者もいる。口を開けたまま、もはや叫ぶ力さえ残っていない者もいた。
それぞれの前に、小さな生き物が一体ずつ立っていた。汚れた布切れを巻きつけたその姿は、低く、乾いて、妙に集中しており、生き物というより儀式のための道具みたいだった。手には、黒い石を先端に嵌めた杖が握られていた。
「あそこに……娘が……」
老人の声は、折れる梁のように重く落ちた。
足が崩れ、彼は膝をつき、顔を手で覆った。それから息も絶え絶えに、右列のいちばん奥の台を震える手で指した。
そこに少女がいた。
あまりに動かなさすぎた。
服は血に染まりきっていた。台の前には、もう誰も立っていない。終えたのか、不要になって捨てたのか――そう見えるほどだった。
いちばん生々しい叫びは、そこからではなかった。
左列の中央にいた女からだった。
鎖に繋がれ、汗に濡れ、髪を顔に貼りつかせたまま、彼女は台の上でのたうっていた。陣痛に耐えているのではない。まるで、自分の死そのものを拒んでいるようだった。
「この腐れども!」と、かすれた声で彼女は叫んだ。「呪われた落とし子なんて、死んでも産ませない!」
小さな生き物たちは、揃って笑った。
マルクスは前へ出た。
「立て」老人へそう投げた。「助けるぞ」
男たちは武器を握りしめ、そのまま突っ込んだ。
だが、広間の半分も進めなかった。
術者たちは産台から目を離した。抵抗を続ける女の上に立つ一体だけは、結果を疑っていないかのように儀式を続けていた。残りは、ほとんど同時に杖を持ち上げた。
その声は耳ではなく、肉体へ打ち込まれた。
濁った呪文が骨と内臓を這い、筋肉の中から支えを引き抜くように力を奪った。
マルクスは膝をついた。
二人の男はそのまま床へ顔から倒れた。
肺から空気が一気に抜けた。
腕は鉛のように重くなった。
心臓が、内側から握り潰されるみたいに重く打った。
「力が……抜ける……」
マルクスはやっとそれだけを絞り出した。
それでも、なお耐えていた。
その半ば失神しかけた空白の底で、痛みより乾き、痛みより怖ろしいものが持ち上がった。この広間が存在していることそのものへの憎悪。こいつらの手仕事への憎悪。笑い声への憎悪。何をこの世に生み出すかを決める権利を、自分たちのものにしていることへの憎悪。
その憎しみは、彼を強くしなかった。
塵を掻き立てた。
最初に来たのは、皮膚が急に狭くなったような感覚だった。
次の瞬間には、肩、胸、首、腕へ亀裂が走った。
切り傷ではない。
裂傷でもない。
亀裂だった。
生きた殻そのものが、内側から押し広げられて耐え切れず、割れ始めたかのように。
痛みはあまりに激しく、一瞬、マルクスは広間も、女たちも、術者たちも、自分の手さえ認識できなくなった。すべては、内側から身体を裏返す乾いた白い火へ収束した。身体が折れた。呼吸は短く頼りない断片に砕けた。筋肉は関節ごと折られているみたいに痙攣した。何より怖ろしかったのは、内側で目を覚ますものが、もはや人間のままでいる義務を持っていないように感じられたことだった。
古い傷から血が流れるのは止まった。
亀裂と一緒に、それはもっと深いところへ引き込まれたみたいだった。
その奥で、青い光が燻っていた。
炎ではない。
ひび割れの底で燃える乾いた熱だった。かすかな爆ぜる音がそこから伝わり、亀裂の縁で小さな青い火花が散った。
痛みはわずかに引いた。
だが、楽にはならなかった。
マルクスはどうにか立ち上がった。
身体はまだ折れ曲がり、膝はほとんど支えにならない。目の前には十数体を超える術者たちが立ち、そのうち何体かはもう一度杖を持ち上げようとしていた。
抵抗を続ける女の前で儀式を続ける術者とのあいだに、もう一体いた。
マルクスは、その一体めがけて鉈を投げた。
計算して。
あれは正面から飛んでくる刃を避ける。そう踏んでいた。
その通りになった。
術者は線から身を外した。鉈はその脇を抜け、そのまま儀式を続けていた一体へ深く食い込んだ。
そいつは喉を潰したような声を上げた。
杖の黒い石が消えた。
何体かの術者は、一瞬だけ意識をそちらへ奪われた。ついさっきまで揃って笑っていたくせに、その揺れ方は妙に人間じみていた。儀式は止められない。女は陣痛にのたうち回っている。その瞬間だけ、連中の腐った習い性が揺らいだ。
それで足りた。
マルクスはもっとも近い一体まで辿り着き、その上顎を掴んだ。
生き物は暴れ、逃れようとした。
だが、無駄だった。
骨は彼の手の中で潰れた。
そこから先は速かった。
痛みを引きずりながら。
身体の奥のきしみを無視しながら。
まだ力に変わりきらず、それでもただの苦痛ではなくなった青い熱を抱えたまま。
彼は頭蓋を砕き、首を折り、小さな身体を台や石へ叩きつけた。術者たちは立て直せなかった。後退るものがいた。杖を持ち上げようとしたものもいた。だが遅かった。
男たちはすぐには起き上がれなかった。だが、どうにか立てるようになると後ろから回り込み、届く範囲のものから片端に仕留めていった。
老人はその場に倒れたままだった。
それから数瞬で、広間は静まり返った。
残ったのは、荒い呼吸と耳の奥を打つ血の音、それから女たちの低い呻きだけだった。
マルクスは台の列を見渡した。
「息のある者から、鎖を外せ」
最後まで抵抗していた女は、術者たちが死んだのを見て、痛みと陣痛のあいだで掠れた声を絞り出した。
「私ごと……そいつも殺して……まだ生まれる前に……」
マルクスはすぐには近づかなかった。
一歩ごとに、痛みが新しく返ってきた。亀裂は皮膚の上をさらに深く走り、その下で乾いた青い熱が燻っていた。あと少しで身体は、内側から押し上がるものを支え切れなくなりそうだった。全身が軋んだ。呼吸は裂けた。筋肉は短く、怒ったように痙攣した。それでも彼は近づいた。
女は野生の獣みたいな、疲れ切り、追い詰められた目で彼を見上げた。彼女の中で焼け残っているものは、痛みと恐怖、それから最後の最後まで、この世に出してはならないものを拒み続ける意思だけだった。
もし手遅れなら、マルクスは彼女の願いどおりにするつもりだった。
そこに残酷さはなかった。
そういう助け方しか残っていないのなら、それをするだけだった。
彼は短く荒い息を吐き、膝をついた。そして鎖を引きちぎった。
それから、その腹へ手を置いた。
目を閉じた。
掌の下には、すべてがあった。陣痛。恐怖。消耗。ほとんど完成しつつある粘ついた異物の穢れ。
けれど、そのさらに下に、まだ生きた抵抗が残っていた。
弱い。
押し潰されかけている。
それでも、生きていた。
彼女の身体はもう限界に近かった。残っているものはすべて、崖っぷちで人が自分をつなぎ止める最後の力へ注ぎ込まれていた。
それを、マルクスはすぐに感じ取った。
自分の痛みも、亀裂の熱も、骨の芯まで食い込む重さも越えて、そのわずかな生の抵抗を感じた。
多くはない。
確信には足りない。
だが、殺すには足りなかった。
目を開けると、新しい波に顔を歪めた彼女が、彼の返答を待っていた。まるで、彼の手で死ぬことまで受け入れているかのようだった。
マルクスは、すぐには手を離さなかった。
「産め」と、彼は低く言った。「人でないものが出てきたら、お前の望みどおりにする」
女は、まだ信じきれない目で彼を見た。
そのあと、その視線の奥で何かがわずかに揺れた。自分の闘いが、まだ完全には負けていないかもしれないという、ひどく小さな反応だった。
彼女は目を閉じ、かすかにうなずいた。
それ以上の力は、もう残っていなかった。
そのあいだに、老人は杖を支えに娘のところまで辿り着いていた。
そのそばに崩れ落ちた。
抱き寄せた。
最初の一瞬は、もう遅かったと思った。
だが、次の瞬間、彼は顔を上げ、慌てたように娘の胸へ耳を押しつけた。
鼓動があった。
弱く。
かすかに。
それでも、生きていた。
老人は、それが嗚咽なのか何なのか分からないほど古い音を喉から漏らし、必死に鎖を外し始めた。うまくいかなかった。手は滑る。息は切れる。それでも、とうとう外した。
そのあいだ、男たちは他の女たちも解放していた。
全員ではない。
七人は、すでに死んでいた。
しかも、それは出産が終わっていた者たちだった。
そのそばに子どもはいなかった。
どんな説明よりも、そのことのほうが恐ろしかった。
まだ産んでいない、だが意識を取り戻した女の一人が、最後まで抵抗した女の出産をマルクスとともに手伝った。
広間は、死者まで耳を澄ませているみたいな静けさに沈んだ。
やがて、子どもが生まれた。
そして泣いた。
ありふれた、人間の赤子の泣き声で。
すぐには誰も動けなかった。
母親でさえ信じていないようだった。
マルクスは長くその赤子を見た。今にも何か異形のものが浮かび上がるのではないかと、待ってしまうほど長く。
だが、何も起こらなかった。
ただの赤子だった。
生きている、人間の。
彼はそれを母親へ渡した。
女は赤子を抱きしめ、肩を震わせながら、声もなく泣いた。
「ありがとう……」
彼女はやっとそれだけを絞り出した。
マルクスはほんの少しだけ笑った。
それさえ痛かった。
「生き延びてから言え。礼はそのあとだ」
彼はその場に留まらなかった。
床から鉈を拾い上げた。
血にまみれた広間、壊された台、死んだ術者たち、女たち、娘を抱く老人、母の胸にいる赤子を一度だけ見渡した。
そして最後の部屋へ向かった。
まだ終わりではなかった。
ここはただの作業場だ。
源は、もっと奥で待っていた。




