米を食べると犬はわりとよろこぶ
僕は初めて、
自分から戦いを楽しみにしていた。
――とはいえ。
腹は減る。
それとこれとは別問題だ。
僕は熊おじを見た。
「ご飯、まだ?」
「今この状況で聞くか!?」
「だってお腹すいたし」
「さっき食っただろうが!」
「さっきはさっき」
「何その理屈!?」
クロガネが呆れたように僕を見る。
「……お前、本当に緊張感がないな」
「あるよ」
「どこに?」
「お腹に」
「それは空腹感だ」
熊おじが頭を抱えた。
「もういい……」
そして大きくため息をつく。
「戦う前に食わせてやれ」
「熊おじ!」
「ただし!」
熊おじは僕を指差した。
「食いすぎるなよ!」
「なんで?」
「腹いっぱいで飛べなくなったらどうする!」
僕は自分のお腹を見た。
「……飛べるかな?」
「知らん!」
クロガネが口を挟んだ。
「そもそも空中に一歩踏み出している時点で普通じゃない」
「あ」
そうだった。
僕はまだ空中に立っていた。
一歩。
二歩。
そのまま何事もなかったように歩く。
「便利だね、これ」
「お前……」
クロガネが額を押さえる。
「能力に目覚めた直後の犬とは思えんな」
「そう?」
「普通ならもっと驚く」
「でも」
僕は空を見上げた。
足元には何もない。
それなのに、ちゃんと立っている。
昔の僕なら、
こんなことができるなんて考えもしなかった。
そして――
その先には、
まだ見たことのない敵がいる。
怖くない。
……いや。
ちょっと怖い。
でも。
それ以上に、
楽しみだった。
僕は尻尾を振った。
「早く行こう」
クロガネが笑う。
「やっと冒犬者らしくなったな」
熊おじが言った。
「その前に飯だ」
「熊おじ最高!」
「お前、俺より飯のほうが好きだろ」
「うん!」
「即答かよ!!!」
僕たちは戦場へ向かった。
――もちろん、
その前にご飯を食べてから。




