黒い犬は顔次第で印象がかわる
熊おじは腹を抱えていた。
「うぅ……」
「大丈夫?」
「大丈夫なわけあるか!」
熊おじが地面に転がった。
「一瓶丸ごと食うんじゃなかった……」
「だから塩分が高いって言ったのに」
「お前が食わせたんだろうが!」
そのときだった。
―――ザッ。
遠くから、何かの足音が聞こえた。
僕は耳を立てた。
「……誰かいる」
タロとジロも振り返る。
森の奥。
そこから、一匹の犬が歩いてきた。
黒い。
全身が真っ黒だった。
柴犬でもない。
ドーベルマンでもない。
見たことのない犬種だった。
首輪もない。
毛並みも異様に整っている。
そして何より――
目が赤かった。
「誰だ?」
熊おじが立ち上がる。
さっきまで腹を抱えていたのに、急に真剣な顔になった。
黒い犬は僕たちの前で止まった。
「コロマル」
僕は驚いた。
「なんで僕の名前を知ってるの?」
黒い犬は答えた。
「お前がここにいることは、最初から知っていた」
「誰?」
「俺はクロガネ」
クロガネ。
その名前を聞いた瞬間、
熊おじの顔が変わった。
「……クロガネ?」
「知ってるの?」
熊おじは低い声で答えた。
「魔獣だ」
「魔獣?」
「しかもただの魔獣じゃない」
クロガネが笑った。
「その通り」
そして口を開いた。
「犬現――」
空気が震えた。
「【無食】」
「……?」
僕には意味がわからなかった。
クロガネは僕を見る。
「俺の犬現は、あらゆる食物を無効化する」
「え?」
「食べても、栄養にならない」
クロガネが一歩近づく。
「味もしない」
「……」
「腹も満たされない」
「……」
僕は嫌な予感がした。
「つまり――」
クロガネが笑う。
「お前の【餌】は、俺には効かない」
「…………」
僕は固まった。
今まで僕の犬現は、
食べる。
強くなる。
食べる。
強くなる。
それだけだった。
だが――
食べても何も得られない相手。
初めてだった。
クロガネは続ける。
「お前の能力は知っている」
「なんで?」
「お前は有名になりすぎた」
熊おじが口を挟む。
「有名?」
「たった一度の戦闘で、犬カウンターの階級をコボルト級まで上げた犬だ」
「……」
「そんな犬を放っておくほど、俺たちは甘くない」
僕は熊おじを見る。
「俺たちって?」
熊おじの顔が険しくなる。
クロガネは答えた。
「【飢犬】」
「……?」
「食べることを禁じられた犬たちだ」
その言葉を聞いて、
僕の腹が鳴った。
ぐぅぅぅぅ。
クロガネが眉をひそめる。
「……お前、こんな状況でも腹が減るのか?」
「うん」
「……」
クロガネが初めて困った顔をした。
「聞いていた話と違うな」
熊おじが笑った。
「そいつはそういう犬だ」
「黙れ熊」
「誰が熊だ」
「熊だろ」
「そうだけど!」
クロガネは僕を見る。
「コロマル」
「なに?」
「お前に選択肢を与える」
「うん」
「俺たちと来い」
「やだ」
即答だった。
クロガネの眉が動く。
「……理由は?」
「ご飯くれる?」
「……」
「くれるなら考える」
「肉なら好きなだけある」
僕の目が輝いた。
「行く!」
タロとジロが叫ぶ。
「コロマル!?」
熊おじが叫ぶ。
「お前、即落ちするな!」
クロガネはしばらく黙っていた。
そして――
「……なるほど」
ニヤリと笑った。
「やはり、お前は噂通りだ」
「どういう意味?」
「馬鹿だという意味だ」
「失礼だな!」
クロガネの身体から黒いオーラが立ち上る。
「だが――」
地面が震える。
「そんなお前を、俺は倒さなければならない」
僕も構えた。
「じゃあ戦う?」
「そうだ」
僕は牙を見せた。
「じゃあ――」
お腹が鳴った。
ぐぅぅぅ。
「その前に何か食べていい?」
「……」
クロガネは初めて、
明確にため息をついた。
「……好きにしろ」
僕は刺身の残りを探し始めた。
その横で熊おじが呟く。
「……こいつ本当に大丈夫か?」
タロが答えた。
「たぶん大丈夫」
ジロが続けた。
「たぶんね」
クロガネは僕が刺身を探す様子を見ながら、静かに笑っていた。
「今日は戦わない」
「え?」
「お前はまだ、自分の力を理解していない」
クロガネは背を向ける。
「餌覚醒したばかりの犬が、いきなり俺と戦っても意味がない」
熊おじが警戒する。
「何を企んでいる?」
「企みではない」
クロガネは森の奥を見た。
「お前が成長するまで待つだけだ」
「成長?」
「お前の【餌】は、食べた相手の力を取り込む能力だ」
クロガネが振り返る。
「ならば、強い相手を食べればいい」
僕の目が輝いた。
「強い犬、いるの?」
「いる」
「どれくらい?」
「お前が今のままでは、十秒も持たない相手がな」
「……」
熊おじが顔をしかめる。
「まさか、こいつを鍛えるつもりか?」
「鍛えるのは俺ではない」
クロガネは森の奥を指差した。
「この森にいる犬たちだ」
その日の夜。
僕たちは森の中にある古い犬小屋へ案内された。
そこには、何匹もの犬がいた。
大きなブルドッグ。
細身のボーダーコリー。
毛むくじゃらのシェパード。
そして、片目に傷のある白い犬。
全員が僕を見ていた。
「こいつらは【飢犬】の見習いだ」
クロガネが言う。
「見習い?」
「まだ人間の街には出せない犬たちだ」
ブルドッグが鼻を鳴らした。
「こいつが噂のコロマルか?」
ボーダーコリーが僕の周りを歩く。
「ずいぶん小さいね」
シェパードが笑った。
「本当にコボルト級なのか?」
僕は胸を張った。
「そうだよ」
白い犬が口を開いた。
「なら、まず俺と戦え」
「名前は?」
「ハク」
ハクはゆっくりと構えた。
「俺の犬現は【白刃】」
「どんな能力?」
「爪が刃物になる」
ハクの前足から、白い光が伸びた。
鋭い爪が、刀のように変わる。
熊おじが叫んだ。
「コロマル、無理するな!」
「大丈夫」
僕はハクを見た。
「食べればいいんでしょ?」
「簡単に言うな」
ハクが地面を蹴った。
速い。
僕は横に飛んだ。
だが、爪の先が僕の耳をかすめた。
「危なっ!」
「避けるだけでは勝てないぞ」
ハクが再び迫る。
僕は牙をむいた。
「じゃあ、食べる!」
僕はハクの前足に噛みつこうとした。
しかし、ハクは身体をひねった。
白い爪が僕の肩を切り裂く。
「痛い!」
僕は地面を転がった。
タロとジロが叫ぶ。
「コロマル!」
「立って!」
僕は肩を押さえた。
血が出ている。
初めてだった。
餌覚醒してから、
食べる前に傷つけられたのは。
ハクが近づいてくる。
「お前の能力は強い」
「……」
「だが、食べるためには相手に近づかなければならない」
ハクが爪を振り上げる。
「その隙をどうする?」
僕は立ち上がった。
肩が痛い。
怖い。
でも――
お腹は減っていた。
「……近づけないなら」
僕は地面に落ちていた木の枝を見た。
「近づけるようにすればいい」
僕は枝をくわえた。
そしてハクに向かって投げた。
「そんなもので――」
ハクが枝を切り落とす。
その瞬間。
僕は枝の影から飛び出した。
「なに!?」
僕はハクの前足に噛みついた。
ガブッ!
「ぐっ!」
ハクの身体から白い光が流れ込んでくる。
僕の牙が熱くなった。
そして、頭の中に声が響いた。
【犬現【白刃】を一部捕食しました】
【牙に硬化能力が付与されます】
「……え?」
僕の牙が白く光った。
ハクが驚いている。
「一部捕食だと?」
僕は自分の牙を見た。
さっきまでよりも硬くなっている。
「全部食べなくても、力を少しもらえるの?」
クロガネが静かに答えた。
「相手の能力を完全に取り込むには、相手を倒しきる必要がある」
「でも、少し噛めば少しだけ使える」
「そうだ」
僕は笑った。
「じゃあ、もう一回!」
ハクが構える。
「調子に乗るな!」
今度は僕が先に走った。
ハクの爪が迫る。
僕は牙を食いしばった。
白い光が牙を包む。
ガキン!
爪と牙がぶつかった。
今までなら、僕の牙が負けていた。
だが今回は違った。
ハクの爪を弾き返した。
「なに!?」
僕はそのままハクの懐に飛び込む。
「いただきます!」
ガブッ!
ハクの首輪に噛みついた。
首輪が砕ける。
ハクが後ろへ飛んだ。
「俺の犬現が……!」
ハクの身体から白い光が抜けていく。
僕の身体に流れ込んだ。
【犬現【白刃】の捕食率が上昇しました】
【牙の硬化能力が強化されます】
僕の牙は、さらに鋭くなった。
ハクは膝をついた。
「負けた……」
周囲の犬たちがざわめく。
ブルドッグが立ち上がった。
「次は俺だ」
「え?」
ブルドッグが前に出る。
「俺の犬現は【鉄腹】」
「鉄腹?」
ブルドッグが自分の腹を叩いた。
ゴンッ!
金属のような音が響いた。
「腹が鉄になる」
「食べられる?」
「食べてみろ」
ブルドッグが突進してきた。
僕は避けようとした。
だが、身体が大きすぎる。
ドンッ!
僕は吹き飛ばされ、犬小屋の壁に叩きつけられた。
「痛い……」
「コロマル!」
熊おじが叫ぶ。
ブルドッグが迫ってくる。
「俺の腹は噛めない」
「じゃあ、腹以外を食べる!」
僕は走った。
ブルドッグの足に噛みつく。
だが、硬い。
毛の下まで牙が届かない。
「無駄だ!」
ブルドッグが身体を振る。
僕はまた吹き飛ばされた。
「どうする?」
クロガネが見ている。
「相手の能力を見ろ」
「能力を見る?」
「食べることだけが、お前の戦い方ではない」
僕はブルドッグを見た。
鉄腹。
腹だけが硬い。
なら――
「腹以外は、普通なんだ」
僕はブルドッグの背後に回った。
「なに!?」
尻尾に噛みつく。
「そこか!」
ブルドッグが振り返る。
僕はすぐに離れた。
そして、また噛みつく。
足。
耳。
首輪。
少しずつ。
何度も。
ブルドッグは怒って追いかけてくる。
「ちょこまかと!」
「食べられるところを探してるんだよ!」
僕はブルドッグの首輪に噛みついた。
ガブッ!
【犬現【鉄腹】を一部捕食しました】
【皮膚の一部に硬化能力が付与されます】
僕の肩の傷が、白く硬くなった。
「傷が……!」
血が止まった。
ブルドッグが驚く。
「俺の鉄腹を、皮膚に移したのか?」
「少しだけだけどね!」
僕は再び走った。
今度は正面から突っ込む。
ブルドッグの拳が飛んでくる。
僕は硬化した肩で受け止めた。
ドンッ!
痛い。
でも、吹き飛ばされなかった。
そのままブルドッグの首輪に噛みつく。
ガブッ!
【捕食率が上昇しました】
【硬化範囲が拡大します】
僕の肩から背中にかけて、白い硬化が広がった。
ブルドッグが倒れる。
「……負けた」
僕は息を切らしていた。
「勝った……?」
クロガネが頷く。
「勝った」
僕の身体の中には、
白刃の硬い牙。
鉄腹の硬い皮膚。
二つの力が残っていた。
でも、まだ完全には使えない。
少し噛んだだけだからだ。
クロガネが言った。
「これが、お前の成長方法だ」
「いろんな犬を食べて、能力を増やす」
「違う」
クロガネは僕を見る。
「いろんな犬と戦い、相手の能力を理解し、必要な部分だけを捕食する」
「……」
「ただ食べるだけでは、強くなれない」
僕は自分の牙を見る。
「戦って、考えて、食べる」
「そうだ」
その夜から、
僕の修行が始まった。
最初の相手は、ボーダーコリーの【疾走】。
速すぎて、最初は尻尾すら見えなかった。
僕は何度も転び、
何度も地面に顔をぶつけた。
それでも、最後には足先に噛みついた。
【脚部に加速能力が付与されます】
次の相手は、シェパードの【嗅界】。
森の中に隠れても、
風向きを変えても、
僕の位置を見抜いてくる。
僕は匂いを消すのではなく、
逆に大量の匂いをばらまいて混乱させた。
そして、その隙に首輪を噛み砕いた。
【嗅覚に索敵能力が付与されます】
その次は、毛むくじゃらの犬。
犬現は【毛壁】。
全身の毛を硬くして、どんな攻撃も弾き返す。
僕は正面から噛みつくのをやめ、
毛の隙間から少しずつ捕食した。
【体毛に防御能力が付与されます】
戦うたびに、
僕の身体には新しい力が増えていった。
硬い牙。
硬い皮膚。
速い脚。
鋭い嗅覚。
防御力の高い毛。
けれど、どの能力もまだ不完全だった。
少し使えば疲れる。
長く使えば腹が減る。
そして腹が減ると、
僕は判断力を失った。
「コロマル!」
熊おじが叫ぶ。
「今は戦闘中だ! 相手の尻尾を食うな!」
「だって美味しそうだったから!」
「能力を見ろ!」
「でもお腹が!」
「修行中に干し肉を食うな!」
「これは必要な栄養補給!」
「ただの間食だ!」
タロとジロは、そんな僕を見て笑っていた。
「少しずつ強くなってるね」
「うん。でも、食べる量も増えてる」
「それは最初からじゃない?」
修行は何日も続いた。
僕は勝ったり、
負けたり、
逃げたり、
また挑んだりした。
最初は一匹と戦うだけで精一杯だった。
だが、やがて二匹を相手にできるようになった。
三匹を相手にしても、
少しの間なら耐えられるようになった。
そしてある日。
クロガネが僕の前に立った。
「次の相手を用意した」
「また犬?」
「今までの犬とは違う」
森の奥から、
巨大な犬が現れた。
体長は僕の三倍。
全身を岩のような鱗が覆っている。
口から炎が漏れていた。
「犬なの?」
僕が聞くと、
熊おじが震えながら答えた。
「犬だ。たぶん」
巨大な犬が唸る。
「俺の犬現は【火山】」
地面に熱が広がった。
「噛みつけば、口の中が焼ける」
「……」
僕は少し考えた。
「じゃあ、口以外を食べる」
「簡単に言うな!」
巨大な犬が吠えた。
炎の塊が飛んでくる。
僕は加速した脚で横へ逃げた。
炎が地面を焼く。
僕は嗅覚で相手の動きを読む。
次の攻撃。
右。
僕は避ける。
そのまま背後へ回る。
だが、尻尾が振り抜かれた。
ドンッ!
僕は吹き飛ばされた。
硬化した皮膚でも、衝撃までは防げない。
「まだだ!」
僕は立ち上がった。
巨大な犬が再び口を開く。
炎が集まる。
僕は周囲を見た。
逃げ道はない。
正面から行けば焼かれる。
背後に回っても尻尾がある。
足に噛みつこうとしても、鱗が硬い。
どうする?
僕は自分の能力を思い出した。
白刃。
鉄腹。
疾走。
嗅界。
毛壁。
どれも完全ではない。
でも、組み合わせることはできる。
僕は地面を蹴った。
疾走で一気に近づく。
炎が放たれる。
僕は毛壁で身体を覆い、
硬化した肩で炎を受け流した。
熱い。
毛が焦げる。
それでも止まらない。
僕は巨大な犬の前足に飛びついた。
白刃の牙で鱗の隙間を狙う。
ガブッ!
「グオオオオオ!」
巨大な犬が暴れる。
僕は振り落とされそうになった。
だが、嗅覚で動きを読み、
硬化した皮膚で爪を受け止める。
そして、もう一度噛みついた。
ガブッ!
【犬現【火山】を一部捕食しました】
【体内に発熱能力が付与されます】
僕の身体の中に熱が流れ込んだ。
熱い。
熱すぎる。
「うわああああ!」
僕は思わず口を開いた。
その瞬間、
僕の口から小さな炎が飛び出した。
「え?」
巨大な犬が驚く。
僕も驚いた。
「火、出た?」
熊おじが叫ぶ。
「出たな!」
「すごい!」
タロとジロが声を上げる。
僕はもう一度、口を開いた。
「がおー!」
小さな炎が飛んだ。
巨大な犬の鼻先に当たる。
「熱っ!」
巨大な犬が怯んだ。
僕はその隙に、首輪へ噛みついた。
ガブッ!
【捕食率が上昇しました】
【発熱能力が強化されます】
炎が大きくなった。
僕の口から、
今度は拳ほどの火球が飛び出した。
巨大な犬は倒れた。
「負けた……」
僕はその場に座り込んだ。
身体中が痛い。
お腹も空いている。
でも、胸の奥には今までにない力があった。
クロガネが近づいてくる。
「よくやった」
「強くなった?」
「少しな」
「少し?」
「まだ、お前は自分の力を使いこなせていない」
クロガネは僕の身体を見る。
「能力を増やすだけでは駄目だ」
「組み合わせて、使いこなす必要がある」
僕は頷いた。
「じゃあ、もっと戦う」
「そうだ」
「もっと食べる」
「……」
「もっと強くなる」
クロガネは初めて、少しだけ笑った。
「その意気だ」
その日から、
僕はさらに多くの犬と戦った。
水を操る犬。
影に潜る犬。
音を消す犬。
身体を分裂させる犬。
眠りを誘う犬。
それぞれの能力を、
少しずつ捕食した。
僕の【餌】は、
ただ相手を食べる力ではなくなっていった。
戦いの中で相手を観察し、
弱点を見つけ、
必要な能力だけを奪い、
自分の力として組み合わせる。
それが、
僕の新しい戦い方になった。
そして修行を始めてから一か月。
僕は森の広場に立っていた。
周囲には、
これまで戦った犬たちが並んでいる。
僕の身体には、
白刃の牙。
鉄腹の皮膚。
疾走の脚。
嗅界の鼻。
毛壁の防御。
火山の炎。
まだ完全ではない。
でも、最初の僕とは違う。
クロガネが言った。
「コロマル」
「なに?」
「次は、俺と戦う」
空気が変わった。
熊おじが立ち上がる。
「ついにか……」
タロとジロも息を呑む。
僕はクロガネを見る。
「今度は食べられる?」
クロガネは笑った。
「俺の【無食】は、まだお前には破れない」
「やってみないとわからないよ」
僕は牙を見せた。
「だって僕は、いっぱい食べて強くなったから」
クロガネの目が赤く光る。
「ならば見せてみろ」
黒いオーラが森を覆う。
「お前が一か月で、どこまで成長したのかを」
僕は構えた。
お腹が鳴った。
ぐぅぅぅ。
熊おじが叫ぶ。
「戦う前に食うなよ!」
「違うよ」
僕はクロガネを見た。
「これは――」
牙が白く光る。
脚に風が集まる。
口の中に炎が灯る。
「成長したっていう音だよ」
クロガネが笑った。
「面白い」
そして、
僕たちは初めて向かい合った。
餌覚醒したばかりだった僕の、
最初の本格的な試練が始まった。




