番外 フェスエデ日和(5)
ひったくり犯を軍の駐屯所に連れて行き、フェストラントを休める為に休憩室に入れてもらった一行。
とはいえ、アインヤールとイェナーは詳しい話をする為に休憩室を出ていってしまったので、今この場にいるのはエーデとフェストラントの二人だけだ。
イェナーの回復魔術の腕は流石といえる。フェストラントの負った傷は、何事もなかったかのように綺麗に塞がり、起き上がれる状態にまで回復しているのだから。
フェストラントは一向に口を開かない。しびれを切らしたエーデは、怒気を含ませながらフェストラントに詰め寄った。
「おいフェストラント。何故私の腕を引いた。何故私の前に出たんだ」
「す、すみません。断じて、エーデさんの実力を信じていなかったとかではなく……」
──エーデさんの方が何倍も強いし、間に入った俺が邪魔だって。余計な事をしたと分かってる。でも、好きな人が危険な目に遭いそうになっていたら……勝手に身体が動いて……。
分かっている、お前はそういう奴だよな。と、心情を理解する事は出来るようになってしまった。その心遣いは嬉しいものだが、お前が怪我をしてしまっては意味がないのだ。その言葉が、上手く口から出てきてくれない。
「迷惑、でしたよね……本当……。もう、迷惑かけませんので……」
──これは、完全に嫌われたかも……。う、うぅっ、ぇぇぇ……ふぇぇぇえええ……。
エーデはいよいよ限界だった。
エーデに好意を抱いているのに、その想いは一切伝えないようにしている。それどころか、一定の距離を保とうとしているのだから、段々腹立たしく思えてきてしまった。
(そう思ってしまう私も自分勝手なのだろうがな……。もう、認めてしまった方が楽そうだ……)
「……お前は、何故そう自分勝手なんだ……!!」
「えっ……?」
目を瞬かせて戸惑いを顕にしているフェストラントに、エーデは今まで抱いていた気持ちを全てぶつける。
「心の中がうるさいんだよお前は! 私のどこに惚れる要素がある!? って、もう聞いたから答えなくていいんだが! ともかく、十四も年下の男にあれやこれやと褒められると、なんというか照れるんだよ! それなのにお前は表情には一切出さないし、本当に何なんだお前は!」
「え、え、……え?」
フェストラントはさぞ戸惑っている事だろう。やや間があって、フェストラントの心の声が聞こえてきた。
──あれ、俺声に出してエーデさんの事褒めてたっけ……? 心の中がうるさい、って……もしかして心の声が聞こえている?
「そうだよ! 聞こえているんだよ! ずっと!」
心の声に返事をしないようにと気を配っていたが、もう我慢する必要はないだろう。心の中で疑問を述べていたフェストラントの声に、エーデは前のめりになって返答した。
「あ、え、えぇぇぇ!?!?」
──嘘!? じゃあ、今までの俺の妄想とかも全部聞かれてるって事!? は、恥ずかしいっ!!
「全部聞いたよ! ……私はな、お前が思っている程いい女じゃないんだよ。こうして心の声が聞こえるから、不信感にだって陥るさ。城の魔物から恐れられている事も知っているし、だから極力関わりも持ちたくない。なのに……なのにお前は! 一定の距離を保ちつつこちらを観察して!! ハッキリ言って気持ち悪いぞ!!」
「き、気持ち悪い……」
フェストラントはショックを受けたように顔を青くしているが、事実なのだから仕方ない。
しかし、そんな彼を好いてしまったのも、また事実なのだ。
「そうだ! 気持ち悪い! 三十手前の女の心を弄びやがって! 柄にもなくドキッとさせやがって!!」
「だ、断じてそのような事は……って、え?」
顔を真っ青にしていたフェストラントは、後半のエーデの言葉に反応する。
エーデ自身、勢いに任せて言ってしまったので、今になって恥ずかしさが込み上げてきている。
「エーデさん……今……」
本当なんですか、とでも言いたげに、フェストラントはまじまじとこちらを見つめてくる。自分の告白とフェストラントの視線に耐え切れなくなって、エーデは視線を逸らしてしまった。
「………………うるさい、私だって好意を伝え続けられたら、そういう気にもなるんだよ」
「……そ、それって」
「な、何も言うな。顔も見るな。小っ恥ずかしくて仕方ない」
心の声を聞く事はあっても、エーデの心の内を曝け出したのは珍しい事だった。顔が熱くて、心臓が張り裂けそうな位音を立てて動いている。
今までに経験した事のない状況に戸惑いつつも、エーデはフェストラントの反応を待つしかなかった。
「…………エーデさん……」
すぐ近くから、声がした。
「……好きです……めちゃくちゃ、大好きなんです……なんか、他の事が考えられなくなる位、エーデさんが好きなんです……!!」
フェストラントは顔を真っ赤にして、そう言った。いつもの落ち着いた外面とは違って、年相応な雰囲気を纏っているような気がする。
「……その言葉が、聞きたかったよ……」
心の中で紡がれるエーデへの好意は沢山聞いたが、フェストラントの口から紡がれる好意は初めてだ。
直接言われると余計に恥ずかしくて、でもそれ以上に嬉しかった。そしてそれは、思わぬ形で告白を受けたフェストラントも同様だったようだ。
「嬉し過ぎて吐きそうです」
「吐くな」
「えへへ……幸せだ……こんな事って、あっていいんでしょうか……」
「いいんだよ。私も、幸せ……だからな」
やはり、言葉にするには少し恥ずかしい気がするが、好意を伝えあった今なら自然と口に出来る気がした。
二人きりの休憩室で、どちらからともなく微笑み合ったのだった。




