いつも隣に
半年後に開催される大会で優秀な成績を収めれば、ヤヌアールは晴れて軍に所属する事が出来る。
元々、人よりも抜きん出た才能があったとはいえ、毎日訓練を積んでいた訳ではない。
毎日継続していた筋トレもプラスのメニューが追加され、腕がちぎれそうになるまで素振りをした後で、父と手合わせをする。
正直、キツい。
毎日筋肉痛だ。体力がついてきたかと思えば、メニュー量を増やされての繰り返しで、家に帰っては気絶するかのように眠ってしまう。
しかし、全ては半年後に迫っている試験の為。弱音は吐いていられない。傷だらけになりながらも父から言われたメニューをこなし、時には店の手伝いもして日々を過ごしていった。
半年後の試験。
軽く筋肉痛が残っていたのだが、緊張感の方が勝っていてそれ所ではなかった。試験は参加者(およそ五十人)を全て倒した者が優勝、という至極単純なもの。
シュトラントの形見のコートを羽織って、剣を片手に試験に臨んだ。父の言った通り、名だたる猛者達揃いで、試験中何度も「負けるかも」と思ってしまったが、その度に、シュトラントに励まされたような気がして、挫けずに刃を振るう事が出来た。
結果、最後まで立っていたのはヤヌアールだった。それは、軍に所属出来る唯一の資格を手に入れたという事。
ヤヌアールは晴れて、軍人になれたのだ。
優勝した者が貰えるという書状を受け取り、会場だった魔王城の外に出るなり、見守ってくれていた両親がそっと頭を撫でてくれる。
正直言うと、実感はまだないのだが、心の底から嬉しくて。
父の指導のおかげもあるだろうが、優勝出来た事が嬉しくて。シュトラントの夢を叶える事が出来そうで、薄らと涙が浮かんできてしまう。
明日から、ヤヌアールはこの世界の為に戦っていく。
──これから、始まるのだ。
※※※※※
ヤヌアールが軍人として働き始めて、どの位の月日が流れただろうか。全員参加の訓練を終えたヤヌアールは、城内にある庭園のベンチに腰掛けていた。
「やっちゃん! ぼーっとして大丈夫ですかです?」
「あ、あぁ……すまない。大丈夫だよ」
ぼんやりとしていると、傍らから顔を覗き込まれて少しだけ身を引く。友人のフリューリングが心配そうに眉尻を下げながら、ヤヌアールの隣に腰掛けた。
「こうして会ってお喋りするのも、久し振りに感じてしまいますです。やっちゃんの勇姿、聞いていますです!」
「は、恥ずかしいな……」
「……そういえば、やっちゃんが自分の事を『俺』と呼ぶようになったのも、その位でしたかね……」
しみじみとした様子で、フリューリングは口にする。あまり意識した訳ではないが、最近は自身の事を『俺』と呼ぶ事が多くなっていた。
「家族の前では『私』だよ。ただ、何だろうな……。気合いが入るんだ」
「気合い、ですかです?」
「あぁ。なんだか、強くなれたような気がするから」
「きっと、シュトラントさんが力を貸してくれているんですねです! これからも、応援していますです!」
励ますように、ヤヌアールの手を握ってフリューリングは微笑んだ。こうして気にかけてくれる友人の優しさに、胸が温かくなるのが分かった。ヤヌアールも、自然と顔を綻ばせてしまう。
「ありがとう、フリューリング」
本当はもう少し、彼女と話をしていたいが、これから見回りがある。時間前に集合場所に行かなければならないので、名残惜しくもヤヌアールはベンチから立ち上がった。
「もう行くよ。これから仕事なんだ」
「はいっ。また時間が出来たら女子会しましょうです!」
「あぁ!」
フリューリングに手を振って、ヤヌアールはその場を去った。
──長いグレーの髪と深みのある赤いコートをたなびかせて歩くのは、後に十勇士の一人として伝説を残す一人の少女。
幼馴染の想いを背負って、彼女は今日も前に進む。




