デート(5)
「………………。」
そのままの体勢で、シュトラントは口を開く。けれど言葉が出てこなくて、一度口を噤んでしまう。
「………………」
しかし、ヤヌアールには伝えると言ってしまった。今更引き下がる事はしたくない。
どう、言葉にすればいいのだろうか。迷って迷って、迷った挙句、シュトラントは病の事を伝えられて一番に抱いた気持ちを口に出した。
「…………何で、俺なんだろう。」
こんな事を言っても、仕方無い筈なのに。誰にでも可能性はあって、それがたまたま自分だっただけなのに。
「…………やりたい事、まだ沢山あるのに……」
軍への所属も決まっていたし、親からも教官からも同期からも期待されていたのに。夢を叶える前にこんな事になってしまうなんて。
「────死にたくない。」
仕方無い、と受け入れられる筈が無い。
一度言葉にしてしまえば、次から次へと本心が溢れてくる。
そろそろ止めておかないと、ヤヌアールに気を遣わせてしまうかもしれない。これ以上口にしたら、二度とヤヌアールの中で「かっこいい幼馴染」と思われなくなるかもしれない。そんな恐怖心とは裏腹に、シュトラントは誰にも言えなかった本心を打ち明けられて、安心感を抱いていた。
ヤヌアールを抱き締める腕に力を込めて、更にぐっと引き寄せる。間違っても顔を見られないように。そして何より、彼女に縋っていたかったのかもしれない。
「死にたくない、死にたくないよ俺は……! でも、そんな事言ったら、父さんも母さんも困るし苦労させちまう……。おじさんやおばさんにも……お前にも……。大切な人に、迷惑掛けたくねぇんだ……」
シュトラントの声はいよいよ震えてきて、頬に涙が伝う感覚もあった。いくら察しの悪いヤヌアールでも、流石に気付いていたのかもしれない。
ヤヌアールはそっと腕を回して、シュトラントの頭を撫でた。小さな子どもをあやすかのように、優しいものだ。
「…………誰も、迷惑だなんて思っていないよ。私も、シュウの事が大切だ。だから、お前が苦しいと思う事は分かち合いたい。大切な人だからこそ、無力だとしても力になりたいと思うんだ」
優しくて、暖かい。ずっとこうしていたい程に、心地良いものだった。
しかし、そろそろ弱い自分は封じ込めたい、という思いも湧き上がってくる。周りに人がいないとはいえ、段々と恥ずかしくなってきた。
自分の気持ちを事細やかに伝えたのは初めての事で、感情の整理もつかなくなりそうだ。
それに、受け入れてくれたヤヌアールの為にも、早くいつもの自分を見せたいと思う。虚勢を張るのではなく、いつも通りの自分として接したかった。
「ヤヌアール」
「何だ……?」
「頼みがある」
しかしどうしても、一つの願望が抑え切れなかった。
「最後の我儘だ」
「……最後なんて言わず、何個でも言ってくれよ」
「強欲になっちまうから、一つでいいんだよ。……俺が死ぬその時まで、傍にいて欲しい」
もしかすると、この先ずっと見られていたかもしれない彼女の姿を、死ぬその時まで見たいと願ってしまった。
駄目元でもあったが、きっと彼女なら受け入れてくれるかもしれない。そんな微かな希望を抱いて、自分を甘やかしたくなってしまった。
「確かに、強欲な願いだな。けど、勿論だ。ずっと傍にいてやる」
「情けねぇよな……」
「そんな事は無い。そんな所もシュウだろう?」
(駄目だな、俺は……駄目魔物になりそうだ……)
やはり滅多な事は望むべきでは無かったのかもしれない。そうは思いつつも、願いを聞き入れてくれて嬉しい気持ちでいっぱいだった。
「それに言ったじゃないか。お前を受け止める、と」
「……ありがとな……」
幾分か、心が軽くなった気がする。それと同時に、どんな顔をすればいいのか分からなくなったが。
一応、バレないように涙を拭って、いつも通りの笑みをヤヌアールに向けた。多分、いつも通りに笑えていた筈だ。
それでもやはり、ヤヌアールへの想いを伝える事は絶対にしなかった。ここで気持ちを伝えてしまっては、今以上に困らせてしまうだろうから。
告白してしまえば、永遠にヤヌアールを縛り付けてしまう事になるだろうから。それだけは、したくなかったから。




