デート(4)
「シュウ……」
シュトラントから発せられた言葉を聞いたヤヌアールは、何度か目を瞬かせた。まるで、最後の別れの挨拶のような言葉に、さぞ戸惑いを覚えた事だろう。
せいぜい、「何故そんな事を言うんだ」といった返答がくるとしか考えていなかったシュトラントにとって、それは一種の攻撃のようだった。
「私は、お前のそんな所が嫌いだよ。」
鋭利な刃物で斬られたかのような、鈍器で殴られたかのような衝撃。過去一番の致命傷かもしれない。
今し方その言葉を発したヤヌアールは、睨みつけるかのような視線をシュトラントに向けていて。間違いなく、自身に向けてヤヌアールが発した言葉だと自覚させられる。
「……………………え、………………」
自分の中では消化しきれずに、シュトラントは呆けた声を発する事しか出来なかった。
「お前の選択に口出しするつもりは無いし、お前の意志を曲げるような事もしたく無い。でも、そうやって……自分の心を最後まで隠し通そうとするお前は……嫌いだよ」
シュトラントにとっては、自身の一部でも嫌われていた事もショックだったのだが、今にも泣き出しそうな表情のヤヌアールを見て、そんな思考は弾け飛んでいた。
「いつもそうだ……どうしてお前は、本当の事を言ってくれないんだ……?」
それはお前を不安にさせたくなくて。お前にはずっと笑っていて欲しいから。
その言葉を口にする前に、ヤヌアールは叫ぶように言った。
「お前が何を思っているかなんて、言ってくれないと分からないんだ! 誤解したくないんだ……だから、ちゃんと言って欲しい」
「…………でもよ、仕方無い事じゃねぇか。病気なんて誰でもなりうる事だし、運が悪かっただけだよ、きっと」
「ッ────」
ヤヌアールは拳を握って、一歩踏み込んだ。殴られる、と思い身構えたものの、ヤヌアールの拳はシュトラントの身体に当たる事すら無くて。既の所で止められた拳は、ゆっくりと下ろされる。
「嘘をつくな」
絞り出すかのように、ヤヌアールは俯きながら言った。
「何故笑って誤魔化すんだ……そんなに私は頼りないか!?」
「……違う、ヤヌアール」
その姿は、見ているだけで胸が締め付けられそうだった。おもむろに彼女の肩に手を置いて、本心を少しだけ口にする。
「お前に、弱い所を見られたくねぇんだよ……」
ヤヌアールに見られる自分は、いつでもかっこよく在りたい。隣に並んでいて、恥ずかしくない自分でいたいのに。
「幼馴染なんだろ……信用してくれたっていいじゃないか……」
「違う……」
シュトラントは自分の表情を見られなくなくて、ヤヌアールをそっと抱き寄せた。
やはり、自分よりもずっと小さい。ふわふわと良い匂いがする。
「っ、おいシュウ!」
ヤヌアールは怒っているだろうか、それとも照れているだろうか。自分の表情を見せたくなくて抱き締めてしまったが、彼女の表情が見れないのが残念で仕方無い。
戸惑ったようにもぞもぞとシュトラントの腕の中でもがくヤヌアールを押さえて、呟くように言った。
「言ったら、止まらなくなる。俺はお前に幻滅されたくない……」
「……そんな程度で幻滅するなら、私は今の言葉を口にしていない」
身動ぎしていたヤヌアールはピタリと動きを止めて、優しい声色で言ってくれる。
「私だって、シュウを受け止める覚悟を決めているんだ。お前の為なら何だってするよ」
「軽々しくそういう事言うなよ」
思わずドキッ、としてしまったではないか。それは自分の中に隠しておく事にして、シュトラントは心を決めた。
「……分かった。お前にそこまで言われちゃあ、ちゃんと俺の気持ち伝えなきゃな……。けど、俺の方は見ないで欲しい」
「……分かった」
情けなくも、顔を見られる事は最後まで避けたかった。シュトラントの最後の意地だったのかもしれない。




