デート準備
「それはデートですねです」
シュトラントと二人で出掛ける事になったものの、彼に「それはデートって解釈でいいのか?」と聞かれたヤヌアールは、それは違うだろうと数少ない友人に事の旨を話した。
しかしフリューリングはヤヌアールの話を聞いて考える素振りすら見せずに、即答したのだった。
世間一般的に、二人で出掛ける事はデート、というらしいが、納得がいかずに声を上げてしまう。
「なぁっ!? た、たかが男女が一緒に出歩くだけでデートになるなんて聞いてないぞ!?」
「男女じゃなくてもデートかもしれないじゃないですかです。しかし驚きですです。やっちゃんからお誘いしていたなんてです」
「正しくは、誘い直したんだ。なぁなぁにされるのは嫌だったから……」
思わぬ形で知ってしまい、シュトラントにも焦りを与えてしまった事だろう。軽快そうに見えて、実は繊細な男である彼と気まずい雰囲気になりたくなくて、半ば勢いに任せたところもあるのだが。
「ふむふむ。わたしはやっちゃん達の事情に介入する程では無いので、詳しくは聞かないでおきますです。とはいえ、シュトラントさんの噂は城内でも持ち切りですです」
「そうなのか?」
「はいです。何せシュトラントさんは、期待の新人さんでしたからです。わたしも最近知ったのですが、魔王様が王子様の護衛役に考えていた程なんですです」
「それは凄いな……流石シュウだ……」
病気の事さえなければ、出世街道まっしぐらだったのだろうか。どうにも出来ない事だが、シュトラントの実力を知っているヤヌアールは現状が歯痒くて仕方が無い。
思わず拳を握り締めていると、見かねたフリューリングがわざとらしく可愛い咳払いをした。
「……コホン。お話は戻しますがです。まさかとは思いますが、やっちゃん。流石にデートでその服装で行くつもりではありませんですよねです」
フリューリングの言うその服装とは。
仕事上動きやすく、汚れても問題無いものを着回している。シャツとミニスカートを指しているのだろう。
「だ、駄目か……? こんなのしか持ってないんだが……」
「ダメに決まってるですです! 色褪せしたシャツにどこにでも売っているようなスカートに色気の無い分厚いタイツに土に塗れたブーツ! 私がやっちゃんの恋人だったら唾吐いて帰りますです!!」
ビシビシとダメ出しされて、ヤヌアールの心に何かが深く突き刺さった気がした。
「えっ!?!? そんなに酷いのか!?!?」
「と、これはかなり大袈裟に言いましたが……お出掛けというにはそれ相応の正装というものがありますです。少なくとも田舎娘から町娘には脱却しないといけませんです」
「うっっっ」
田舎娘、とは幼い頃よく言われたものだ。そして今も時たま言われているような気がする。
自覚があるし、ヤヌアールは可愛いものや流行に興味もあるが、どうしても後に回してしまう。故に、進んでそういったものを取り入れる事はしてこなかったのだ。
しかし今回、完膚なきまでに指摘されて、目を逸らす事が出来なくなってしまった。
「どうすればいいのか教えてくれ……フリューリング先生」
「宜しいです。そのやる気さえあれば、皆可愛くなれますです! 当日、やっちゃんに似合うコーディネートをしてみせるです!」
「い、いいのか!?」
「実家が服屋ですからねです! プライドもありますし、任せて欲しいですです!」
ぐっ、と親指をたてて自信満々にウインクしてみせるフリューリング。彼女自身もオシャレには敏感な事は知っていたので、とてつもなく安心感が芽生えてきた。
「出来るだけ安い物で頼む……それと、いざとなったら大股で走れるような動きやすい物を……」
「何故大股で走る予定があるんですです? ……とはいえ、理由は聞かないと言いましたです。では当日、シュトラントさんを惚れさせてやりましょうです!」
「だ、から……そういうのじゃ無いってば!!」
くすくす、とフリューリングは小さく笑う。
翌日に会う約束を取り付けて、出掛ける為の服を見立ててもらう事となった。
そして、デート当日────。




