真実
「あれ、ねぇ君!」
家に戻る途中で、ヤヌアールはふと声を掛けられた。振り返るとそこには、二人の青年が立っていた。
「……え、私?」
見覚えの無い姿に戸惑いを覚えていると、
「そうそう。この間訓練場に来てたよね。ヤヌアールさん……だっけ」
と、言われる。
ヤヌアールには一切覚えが無いのだが、彼等が名前を知っている以上、話に応じる他ないようだ。
(自己紹介した覚えは無いんだがな……)
「シュトラントから話聞いてるよ〜。どっか行くの?」
「いえ。今シュウ……シュトラントの家にお見舞いに行ってきたんです」
ヤヌアールのその言葉に、青年二人は顔を見合わせて問い掛ける。
「そうだったんだ。シュトラントの調子……どうだった?」
「合宿中に吐血して倒れてから姿見てねぇんだよ、俺等」
「折角成績トップで所属も決まりそうだったのに、軍も辞めちまったし……」
「え…………!?」
青年二人の思わぬ発言に、ヤヌアールは一瞬理解が遅れた。
シュトラントは合宿中に、怪我をして帰ってきたと聞いていた。しかし、今目の前に立っている青年ははっきりと「吐血して倒れた」と言った。
それに、軍を辞めたというのはどういう事なのだろうか。シュトラントはそのような事を、一度も口にしていない。
「と、吐血? 倒れた? シュウは怪我をしたんじゃ……」
「え? いや、体調崩して倒れたんだよ、アイツ」
「結構ヤバそうだったよ。魔力が少なくなってて……。あれ、聞いてない?」
合宿に参加していた彼等が、冗談を言っているようには思えなかった。
「そんな……まさか、……何ともないって……。本当なんですか?」
ヤヌアールがそう聞くと、青年は一瞬言うのを躊躇うかのように口を結んだ。しかし黙っているのも良くない、と判断したのか、渋々説明を始めてくれる。
「あぁ。教官達が魔力を送ったりしてたのを見たよ。かなり苦しそうだったし、さっきも言ったように魔力が極限まで減ってた。合宿が終わってからも暫く姿を見なかったから、教官に聞いたんだよ。そしたら軍を辞めてて……」
合宿には、ヤヌアールの父も教官として赴いていた。しかし父も、そういった話は一切していない。
問診に行ったという母も、もしかして知っていたのではないだろうか。そんな疑問がヤヌアールの頭をよぎる。
いてもたってもいられなくて、ヤヌアールはその場から駆け出した。
「あ、ちょっ、ヤヌアールさん!?」
青年二人の引き止めるような声が聞こえてきたが、追いかけては来なかったので無視してシュトラントの家へと向かう。
(嘘だ……あのシュウが……)
頭の中がこんがらがって、気分が重くなっていく。
(さっきだって、何でもないように笑っていたじゃないか……)
あの笑みは、嘘だったのだろうか。
ヤヌアールが感じていた違和感は本物で、自分だけが何も知らなかったのだろうか。
そう考えれば考える程、焦りが渦巻いていく。
シュトラントの家に戻ってきて、ノックもせずにヤヌアールは扉を押し開けた。
「お邪魔します!」
「や、ヤヌアールちゃん!?」
丁度、シュトラントの部屋から出てきたフェストラントと目が合った。彼の手には、血のようなものが付着したタオルが握られていて。
嫌な予感が、ヤヌアールの脳裏を過った。
「ちょ、ちょっと今手が離せなくて……」
「シュウ!!」
「あっ────」
フェストラントの制止を振り切って、ヤヌアールはシュトラントの部屋に入室する。パッとヤヌアールの声に気が付いたシュトラントが、ゆっくりと顔を上げた。
「ヤ、ヌア……」
咳き込む度に、シュトラントの口から真っ赤な血が溢れ出て。ヤヌアールの全身から、血の気が引いたような気がした。
しかし次の瞬間、シュトラントは気を失ったのか床に倒れ込んでしまう。
「シュウ!!」
ヤヌアールは慌てて、倒れたシュトラントに駆け寄った。




