見舞い
配達から帰宅すると、店が『CLOSE』になっていた。まだ閉店時間では無いのに、何かあったのだろうか。
そう不審に思っていると、母が黒い鞄を片手に帰ってきた。あの鞄は、医療器具等が入っている筈だが、往診にでも行ってきたのだろうか。
「ヤヌア、配達ありがとう。助かったわぁ」
「あぁ……それはいいんだが、どうしたんだ?」
「実はシュウ君が怪我をしたみたいでねぇ。診に行ってたのよ」
「シュウが怪我!?」
思わぬ言葉に、ヤヌアールはつい声を張り上げてしまう。
「病院には行ったそうだけど、一応ね。配達ご苦労様。今日はもうお店閉めてるから、先に休んでていいわよぉ」
「そ、それよりもシュウは大丈夫なのか!? 怪我って……途中で帰ってくる程大きな怪我なのか?」
かすり傷程度ならば、シュトラントは笑い飛ばしている筈だ。しかし、合宿から途中で帰ってくる程重症なのかもしれない、と考えると気が気でなかった。
「まぁ、安静にしていればすぐに良くなるわぁ」
ヤヌアール自身、母の医者としての実力は知っているつもりだ。だからこそ診断結果を疑うつもりはないし、信頼もしている。
「近々お見舞いに行ってあげてね。そして……ちゃんと、彼の話を聞いてあげて」
しかし付け足すように告げられたその言葉には、違和感を抱いてしまった。
「あ、あぁ……それは、勿論……」
ヤヌアールの返事を聞いて、安堵したように微笑んだイェナー。やはりその行動に疑問を覚え、ヤヌアールは胸の内で不安が募るのを感じた。
(大丈夫……、だよな……)
明日にでも様子を見に行こう。一旦そう区切りをつけて家の中へと戻ったのだった。
※※※※※
翌日、昼から休みを貰ったヤヌアールは、見舞い用の花を片手にシュトラントの家に訪れた。見舞いに来た事を伝えると、エーデは快く通してくれる。シュトラントの部屋の扉をノックして、返事が返ってきてから入室した。
いつ来ても殺風景に思える部屋だ。
壁の一部に掛けられているカーテンが不自然に思えて仕方無いのだが、一応人の部屋なので物色するのも失礼だろう、と気にしない事にしておく。
「シュウ、怪我の具合はどうだ?」
「よぉヤヌアール。安静にしていれば問題無いらしい」
ベッドの上で読書をしていたシュトラントを見て、ヤヌアールは酷く安心感を抱いた。
「良かった。合宿を途中で抜けてきたと聞いたから、驚いたぞ」
「そりゃあ悪かったな」
持ってきた花を渡し、いくつか言葉を交わした後で、シュトラントは途端に顔から笑みを消し去った。
「……あのさ、大事な話があるんだ……」
「うん? 何だ?」
いつになく真剣な面持ちに、少しだけ緊張してしまう。
「俺、本当は……」
「うん?」
「……じゃなくて……」
誤魔化すように首を横に振ってから、シュトラントはずいっと身を乗り出した。
「こ……今度、街にでも行かないか?」
「は、はぁ?」
「お前さん誕生日も近いだろ!? 毎年プレゼント送るしか出来てねぇし、たまにはパーッと遊んだりもしたいだろ?」
「せめて怪我の方を治してから誘ってくれよ……」
彼のその誘いには、呆れるしか無かった。
しかし鈍感なヤヌアールでも、シュトラントの様子がおかしい事には気付いている。
ヤヌアールはシュトラントの口から、愚痴や悩みの類を聞いた事が無い。だが、時折何かを誤魔化すように笑う表情が、ヤヌアールは気掛かりだった。
今回もそうだ。シュトラントは確実に何かを言うつもりでいた。そして途中で誤魔化した。
それはきっと、彼の中で、ヤヌアールに言うべきではないと判断されたから。だからこそ、彼女は深く追及する事をしない。
シュトラントからの誘いを断る理由も無いので、ヤヌアールは了承する。
「だがそうだな……お前と二人で出掛けるというのは無かったし。ちゃんとそれまでに治しておいてくれよ」
「あ、あぁ……勿論だ」
やはり、妙な間があったような気がする。
不審に思いつつも、きっと彼の方から話してくれるだろう。ヤヌアールはそう信じる事にした。
「それじゃあまた来るよ。お大事に」
「ありがとな。また来てくれ。超元気になるからさ」
「何だそれは」
最後にはいつもの調子に戻っていた。
それを見て少しばかり安心感を抱く。またお土産を持って来よう、と思いながら、ヤヌアールはシュトラントの部屋を後にした。
静けさに包まれた自室で一人、シュトラントは呟いた。
「……言える訳、ねぇな……これは……」




