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シュトヤヌ日和  作者: 京町ミヤ
22/47

シュトラントの決断

「俺、家で安静にしておくよ」


シュトラントは静かに、そう口にした。


少しでも助かる確率があるのならば、そちらを撮るものと思っていたので、三人は彼の決断に驚きを隠せないでいた。


中でもフェストラントは、


「シュウ! どうして……助かる確率があるなら、そっちに賭けた方がいい筈だよ!?」


と、シュトラントの肩を強く掴んで説得を試みる程だった。しかしシュトラントの意思は変わらず、真っ直ぐに父の瞳を見据えている。


「でも、死ぬかもしれない」


「それは……」


「……まずは、どうしてその答えを出したのか聞こうか」


フェストラントを窘めながら、エーデが問う。一度頷いてから、シュトラントは語り始めた。


「研究施設に行ったとして、運良く助かるかもしれない。もし俺が死んだとしても、他の病気の人が治る為に貢献出来るかもしれない。」


でも、とシュトラントは続ける。


「俺は……ここにいたい」


それは、シュトラントの我儘だったのかもしれない。勿論、まだ死にたくはないし、延命出来る方法があるのなら可能性に賭けてみたい。


それでも、シュトラント自身はここに残る事を望んでいた。


「短くてもいい。父さんや母さん、おばさんやおじさん、ヤヌアールとも……生まれた場所で、最後を迎えたい」


「なん、で……そんな、死ぬみたいに言うんだよ……」


「簡単には死なねぇよ、父さん。……ただ、これは俺の我儘だ。父さん達がどうしてもって言うなら、俺は研究施設に行くよ」


「でも、何もしなければ死ぬかもしれなくて──」


「本当に、それでいいんだね」


戸惑うフェストラントの言葉を遮って、エーデは確かめるように問う。それに対して、シュトラントも意思の籠った目を母に向けた。


「あぁ。決めたよ」


「…………フェストラント。シュトラントは私達の子供だが、もう大人なんだ。コイツの意志を尊重しよう」


そして、エーデはシュトラントの意思を尊重すると決めた。

フェストラントだって、出来れば息子の決めた事に口を出したくは無い。しかしこれは生死に関わる問題で、シュトラントだけの話では無いのだ。


フェストラントは悲痛そうに眉根を寄せて、今にも零れそうな程に目に涙を浮かべて、その場に膝を着いた。


「分かってるよ……でも、嫌だよ……どうしてシュウなんだ……」


「…………嘆いても仕方無いさ……。運命、ってやつだろう……」


そう言うエーデの声色も、どこか震えていた。


これまで、数え切れない程の患者を診てきたイェナーだ。こうした場面には、何度も遭遇している。慣れる事は無いが、だからこそ医者の立場であるイェナーは冷静でいなければならない。


その場では何も言わずに、道具を片して静かに帰る事にする。しかし玄関のドアノブに手をかけた所で、背後からシュトラントの声がした。


「おばさん。嘘だろ、半々って」


ピタリ、と。イェナーは動きを一瞬止めてしまう。そこからゆっくり振り返って、いつも通りの笑みを浮かべて聞き返した。


「あらぁ……どうしてそう思うのかしら」


「安静にしてるしか対策がないのに、助かる確率なんて無いに決まってるだろ?」


「………………」


失望している訳でも、前向きになっている訳でも無い。


シュトラントの表情は、イェナーからは読み取れないものだった。複雑な心境が織り混ざっている、というよりも、普段通りのものだったからだ。


けれど、その鋭い言葉に、イェナーは黙り込むしか無くて。浮かべていた笑みを消し去ってしまう。


「ごめんなさいね、力になれなくて」


「それこそ仕方無いさ。ヤヌアールには、俺から話すから……まだ黙っといて欲しい」


「分かったわ。シュウ君は訓練中に怪我をして帰ってきた、とでも言っておけばいいかしら」


「そう、だな……。ありがとう、おばさん」


「いいえ。でも気が変わったら、いつでも言ってね」


「……あぁ……」


ドアノブを回して、外に出る。


シュトラントだって、ショックに違いない筈なのに。それを顔にも出さずに、冷静に判断していた。


それは親に心配を掛けたくないからなのか。別の理由があるからなのか。イェナーには分からない。


呆然とその場に立ち尽くした後、思い出したかのように歩き始めたのだった。

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