元医務官の意見
廃棄予定の花で花かんむりを作り、ヤヌアールは店の前を通る学校帰りの子供達にプレゼントする。
すると遠くから、エーデが歩いてきているのが見えた。
「おばさん……どうしたんだ?」
「あぁ……ちょいとイェナーに用事があってね」
「母さんに……?」
「私がどうかしたのかしらぁ?」
名前を呼ばれてか、母が店の奥からひょっこりと姿を見せた。
「『仕事』を頼みたい」
「!」
はて、エーデが母に頼む仕事等あるのだろうか。エーデは元軍人だが、今は家庭を守る主婦だ。
誰かに花でも渡すのだろうか、と疑問に思っていると、イェナーはおもむろにヤヌアールに一枚の紙を手渡した。
「ヤヌア、代わりに配達行ってきてくれるかしらぁ。ちょっと長くなりそうだわ」
「あ、あぁ……それはいいが……」
違和感を覚えつつも、地図と鉢植えを抱え店を後にするヤヌアール。
横目で見た母達の表情は、とても緊迫したものだった。
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「それで、誰が急患なのかしらぁ」
エーデが『仕事』というのは、いわゆる合言葉だ。花屋としての仕事ではなく、元医者としての知識が必要なのだろう。
ヤヌアールの姿が見えなくなってから、イェナーはそう問い掛けた。
「シュトラントだ」
「…………。あらぁ……」
まさか彼女の息子の名前が出て来るとは思わず、イェナーは息を飲んだ。
「エーデちゃんが落ち込んでる様子だったから嫌な予感はしてたけど……よっぽど酷いのかしら」
「やっぱりバレていたか。後天性魔力乖離症候群だとよ。知っているかい」
「えぇ。検査の結果とか、魔力の状態とか、詳しく見る必要はあると思うけれど……」
準備するわね、と一旦その場を離れて、検査に必要な道具を鞄に詰める。店の看板を『CLOSE』にしてから、エーデと共に彼女の家へと向かった。
イェナーの姿を見たシュトラントは驚いたようだったが、ヤヌアールには伝えていない事を告げると、安心したように息をついていた。
専門の装置等は無いが、改めて、イェナーは診察を始める。
彼女は他の医者同様に問診や身体の状態を確認した後、自身の能力を使用し体内の異常を調べるのだ。
数十分後、イェナーは重々しく口を開いた。
「間違い無いわね……」
「そんな……」
「言われたと思うけれど、これは原因不明の病気なの。ごく最近まで体質、もしくは呪いだとか、そういうので片付けられていたから……そもそも病気という概念で存在しなかったのね」
使用した道具を片付けながら、イェナーは説明を続ける。
「やっぱり、私から診ても安静にしてて、としか言えないわ」
「……そっか。わざわざありがとな、おばさん」
「でも、一つ宛があるわ」
イェナーのその言葉に、その場に介していたフェストラントとエーデも大きく反応した。
「ここから離れた地方に、専門の研究施設があるの。ただ、まだ正確な治療法が確立されていないから、認識でいえば危なめの治験みたいなものなのね」
ようは、運良く助かるか、運悪く死ぬかの二択だった。エーデやフェストラントの手前言葉を選んだつもりだが、シュトラント本人にとっても難しい選択だろう。
「知り合いがいるから、紹介する事は簡単よ。何より珍しい症例だから、受け入れて貰えない、というのはまずないわね」
「……おばさんは……、それで俺が助かると思うか……?」
恐る恐る、といった様子で。シュトラントは問い掛けた。
「……半々ね」
これは、多く見積った。本当ならば、助かる確率は二割にも満たない。しかしイェナーは、そう言ってしまった。
「……研究施設に行けば五分五分で助かる……か……」
数分の沈黙の後、シュトラントはゆっくりと口を開いた。




