相談
帰宅したシュトラントは、診察結果を母に伝える。父はずっと黙り込んでいて、口を挟む様子は見受けられなかった。
「病気の事に関しては、私よりイェナーの方が詳しいから確かじゃないが……お前はどう思うんだ」
「そりゃ、医者がそう言うならそうなんだろ」
「そうじゃない。症状の話だ」
「あぁ、そっちか。運動をしていたら急に苦しくなった。おじさんの話じゃ、俺は吐血して倒れたらしい」
「…………そうかい」
母はそれ以上、何も言う事は無かった。父のように他の病院へ行こう、とも、治療法があるかも、とも言わず。
しかし変わりにか、今シュトラントが最も聞きたくない話題を振られてしまう。
「お前、それをヤヌアールちゃんには伝えたのかい」
「ちょっ、エーデさん……!」
シュトラントがヤヌアールに好意を寄せているのは、両親は勿論の事、彼女の両親も知っている。幼馴染に、そして意中の人に「自分はもうすぐ死ぬかもしれない」とはとても言う気にはならなかった。
「…………それは……えっと……」
「アインヤールが軽々と口にする男ではないのは知っているが……どうするんだい。話すのか、黙っているのか」
「────」
答えが見付からなかった。
病気の事を話したとして、ヤヌアールはどう反応するのだろうか。
きっと、ショックを受けるに違いない。
「……今はまだ……、言いたくない」
「……そうかい。じゃあ、奴には口止めしておかないとね。でも……タイミングを見計らって、ちゃんと伝えるんだよ」
シュトラントとて、何も言わずにいるのも気が引ける。頷きを返して、着替えるべく自室へと戻って行った。
静けさが戻ったリビングに取り残されたエーデとフェストラントは、どちらからともなく視線を向けた。
「フェストラント。私はイェナーの所へ行ってくる。お前はシュトラントの様子を見ておけ」
「えっ、まさか言うつもりじゃ……」
「ヤヌアールちゃんには言わないよ。だからこそだ。それに、元とはいえイェナーは医務官だぞ。魔王様専属のな」
それはつまり、かつては魔界で一番優れた医者だったという事を指す。結婚を機に引退した彼女だが、現在もその知識を深めていると以前耳にした。
「相談する程度さ。くれぐれも運動なんてさせるなよ」
「わ、分かった……」
「……フェストラント」
家を出る直前で、エーデはふと呟いた。
「私は……、無情に見えたか……」
「…………いいや、きっと……シュウにとっては、有難かったと思うよ」
エーデもフェストラント同様に、ショックを受けていたし、嘘だと嘆きたかった。けれど感傷に浸るのは今では無いと判断したのだ。
今は、出来る限りの事をしてやる時だ。情報を集め、出来うる対策を講じないと。
「…………そうか……。では、行ってくる」
「うん……行ってらっしゃい」
一度だけ心を落ち着かせるべく深呼吸をして、エーデは家を出たのだった。




