魔力乖離症候群
「後天性魔力乖離症候群ですね」
途中で父と合流して、シュトラントは近所の町医者の男性からそう告げられた。
「魔力、乖離……?」
「そもそもこの病気……と言いますか、体質ですね。は、生まれつき……先天性のものが殆どなので、大変珍しい症例です。名前の通り、体内にある魔力が離れ、体外に流れ出てしまう。」
魔力は魔物にとって、血液と同じようなもの。無くては生きていけない、大切なエネルギー源だ。
それは自分の意思によって操る事が出来るのだが……。
「シュトラントさんの場合、軽い運動で急激に魔力が分離してしまう。貧血症状や倦怠感も、突然の体質変化に身体がついていかなかったからでしょう」
「じゃあ、今回倒れたのは……」
「激しい運動に耐えられなかったからでしょうね。むしろ、今まで死ななかったのが奇跡な位ですよ」
それは、遠回しな処刑宣告だった。訓練は勿論、正式に軍に所属するとなれば、当然毎日のように剣を振るう可能性の方が高い。
(……諦めろ、って……事か……)
命を優先するのなら、その道しか無かった。
「な、治るんですよね、それ……。ちゃんと治療して元気になれば──」
「残念ですが、此方の病は未だ原因不明……不治の病とも言われています。先程申し上げた通り、後天性のものは更に珍しいので……大変言い難いのですが……」
──正直、いつ寿命を迎えてもおかしくは無いです。
父の言葉を遮って告げられたその言葉は、紛れもない処刑宣告だった。
耳にした瞬間は「あぁ、俺はいつ死んでもおかしくは無いのか」と、どこか納得すらしていた。気管支が狭まり、視界が真っ暗になって、どうしようもない程の苦しさをさっき経験したばかりだから。
自分の身体の事は、自分が理解している。正にそんな言葉がぴったりだった。
「う、嘘……何か方法は……」
「…………残念ながら、安静にするしか具体的な方法は無いかと」
「そんなっ……」
「父さん」
慌てふためく父を呼んで、シュトラントは笑みを向ける。
「仕方ねぇよ、病気ならさ。皆いつかは死んじまうんだし…………安静にしていれば、まぁ大丈夫なんだろ? ならそうするよ」
「でもシュトラント!」
「ありがとな、先生。また来るから、そん時はよろしくな」
「…………お大事に」
半ば無理矢理父を連れ出して、シュトラントは家に向かって歩き始める。あの場にい続けては、父は医者を責めかねなかった。優しい父だからこそ、息子の為に声を荒らげてしまうから。そんな姿を、シュトラントは見たくなかった。
「待ってシュトラント! なぁ、もう一件別の所へ行ってみないか? もしかしたら誤診かもしれないし……別の所じゃあ何か治療法があるかもしれない」
「…………それで、父さんは満足するか?」
我ながら、酷い言葉だと思う。フェストラントはただ、シュトラントの事を思ってそう提案してくれただけなのだから。
「お前……」
「……落ち着こうぜ。動揺してたら思わぬ結果を招く事になっちまう。まずは診断結果を母さんに報告、その後連絡入れるから……。そんで、調べていけばいい……」
「…………。そうだね……ごめんね。一番辛いのはお前なのに」
「むしろ納得いったよ。大丈夫だよ、父さん。意外と何とかなるもんだぜ」
父と並んで家までの道のりをゆっくりと歩く。
いつもより、ゆっくりと。




