辞退
目が覚めた時には、怪我人用に設置されたテントの中の簡易ベッドの上にいた。
倒れる直前と体調は変わらず、辛うじて意識が鮮明にある事位しか変化は無かった。
「シュウ君…………!」
テントの中に、指導係としてやって来ていたアインヤールが駆け込んでくる。
「おじさん……」
「……体調が、悪かった……? 血を吐いた、って聞いたけど…………」
「え…………」
アインヤールに言われて始めて、シュトラントは口の中がほんのりと鉄臭いのを感じた。よく見れば、手の平やシャツにも血と思わしき液体が乾いたような跡がある。
「……魔力が、極限まで減っていたそうだよ…………?」
魔力は体力に比例するもの。
運動して体力を消費すれば、それに倣って魔力も減少する。それは逆も然りだ。
しかしこの訓練では身体強化が主なので、当然魔力を使う事は無い。という事は、体力が異常に減っていたと言う事なのだが……。
「そんなに……キツかった……?」
アインヤールの言う通り、以前のシュトラントであればこの位の訓練で倒れるなんて事は有り得なかった。ましてや、まだ三日目。体にも心にもまだ余裕がある筈なのに。
「…………最近、妙に疲れやすいとは思っていたが……。通常の訓練では、差し支えない程度だったし……そんな急に魔力が減るなんて事あるのか……?」
「…………まさか…………」
アインヤールの顔色が、ほんの少し変化した。何か心当たりでもあるのだろうか。
「おじさん、何か知ってるのか?」
「………………本当かは、分からないので……一度、お医者さんに見てもらった方がいいかと、思います…………」
「そ、そんなに……?」
「今回の合宿は、もう辞めておいた方がいいかと思います…………。下手をすれば、今度は倒れるだけじゃないかもしれない…………」
アインヤールの言う通りだった。
突然息苦しくなって、自分が自分で無くなりそうな感覚は鮮明に残っている。だからこそ、シュトラントはそこそこの恐怖感を抱いていた。
「…………分かった……。帰る前に医者に診てもらうよ」
「途中まで送ります……心配、だから…………」
「…………ありがとうございます」
ヤヌアールが「いってらっしゃい」と送り出してくれただけに、途中で帰るというのは悔しいものだった。しかしかえって迷惑になるかもしれない、と思えば、正解だったのだろう。
荷物を纏めて山を降り、一人町医者の元へと向かった。アインヤールが両親達に連絡を入れてくれるそうで、途中で合流出来るかもしれないとの事。
シュトラントは一人赤い空を見上げながら、締め付けられる胸を抑えた。




