異変
訓練の見学をしてから数日後。
「おはよーさん!」
シャッターを開け、中に仕舞っていた花達を表に出していると、そんな挨拶が聞こえてきた。聞き慣れた声に、ヤヌアールは顔を明るくさせて振り向く。
「おはよう、シュウ」
朝の時間帯に会う事は珍しいので、ヤヌアールは疑問を抱いた。
「今日は休みなのか?」
「いいや、これから訓練だ。何でも山ん中で泊まり込みで行うらしい」
シュトラントは今日から二週間。更に厳しい訓練の為に泊まり込みで山の方へと赴くそう。二週間も彼と会えないのは至極退屈だろうが、仕方の無い事だ。
「それは大変だな」
「て事で、お前の顔を目に焼き付けてから行こうと思ってな」
ニッ、と笑みを浮かべながらシュトラントはそう口にする。彼の言葉に一瞬動揺しつつも、ヤヌアールは咳払いをして彼の腕を小突いてやった。
「意味の分からん事を言うな。早く行かないと、訓練に遅刻するぞ」
「おっと、そうだな。そんじゃ行ってくるわ。帰ってきたらちゃんと労ってくれよ?」
「真面目に頑張ったらな」
「おう! お前も頑張れよ」
手を振り、訓練場に向かって走り出すシュトラントを見送り、ヤヌアールは赤い空を見上げた。
魔界には天気という概念がない。毎日変わらない朝の空だが、その日は何故か、眩しく見えた。
ヤヌアールはぐいっ、と身体を伸ばして準備に取り掛かる。
そして慌てて声を張り上げて、シュトラントの遠い背中に声を掛けた。
「シュウ! 頑張れよ! いってらっしゃい!」
「! おう! 行ってきます!」
声が、届いたらしい。大きく手を振るシュトラントに手を振り返して、今度こそヤヌアールは準備に戻ったのだった。
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────様子が可笑しい。
そう悟るのに、時間は掛からなかった。
子供の頃から体力には自信があったし、日頃の訓練にも付いて行けている。
しかし最近は、よく息切れする事が多くなって。貧血でも起こしたかのように目眩がする事も増えた。
咳も出ていたので風邪かと思っていたが、にしては期間が長い。かれこれ一ヶ月近くはこの調子だ。
合宿三日目にして、とうとう、シュトラントは血を吐いて倒れた。




