名前(1)
ヤヌアールの数少ない友人、メイド見習いのフリューリング。
桃色の髪をツインテールに結んだ、両目の下に三つずつある黒子が特徴の可愛らしい女の子だ。
彼女とは出身地が同じらしく、花の買い出しにやって来る彼女と世間話をしていた事がきっかけだった。
以来、買い物や休日の時に、顔を出しに来てくれる。
「──へぇ〜。ホームパーティーをしたのですかです?」
「あぁ。家族ぐるみで仲が良くてな。恒例行事みたいなものだ」
「楽しそうですです〜! 賑やかなのはワクワクしますです!」
「一度泊まりにも来てくれ。女子会しようじゃないか」
「ぜひぜひですです!」
そうして最近あった事を互いに話し合っていると、訓練帰りのシュトラントの姿が見えた。ヤヌアールと一緒にいるフリューリングが気になっているらしく、怪訝そうに眉を顰めている。
「シュウ! おかえり!」
「お、おう……ただいま。お疲れさん」
「あ、この方がやっちゃんの言っていた方ですかです?」
「やっちゃん…………?」
またもや、シュトラントが眉を顰めた。
やっちゃん、とはフリューリングがヤヌアールにつけたあだ名なのだが、確かに馴染みはないものだろう。
「あぁ、紹介するよ。コイツが私の幼馴染のシュウ……シュトラントだ」
「…………。シュトラントです」
妙によそよそしい態度だ。普段なら明らかに年下に見受けられる者には敬語なんて使わないのに。フリューリングはヤヌアールの二つ年下で、年齢よりも幼く見受けられるので、余計に疑問だった。
「……で、こっちがフリューリング。城のお使いで、よく来てくれるんだ」
「フリューリングですです〜! お城でメイド見習いやってますです!」
「あぁ……それで見た事あるような気がしてたのか。俺も城の訓練場の方で訓練してるから、多分会ったりするかもな」
「軍人さんだったのですかです? もしも会ったらよろしくお願いしますです!」
成程、二人とも魔王城にいる事が多いので、バッタリ会う可能性もあるらしい。魔王城の前を通った事は何度かあるが、中にまでは入った事がないヤヌアールにとっては、少し理解し難い話だった。
(やっぱり、職場が同じだと何かと共通の話題も多いのだろうか……)
そう考えると少し寂しい気がする。幼馴染と友人が話しているだけなのに、胸が締め付けられるような感覚を覚えている事に驚きを隠せなかった。
「あ、やっちゃん、シュトラントさん! わたし、そろそろ戻らなくては、メイド長に叱られてしまうですです! 今日の所はここでお暇させて頂きますです」
「そうか……また来てくれ」
「はいです!」
パタパタ、と荷物を持って魔王城へと走り去っていくフリューリングの背を見つめながら、ヤヌアールは一人溜息をつく。
そしてそれは、シュトラントも同様だった。




